目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第8話 協力プレイ

 壁に叩きつけられた衝撃で全身が痛む。

 だが、起き上がれないほどじゃない。

「ぐっ……」

「ぽぽぽ……ぽっ」


 敵が触手を振りまわし、攻撃の準備に入る。振り回された触手がブンブンと鳴り、こちらを威圧する。


「一果! 逃げてぇ」


 双葉の叫びが聞こえる。

 だが俺は回避できる状況にない。

「くっ……ここまでか……」

「てりゃあああああ!」

「ぽぽっ!?」

 その時。

 魔物に向かっていくつかのボールが投げられた。ボールはぼすっと音を立てて魔物の身体に命中すると、そのまま地面に転がる。

 いじめっ子の郷田たちだ。


 双葉の言いつけを無視して、ここまでやってきたのだ。


「し、死ねぇ化け物!」

「お、俺たちも相手だ!」

「覚悟しろー!」


 郷田たちは震える声で化け物に啖呵を切った。


「ぽぽぽぽ……!」


 魔物がそんな郷田たちをあざ笑う。

 確かに無謀だろう。これはヒーローごっこじゃない。命を懸けた戦いだ。


 だが……その勇気が俺を熱くさせる。


「ぽぽぽ!」

「ひぇ、やっぱ怖い!」


「よくやったお前ら。上出来だ。あとは俺に任せろ」


 俺は立ち上がる。

 不思議だった。ダメージは酷い。骨の何本かは折れているだろう。


 だがアイツらの勇気ある行動を見て……心の奥底から魔力とは違う、何か不思議な力が湧いて出てくる。


「ぽぽ!」


 未だ煽るように揺れる魔物を視界にとらえつつ、俺はの発動準備に入る。


 俺の魔法は一週目の人生で、魔人化したときに手に入れた闇魔法。


 この闇魔法を使えば、この後駆けつけてくるだろう魔法協会への言い訳が面倒……というか大変になる。


 だがそんなことはどうでもいい。


 あのクソ野郎だったいじめっ子たちが男気を見せたんだ。


 ここで俺が出し惜しみするのは……嘘だろ。


「はぁあああ!」


 魔法の発動には一定のプロセスを要する。

 まず体内の魔力を使って魔力細胞を活性化。一気に大量の魔力を生み出す。


 そして溢れんばかりの魔力を魔法へと変換して彫刻刀に注ぐだけ。


「ぽぽぽ~ぽ……ぽ!?」


 余裕からか煽りダンスをしていた魔物だが、俺の爆発的な魔力の上昇に危機感を抱いたようだ。ゆらゆらとむかつく動きをさせていた触手を一端縮め、こちらに攻撃を伸ばす。


「遅ぇよ――貫通ペネトレーター

「ぽっ……ご」


 だがその頃にはもう、俺は敵の懐に入り込んでいた。瞬間的な速度は魔力により爆発的に上がっている。


 刃物に貫通能力を付加する闇の攻撃魔法。そのまま貫通ペネトレーター

 その力を受けた彫刻刀は、まるで豆腐でも突いたかのようにするりと敵の体内に入り込む。


「ぽごおおおおおお」

「これか……これだなぁ!」


 そのまま上部まで引き裂くと、敵の体内でコツンと何かにぶつかった。魔物が必ず体内に持っている核コアだ。これを砕けば、魔物はこの世界で肉体を維持できなくなる。


「はああああああああああ!」

「ぽぽぽおおおおお」


 左手も押し込み、彫刻刀の刃を魔物のコアに打ち込んだ。ガリッという嫌な音と共に、敵のコアにダメージが入る。


「ぽごごご」


 敵の必死の抵抗。髪の毛に似たキショイ触手がぺちぺちと俺に触れる。


 残念ながらそれではダメージにならない。


 俺は構わず握った彫刻刀に力を込める。


 そして――コアが砕け散る。


「ぽ……ぽぽ……ぽぽぽ」


 コアが砕け散った魔物は最後まで気持ち悪い断末魔をあげながら、しゅるしゅると煙を立てて消え去った。


「す、凄い……一果が勝った!」

「はぁはぁ……」


 ケガなのに無理に動いた反動か、全身にもの凄い痛みが走る。だが、不思議と悪い気分ではなかった。それは二週目での初勝利のお陰か。それとも。


「結城くん……君は」

「お前……一体なんなんだよ」


 心配半分、怖さ半分で寄ってきたのだろう。

 いじめっ子の郷田たちが倒れた俺を見下ろしていた。


 限界だった俺は答えない。

 その後、何も言わない郷田たちを押しのけて、橋田知子が近づいてきた。


「結城くん……すごかった。すごかったね」

「お前もよく、頑張ったな。偉いぞ」

「結城くん。助けてくれて、どうもありがとう」

「別にいいって」


 その会話をきっかけに、いじめっ子の郷田たちは堰を切るようにしゃべり始めた。


「うおおおなんだよあれ!」

「ってかあれ何!? 怪異!?」

「SCPだよ。本当にいたんだ!」


 う、うるせぇ。


「お前マジですごい奴だったんだな!」

「最後のあれ、どうやるんだ?」

「今度教えてくれよ」


「ふん……気が向いたらな」


 自分と関係のない人間を助けるなんて意味がない。きっとその考えは、この先も俺の中で変わることはないだろう。


 でも。


 たまには意味のないことをするのも悪くないと、少しだけ思った。


『ほらな。誰かを助けるのも悪くないだろ?』


 親友のしてやったりな声が聞こえた気がして、俺は照れ隠しに「うっせぇ」と呟くのだった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?