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第9話 双葉覚醒

「あ、これヤバいな」


 突如小学校に出現した魔物を撃破した俺たち。

 だが俺はその戦闘で大きなダメージを負ってしまった。


 こんな傷、18歳の俺ならばなんてことはないのだが今の俺は10歳。

 いくら鍛えているとはいっても少しの傷が致命傷になる年頃だ。


 さらには魔法の使用。体に大きく負担がかかれば、動けなくなるのも当然といったところだ。


「痛っ……くそ。こんなんで」

「一果!? 一果!」


 双葉の悲痛な叫び。

 駆け寄ってきた郷田たちも驚きのあまり声を漏らす。


「ひ、ひでぇ傷だ」

「は、早く救急車を」

「わ、わかった」


 意識が遠くなる。

 下手をすれば……このまま死ぬ?


「ダメだよ一果。死んじゃいやだよ……」

「双葉……」


 あ、ダメかもしれない。

 痛いと熱いが混ざったようだった背中から、徐々に全身が冷たくなっていくのを感じる。


 以前一度味わった死の気配がすぐそこまで迫っていた。


「ふ、双葉……す……ごほ」


 最期に双葉に思いを伝えようとして失敗した。


 少し残念だが、双葉に看取られて死ぬってのも案外悪くない。

 そう思った時だった。


「一果は……絶対に死なせない――」


 俺の胸に当てられた双葉の手から強い力を感じた。


 掌を通じて、双葉から俺に魔力が流れてくる。全身の細胞が活性化し、傷が修復されていく。


「はぁはぁ……今のは、私の魔法?」

「そうだよ双葉! 双葉は回復魔法に目覚めたんだ! その証拠に……ほら!」


 俺は双葉を安心させようと、努めて元気よく立ち上がった。


「この通り。回復したぜ」

「よ、よかった~一果~」


 泣きながら双葉に抱き着かれる。

 その様子を郷田たちがニマニマと笑ってみている。


 しっしっ。


 見世物じゃねーぞ。


「それにしても……とんでもないことになっちゃったね」


 橋田知子は教室を見渡して言った。

 机も何もかもがぐちゃぐちゃで、明日から授業どころではないだろう。


「あ、あの……!」

「うん? どうした橋田?」

「えっと。助けてくれて、ありがとう!」

「いいよ別に」


 最初は見捨てようとした手前、恥ずかしくて橋田の顔を見られなかった。

 だが橋田はそんなことは構わないとでも言いたげに続ける。


「あの……結城くんはチョコレートは好き?」

「はぁ? なんだよ突然。どうしてそんなこと答えなきゃいけないんだよ」


「いいから一果。答えてあげて」


 双葉に横からどつかれたので、仕方なく答えることにする。


「まぁ好き」

「そ、そうなんだ! じゃあ再来週は楽しみにしておいてね!」


「……?」

「ふふふ。再来週は女の子の祭典、バレンタインデーなのです」


 困惑する俺に双葉がささやく。


「それが何?」

「もう! 一果のバカ! 鈍いんだから!」

「!?!?」


 ますます訳がわからず、俺が困惑していると」


「な、なぁ。あの怪物は……それにお前たちは何ものなんだよ?」

「正義の味方なの!?」


 さらに混乱している様子の郷田たちが話しかけてきた。

 俺と双葉は顔を見合わせる。

「どしようか?」と双葉が迷っているのがわかる。


 とはいえ説明したところで、コイツらは今日の出来事を忘れるだろう。

 魔力を持たない人間は、魔物に関する事件に巻き込まれたとしても、数日でその記憶を失う。


 いや、失うというよりも「何かそれっぽい」記憶に置き換わると言ったほうが正しいか。


 とにかく、誤魔化さないと。


 そう思って口を開いた時だった。


「うっ!? あああ!?」


 俺の身体に鎖が巻き付き、身動きが取れなくなる。


「一果!?」

「動くな双葉……」


 気づけば俺たちはスーツ姿の男女数人に囲まれていた。


「な、なんだよこいつら!?」

「お巡りさん!?」

「結城くんを放せ!」


 だがスーツ姿の男女は郷田たちの訴えを無視し、計測器で教室の状態を調べている。


「闇の魔力反応確認。魔物のもの以外に……驚いた。この少年のものです」

「ということはこの少年は闇の魔法が使えるのか……君、名前は?」


「結城……一果」


「ほう。結城さんのお子さんですか」

「とはいえ、小学生が闇魔法を使えるのは問題だぞ?」

「うむ……」


 スーツ姿の男女のリーダー格と思われる男はしばらく考えた後、俺たちにこう告げた。


「我々では判断がつかない。すまないが一果君。君には魔法協会本部まで来てもらう」


「魔法協会本部って、パパたちの仕事場だよね?」

「ああ……」


 俺と相性最悪の父。結城召一のいる魔法協会本部。いまから俺は、そこに連行されるらしい。











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