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断末魔

「何をしているお前たち! ヴァルムート人の誇りはないのか!! 今すぐ、裏切り者を殺せ!!」


 攻撃をしかけない9機のゼルク戦闘機に対して、ロウゲンの怒声が飛んだ。すると覚悟を決めたのか、1機が降下を始めると2機3機と後に続いた。


「くっ、くるぞサリア……今までのグリム無人戦闘機に対する戦い方と同じでいい。中に人がいることは気に掛けるな」


 私に向けた言葉だが、アレン自身に言い聞かせている部分もあるのだろう。対グリムの時とは違う緊張感が走る。


 私がイレイズを放てば、人の命が消えてしまう……


 そんな思いが拭えないないまま、5機のゼルクが目前にまで迫ってきた。グリムと違って、射程圏外と思われる距離からルクスを放ってくる。やはり相手も人間、死に対する焦りがそうさせるのだろう。


 そして、それは私も同じだった。イレイズで完全に消し去ったのは2機のみ、もう1機は機体の半分しか消し去ることが出来なかった。そのため、激しく血を吹き出しながら、断末魔の叫びを上げる兵士を見ることになってしまった。


「アレン!!」


 アレンの名を呼ぶ声に振り返ると、アレンが仰向けになって倒れている。アレンのもとへと駆けつけると、ハルキも隣にやってきた。


「だっ、大丈夫かアレン?」


「す、すまん……1機逃してしまった、後を頼めるかサリア……」


 首元に被弾したのだろう、耳の下辺りから大量の血が吹き出している。


「こ、これは酷いな……アレンは俺が先生の元へ連れて行く。――1人で大丈夫か?」


 私は無言で頷くと、再び降下してきた3機のゼルクと向かい合った。


 もう、敵を消し去ることしか考えない……


 今度しくじると、誰かが死ぬ…… 


「サリア! こちらはタイミングを見てアブソルヴェールを張っている! 私たちのことは気にしなくていい!」


「分かった、先生!」


 先程の断末魔が頭をよぎる中、私は夢中でイレイズを放った。

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