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第17話 ロラン

 ロナルド・ユリウス・"ロラン"・ウィーズリー。


 親しい間柄の友ならば、彼をロラン・ウィーズリーと呼ぶ。


 成績は下から数えた方が早い頭脳。身体能力は至って平凡。むしろ競うなら弱い順位。


「やあおはよう!」


「おはようロラン」


 クラスの正義貴族の生徒たちとの関係は良好であり、特に誰かがロランを睨むことは無い学生生活。


「ッケ」


 否。当然ながら正義の貴族であるからして、悪の貴族たちにはいい思いをされてはいなかった。しかしそれは他の正義貴族と同様であり、さも不自然ではない。


「――ほらたんとお食べ!」


『いただきまーす!』


 ウィーズリー家は第五代ドルイド帝が誕生した時代に貴族の仲間入りに成った、代々正義を重んじる貴族である。


 魔力の内包面や力、体力と言った身体的に尖った貴族では無いが、代々受け継がれる赤毛と青い目、ロランの父や祖父、先人たちから続く政治的、貴族同士の情勢面と言った多方面に力を入れた結果、まとめ役のグラップ家を除けば正義貴族はウィーズリーの名があがるだろう。


「おいそれ僕のだろ!」


「早い者勝ちだって!」


「初動が遅いんだよ初動が!」


「もう、兄さんたちは静かに食べれないの!」


 困ったことがあればウィーズリー家へ。そのジンクスが風に乗る古今故、人情出費がかさむウィーズリー家は貴族の中では比較的質素な暮らしをしている。


「ほらほらケンカしないの!」


『は~い』


 貧しい生活とは無縁だが、必要のない無駄な出費はご法度だと家訓にある。


「――やあヴィンセント」


「ロランか。最近見ないと思ってたけど元気なようだね」


「もちろん! ウィーズリー家は金も権力も他の貴族とは劣るけど、風邪を引かないってのがウリだから!」


「ハハハ。そうだったね。昼食にでもと誘いたいけど、生憎先約があってね……」


「相変わらずヴィンセントは忙しい身だな。じゃあまたの機会にごはん行こうか!」


「ああ! もちろんだよ!」


 がっしりと握手するヴィンセント・グラップとロラン・ウィーズリー。


 学園のお昼休憩。ブロンド髪の鼻筋が通った端麗な顔とそばかすはあるが優しい笑みを浮かべる顔。廊下ですれ違った一幕は一部の女子たちを興奮させるには十分であった。


「♪~~」


「っへ」


「フン」


 しばらく廊下を歩くロラン。壁に背をあずけていた二人の生徒がロランの後ろに着き、待っていたと言わんばかりに並んで共に歩いた。


「今日の夕方に、いつもの場所へと彼を呼んで欲しい」


「わかった」


「了解っと」


 一言だけ呟くと、彼等二人は直進するロランと別れる様に曲がり角を曲がった。


 場面は変わり日が傾き始めた夕方。


 人気ひとけが無い裏手にて。


 ――ドゴ!


「かはッ!?」


 腹に突き刺された脚先によりどさりと膝を着く生徒。腹部を腕で覆い、痛みによって飲むことにできない唾液が地面を濡らす。


「うぅ……! なんでこんなリンチ紛いをッ――」


「うるさい!!」


 ――ッドガ!


