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第3話 俺のために働け

「ひぃいいい!!」


 ルイスが襲ってくるゴブリンを剣で斬り倒す。


 やられたゴブリンは白い煙と化しボンと爆ぜて消える。ドロップアイテムを残して。


「つ、蔓よ! 敵を薙ぎ倒せ! ヴァイン・ウィップ!!」


 展開させた魔術陣から緑色の太い蔓が出現。ルイスの意志通りに横、縦、斜めとゴブリンを薙ぎ倒す。


 場所は昼間の明りが割れた天井から差す洞窟。見通しがよく、奥に控えているザコのゴブリンもわんさか見える。


 ゴブリンを迎え撃つのはさっきから必死に動いているルイス=サラダ。単身で何とか一体ずつ倒している。


「どうだカルヴィナ、最高のシチュエーションだろぉ。愚民が俺たちを奉仕してる姿はぁ」


「ごめんねマルドゥクぅ。私あなたしか見えないのぉ」


 俺とカルヴィナはと言うと、ルイスが戦っている後ろで広げた大きい布に座り、デートを楽しんでいた。


「お~ルイス、がんばれがんばれー」


「ちゅーしよマルドゥクぅ。ねえちゅーしよぉ」


(ほっぺにキスされやがって! こっちは無理やり連れてこられたのにこの仕打ち!? やっぱりマルフォイは最悪な貴族だ!)


 ここは通路が狭い袋小路になっていて退路が無い。現役の中堅パーティーを退けたゴブリンたち。いくら数が多くても、バカなゴブリンは三体や五体しかここを通ってこれない。学生のルイスでも十分対処できる激熱スポットだ。


「うおおおおお! むちゃくちゃだあああああ!!」


 そもそも何故こうなったのか。流れは簡単だ。


 思い立った俺はカルヴィナと共にルイスがいる寮へ殴り込み。驚く部屋着姿のルイスに用意した剣を渡し、こう言った。


「おいザク、親の不始末は子も同罪だ。今から殴り込みに行くぞ!!」


「行くぞぉー!」


「……え?」


 転移魔術で洞窟の袋小路に転移。


「俺が出向いてやったぞゴブリン共ぉおおお!! フー↑ッハッハッハッハッハ!!」


「ちょ。え、ちょ、え、ちょ」


 大声でアピールしゴブリンを引き付けた。


 襲撃には数分余裕があり、落ち着きを取り戻したルイスが生意気にも質問してきた。


「個人レベルでの転移魔術……。マルフォイ、君は今、とんでもない事を――」


「言いふらしたら親より先に墓へ入ってもらう。これは脅しじゃない」


「脅しじゃない!」


(それが脅しじゃないなら何が脅しだよ!!)


 何か言いたげな顔をしていたが、続々と現れるゴブリンを倒すはめになるルイス。


「キキィ!」


「い、意外としぶとい!!」


「それはお前が弱いからだザク。励め励めぇ」


 やろうと思えばこの依頼、群れるゴブリンを一匹残らず掃討し、奥に待ち受けるボスも片付ける。俺なら簡単に終わらせれる。

 だがそんなのは何も面白くない。カルヴィナを楽しませるには不十分。いや、俺が楽しくない。


 考えた結果、親の尻拭いは子がするのが良いと思いルイスを無理やり連れてきた。


「ッハ!! 蔓よ脚に絡め! ヴァインド!!」


 斬り伏せている間に別のゴブリンを足止め。動けなくして的確に倒す。


「ほぉ~」


「ぶちゅ~♡」


 どんくさい奴かと睨んでいたが、思いのほか動けている。


 卒業間近を待つより、こうして経験を積ませ、大成に必要なスキルをより早く覚醒させる……。時期尚早という事もあるまい。生涯俺のザクとして過ごさせるからにはこんな群れ程度……。


「ハアアアア!!」


「ギギィ!?」


 威勢はいい。


 だが――。


「……こいつ」


 俺の眉がピクつく。


 突然連れられゴブリン退治。後ろに退路は無く、出口は到底登れない割れた天井だけ。しかし、ここでゴブリンを相手取れば一体一体確実に倒せる。


「ヴァイン・ウィップ!!」

(倒せる! 切り抜けられる!)


 そう、倒せる。だから汗をかきながら笑みもこぼれる。


「ッハ!」


 余裕がある。


「それ!」


 猶予がある。


「まだまだ!!」


 ゴブリンを倒し自信が付く。授業では滅多に味わえない高揚感がルイスを包んでいる。


 だがそれは――。


「ハァ、ハァ、奥にまだまだ居るけど、マルフォイ、ちょっと一息――」


 戦える俺が後ろに居たからだ。


「――――ぇ」


 後ろを向いたルイス。いるはずの俺とカルヴィナが忽然と姿を消し、呆然と立ち尽くしている。


(なん……で……)


 肩で息をする。後の事などお構いなしのペース配分。自分がどれほど驕った戦い方をしていたか、体中に吹き出る汗で知る事になっただろう。


(置いて、行かれたのか……? 自分たちだけ、転移で逃げたのか……!?)


 しかしゴブリンは待ってくれない。


「ギギィ!」


「ギギィ! ギギィ!」


「クソッ!!」


 襲い来るゴブリン。それを躊躇なく倒すルイス。だが思う様に動かない体。どうしても大降りになり、スキを作ってしまう。

 それを魔術で何とかカバーする。ここからはそう、


 単調な動きと単調な攻撃。それが下級のゴブリン。


 退路も無く、助けも無く、消耗していく体力。


(死にたくないッ! 死にたくないッ!! 死にたくない!!!)


 ルイスの目には今、死神と化したゴブリンの群れが見えている。


「っは、っは、っは、っは」


 この危機的状況で動悸が激しくなっている様だ。


「ルイスっちかわいそ~。ウサギみたいに震えてるぅ」


「カルヴィナ、思っても無い事を建前で言うな。余計に可哀そうだ」


「アハ☆ ばれたかぁ。でもマルドゥクったらニヤニヤしてるじゃん~」


 陽が心地いい割れた天井に転移した俺たち。底で必死に戦うザクの姿が可哀想おもしろくて堪らない。


「せいぜい楽しませるんだなぁルイスぅ! フー↑ ッハッハッハッハッハ!!」


 さて、ボロ雑巾の様に死ぬか、それとも成長するか、楽しみだ。

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