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ep65:手紙

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サリアへ


お前が知らなかったことを、書き記しておこうと思う。拙い手紙になると思うが、我慢してもらえると嬉しい。


今から十七年前、私がクアウル避難所、お前たちがアストリア避難所にいた頃の話だ。アストリア避難所は人が増えすぎて、子どもたちのために大人が出ていったことは知っているだろうか? もちろん、お前の両親も例外ではない。まだ三歳だったお前を残して出ていくことは、どれほど辛かったことだろうか。きっと、想像を絶するものだったに違いない。


そして、アストリア避難所を出たお前の両親は、私がいたクアウル避難所へとやってきた。理由は、アストリア避難所に行って、子どもたちを助けて欲しいとのことだ。ソルフィスを使える私なら、アストリア避難所も喜んで受け入れてくれるだろうと。そして、もし生きて戦後を迎えることが出来たら、サリアを引き取ってくれないかと。お前の父であり、私の兄であるグレア゠ストラファードから、そう頼まれたんだ。


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「ちょ、ちょっと待て……エリオンさんはサリアの叔父さんだったってことか……? サリアは知ってたのか!? 先生は!?」


 そう聞くアレンに、私は静かに首を横に振った。


「いや……私もいま初めて知ったよ……エリオンはどの子どもにも、隔てなく優しかったからね……全く、気づかなかったよ。————続きを聞かせてくれるかい? サリア」


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私がいた避難所は崩壊が進んでいたこともあり、そこにいた子どもたちを引き連れ、アストリア避難所に行くことを決めた。ちなみに、その子どもの内の一人はレクトだ。運命とは面白いものだと、改めて思う。そしてたどり着いたアストリアの避難所で、私は初めてミレルさんに出会った。


ミレルさんは昼夜関係なく、量術を放ち続けていた。戦闘機の音が近づくと、アブソルヴェールを唱え、爆撃の音が止むと、ソルフィスを唱えと……

左腕が変色し始めてもアブソルヴェールを唱え続けるミレルさんに、私はひどく感銘を受けた。私もエルシアのために生きたい、そして、エルシアのためなら死んでもいい、そう思えるほどに。


そして、その時から私の迷いは大きくなった。無事にここを出ることが出来たら、サリアを引き取るのか、引き取らないのか。


結局、私は後者を選んだ。ヴァルムートへの復讐を果たすためには、全てを捨てる必要があったからだ。幸いなことに、ミレルさんのもとでサリアが過ごせると知ったことも、決心の後押しになった。


そして、その時の決心は間違っていなかったと、今も思っている。ただひとつ、兄の想いに応えてやれなかったことを除けば。


このまま別れを告げず、出ていくことを許して欲しい。


エリオン゠ストラファード


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「——俺がいま生きていられるのは、ミレル先生のおかげだとばかり思っていた……エリオンさんがいなければ、アストリアの避難所にさえ辿り着いていなかったのか、俺は……」


「いや、レクトくん……その前に、サリアさんのご両親がエリオンさんのもとへ行ったことも大きいです。——ですよね、先生?」


「ああ、確かにそうだね。一つ一つの小さな偶然が重なり合って、今の私たちは生きていられるんだ。——だって、誰が想像出来るんだい? あの避難所にいた五人が、遠くない未来に他の惑星で一緒に過ごしているだなんて」


「本当ですね……私も宇宙人と出会うだなんて、想像も出来なかったし……その上、お兄ちゃんなんて、地球を救ったメンバーの一員になっちゃうんだから……」


「な、なに言ってんだ、俺はただサリアをサポートしただけだ。俺が地球を救っただなんて、大げさすぎるぞ」


「ハルキさんこそ、何を言ってるんだ。あなたは俺たちエルシア人と地球人を救った、立派なヒーローじゃないか。もっと自信を持ってもらって良い。——決して、口外はして欲しくないが」


 アレンのその言葉に、皆は静かに笑った。



「サリアさん……サリアさんは今、どんな気持ちなんですか……?」


「うん……どうだろう、まだ心の整理が付いてない感じ……今まで、血縁者なんて誰一人いないと思って、生きてきたから。——ただ、もしエリオンさんが生きていたら、聞いてみたかった。お父さんのこととか……お、お母さんの——」


 そこまで言ったところで、言葉が喉につかえた。嗚咽がこみ上げ、声にならない。


 どうしてだろう……次から次へと、涙が溢れ出してくる……


 そんな私を、ミツキは優しく抱きしめてくれた。

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