「ぐは!?」


 腹部の痛みに耐えながらも睨めつけた男子生徒――レビル・ボトム。彼の瞳には自分を見下しているロランの姿が。


 ボールを蹴る様に再度腹部を蹴るロラン。蹴られたレビルは衝撃により背中を汚してのたうち回る。


「っはは」


「ばか丸出しだな」


 その姿をロランの取り巻きが嘲笑う。


「ック……クソ……」


 震える腕で体を起こし、ドサリとレンガに背中を預けた。


 そのレビルにニヤついた顔で視線を合わせたロラン。


「なんでこんなリンチをするんだと、君は言ったね」


「……ッ」


「その答えは簡単だよ。ほらその猿みたいに小さい脳みそで考えてごらんよ」


「や、やめろよ……!」


 腹部の痛みが引かない悲痛な顔。レビルの頭にロランはツンツンと強く指で押し、レビルは嫌な顔をし手を振って嫌がった。


 そして五秒ほど思い当たる節を考えると。


「……俺が悪の貴族だからか」


「正解!」


 満面の笑みではなまるをあげたロラン。


「でも半分だけだ」


「……なんだと」


 すぐに瞳のハイライトを無くした真顔になるロラン。


「君は僕に対して舌打ちをした。仲のいい友達が周りに居るのに、君は僕に舌打ちをしたんだ」


「……は? なんだよそれ。……そんな理由で寄ってたかってこんな事をッ!!」


「そんな事だって……? そんな事でも悪の貴族は!! 正義の貴族に罰せられるんだ!!」


 ――ッドガ!!


「ぐは!?!?」


 再び腹部に蹴りを入れられた。


 地面にうずくまる。


「君たち悪の貴族はッ!!」


 ――ッドガ!!


「正義の貴族である僕たちにッ!!」


 ――ッドガ!!


「頭を垂れてッ!!」


 ――ッドガ!!


「命乞いするのがッ!!」


 ――ッドガ!!


「お似合いなんだよッ!!」


 ――ッドガ!!


「――くはッごほッごほ!!」


 執拗なまでの蹴りを受けたレビルだが、持ち前のタフさで何とか意識を保っていた。


「気絶させる程に蹴ったけど、魔力を纏っていない蹴りじゃこんなもんかぁ……」


「――フーッフーッフーッ」


 痛みに耐え、呼吸を整えるレビル。うっとおしい羽虫を、ゴミムシを見る様に見下すロラン。その姿と同調する様に、ロランの取り巻きも同じ目でレビルを見た。


 そして唐突に。


「ほら、イイ感じに殴れ」


「よしいくぞー。ッ!」


 ――バキ!


「ッッっとぉ」


 ロランが挑発して取り巻きがロランの顔面を殴る。


 少し態勢を崩したロランだが、口元が切れ血が出ていた。


(こいつら……何をやって……)


 突如仲間同士で殴る。しかも流血した。


 息も絶え絶えなレビルの思考では、ロランたちが何をしているのかまるでわからない。


 しかしその答えは……。


「……おい! 今レビルが俺を殴ったよな!? こんな血まで出るほど殴るなんて!!」


「おいおいレビルぅ。なんでロランを殴ったんだぁ?」


「ふざけるなよレビル!! ロランが何したって言うんだ!」


「な……なに言ってんだよ……」


 レビルの瞳が揺れる。


「正義貴族と悪の貴族! お互いに睨み合っているが気に入らないからって僕にッ! 実力行使が過ぎるぞレビル!!」


「これはイケナイなぁ」


「今回の荒事は報告させてもらう」


 痛がる素振りも無く、被害者面するロランとその取り巻き。実質的被害者のレビルは悟った。


「ふ、ふざけんよ!! 俺をいたぶった挙句! 自作自演で俺を陥れようってか!!」


 ニヤつくロランたちに怒り心頭と震えるレビル。


「俺は睨んで舌打ちをしただけ……ッ。それの報いがこれかッ。どっちが……ッ! どっちが悪の貴族なんだよッ!!」


 レビルの檄は虚しくも虚空に響く。


 ――ッドガ!!


「――カハッ!?」


「黙れよ悪の貴族さん――ッぺ」


 蹴りを入れたロランは、うずくまるレビルに痰を吐いた。


「いやぁ~~グラップ家の猛進様様だな」


 気軽にステップを踏むロランたちは、ルンルン気分でこの場を去った。



「――と言うのが今日の出来事だ。いやはや、昨日報告を受けたのに今日で事を荒立てるとは。不出来な息子にウィーズリー家もいよいよ首が締まるか?」


「……ロラン」


 風の噂。それを見たヴィンセントの表情は、酷く悲しい表情だった。

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