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第10話 魔法協会

 首都高の環状線は「皇居を見下ろしてはいけない」とかで、ところどころで地下に潜る。

 俺を乗せた魔法協会の車は、そんな地下トンネルのとある場所で、急遽壁に向かってハンドルを切った。

 壁にぶつかる! そう思ったが、そこにはさらに地下へと続く道があった。


 普通に走っていてはまず気づかない死角と秘密の通路。


 どうやらこの先が魔法協会の本部へと続いているらしい。


 その後、車は一時間ほど地下を走り普通の駐車場のような場所に到着。

 そこからエレベーターに乗り換え地上へと上がった。


 おそらく霞が関のどこかにあるという魔法協会の本部に到着したのだろう。

 10歳の子供だというのに、常に黒服4人に囲まれての移動だった。


 まず通されたのは病院のような検査室。


 そこで数時間、みっちりと様々な検査を受けた。採血までされた。


 そしてその後、休む暇もなくエレベーターでさらに上の階へと連れていかれる。


「入りたまえ」


 そして、大勢の大人たちが座る会議室のようなところに通された。


「おや……父さん」

「ここでは部長か結城さんと呼びなさい」


 厳しい声でそう言い切ったのは大人たちの中央に座る、俺の親父。

 その名も結城召一。


 魔法協会でも花形部署である特異災害管理部の部長という肩書を持つ男だ。


 他人にも自分にも厳しく、その潔癖さはたとえ身内であっても容赦はない。


 本来魔人にしか扱えないはずの闇の魔法を俺が使用した。その事実の追及がこれから始まる。

 コイツは……結城召一は子供だからといって手を抜くような男じゃない。


「では検査結果を聞こうか」


 静かに、親父はそう言った。すると、若手の女性が緊張した様子で資料を読み上げる。


 おそらくあれは、先ほどの俺の検査結果だろう。


「は、はい。結城一果。部長の息子さんだけあって魔力、身体能力共にかなりの高水準をキープしておりまして……」

「御託はいいから。結果だけを簡潔に」

「し、失礼いたしました」


 地獄みてーな雰囲気。女の人、泣きそうじゃねーか。


「結論から申し上げると、こちらの少年は闇の魔法に適性があることが判明しました」


 大人たちがざわめく。唯一動揺を見せないのは親父のみ。


「ま、魔人にされているとうことは……?」

「ありません。彼は人間です。つまり」

「人間でありならが、闇の魔法に目覚めたということか!」

「あ、ある意味天才なんじゃないのか?」


 困惑ムードは終わり、場は称賛ムードに移りつつあった。


 闇の魔法は非常に強力だ。

 忌避する人間が多いのも、ただ人類の敵である魔人たちしか使えなかったからに他ならない。


 人間側に使い手が現れれば、当然歓迎されるだろう。


 しかし。その雰囲気を打ち切る者がいた。


「闇の魔法は確かに強力だ。しかしその強大な力故に、心を蝕み溺れていく。魔人を見ていればわかるでしょ」


 少し和んでいた場に緊張感が戻る。


「で、ではどうするのですか?」

「貴方の息子さんは闇の魔法の使い手」

「上手く鍛えれば、人類の希望にもなりえる存在ですよ?」


「……」


 親父は目頭を押さえ、考える。


「わかりました。息子のことはしばらく私に預からせてください。一か月ほどで……見極めてみましょう」


 実の息子に対してあんまりな言い方だが、そういえば親父はこういうヤツだった。

 いい意味でも悪い意味でも。


 俺を子ども扱いしない人だった。


「ではついてきなさい」

「はい、父さん」


 親父の後に続き、会議室を出る。もう「部長と呼べ」とは言われなかった。







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