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第13話 見極め

 S級魔法使い九条円の車に乗せられて目的地に向かう最中、彼のスマホに連絡があった。


 どうやら近くで魔物が出現したらしい。


「悪いね一果くん。君を家に送り届けてから……という訳にもいかなくなった。このまま現場に向かわせて貰うよ」

「かまいません」


 俺としては、S級魔法使いのお手並みが拝見できるのはありがたい。


 俺の返答に九条円は満足げに頷く。車はそのままUターン。魔物の出現したポイントまで向かった。




 荒川の河川敷に数台のパトカーが駐まっている。だがこのパトカーも数名の警察官も、魔法協会の偽装か、はたまた息のかかった警察官である。


「状況は?」

「はい。確認された魔物はJP-C002です」

「河童か……ということは被害者がいるね」

「はい。被害者は29歳会社員。朝のジョギング中に襲われたものと思われます」

「ということは、すでに十時間以上も……」


 河童こと、識別番号JP-C002は亀の甲羅のような姿をした寄生型の魔物である。


 C002は人間の背中に張り付き、意識と肉体の支配権を乗っ取る。その後は川辺に潜み、通りかかった人間を遅い、お尻の穴から生体エネルギーを吸い取る。


「一果くん。魔物がどこにいるのかわかるかな?」

「はい。あそこです」


 俺は背の高い雑草の生い茂った箇所を指差した。


「水辺じゃないですね。あの茂みの中から、こちらの様子を窺っています」

「ひぇ!?」


 魔法協会の女性が悲鳴をあげた。人が何人もいたから向こうも手出しをしてこなかったが、もし一人になっていたらあの茂みに引き摺り込まれ、ケツから命を吸われていただろう。


「ほう。魔視ヴィジョンもしっかり使えるようだね。どうだろう一果くん。ここは君に任せてみてもいいだろうか?」

「え?」

「ええええええ!?」


 俺よりも驚いた声をあげたのは、魔法協会の人だった。


「こんな子供に……無茶ですよ!?」

「そんなことはない。この子はこの歳で魔流をマスターし、魔法も使用可能だ。すでに魔物との戦闘も経験済み。それに、何よりあの結城召一の息子さんだよ」

「え……結城さんの!?」


 魔法協会のお姉さんの態度は180°変わり、俺を期待の目で見つめてくる。

 気に食わないが親父のネームバリューは凄いな。


「さて……」


 魔視で得た情報によると、敵は茂みの中で立て膝状態。つまり攻撃が来たらすぐにカウンターできる姿勢で待ち構えている。迂闊な攻撃は命取りだ。


 だが飛び道具がない以上、こちらから相手に攻撃する手段もない。ならばここは前進あるのみ。俺は警戒しつつ、茂みに足を踏み入れた。その時。


「キエエエェェェ」


 奇声と共に、敵が動いた。突如、一本の触手のようなものが俺を串刺しにしようと迫り来る。それはC002によって変質させられた人間の舌だった。攻撃範囲は8~10メートルほど。


「おっと」


 だがその動きは魔視にて予測済み。危ないのは鋭利な先端だけで、一度躱してしまえば無防備な舌を晒すことになる諸刃の剣だ。


「ぐっ……うおおおおおお」


 俺は舌をつかむと、全身の力を振り絞って引っ張り、C002を茂みから引き摺りだした。


「クエェ!」


 姿を現したC002は、まさに河童といった姿をしている。


 背中には本体である巨大な亀の甲羅。全身は青痰のように青緑色に変色している。そして、頭頂部の髪の毛が抜け落ちツルツルになっており、所謂河童ヘアーになっている。


 妖怪河童の正体は、水死体だったというのは有名な説だが、実際はこの魔物のことなのではないだろうかと思う。

 この魔物に襲われ、命からがら逃げ延びた人がいて。


 当然その人の記憶は消えてしまうのだが、魔物のビジュアルは脳裏に焼き付いていた。


 思えば以前教室で戦った魔物も都市伝説怪異の八尺様によく似ている。


 案外妖怪や都市伝説の正体は、この魔物たちなのかもしれない。


「クエエエエ!」


 茂みから出た瞬間、大勢の人間を目にしたC002は追い詰められたと感じたのだろうか。急に土下座のようなポーズをした。


「土下座? 降参ってこと?」


 魔法協会の人が首をかしげる。だが違う。

「一果くん来るぞ! 対処できるか?」

「問題ありません!」


 ヤツが土下座をした瞬間、俺は動き出している。あのポーズは土下座じゃない。その証拠に、禿げた頭部に魔力が集中している。


 C002の最強の攻撃、熱線放射の準備に入ったのだろう。寄生した人間から吸い上げた生体エネルギーを魔力へと変換し一気に放つ大技である。


 俺は全身に魔力を流し、身体能力を爆発的に強化。一瞬でC002のところへ辿り着くと、踵を振り上げ、敵の脳天に叩きつけた。


「ぎゅぎょげぇ」


 その衝撃で敵の頭部は地面にめり込む。


「そのまま自爆しろ!」


 そして一端俺は距離を取る。地中に向かって放たれた熱線放射の衝撃で軽く地面が揺れた。


「くぇ……くぇ……」


 行き場を失ったエネルギーの暴発で寄生されていた人間の上半身が消し飛び、本体である甲羅が離れた。ひっくり返って着地した甲羅は柔い腹部を晒している。この奥に、C002の核がある。


貫通ペネトレーター


 拳に魔法を纏い、甲羅の腹部ごとコアを打ち砕いた。


「くぇえええええ」


 独特な断末魔と共に、C002は消滅した。


「きゃ~! 凄い凄い! 天才! 天才ですよこの子!」


 先ほどまで不安そうにしていた魔法協会のお姉さんがまるで子供のようにはしゃいでいる。

一方、九条円は難しい顔をしていた。


「何か問題がありましたか?」

「いや。問題はないよ。よくやった。その歳でC002を単独撃破できるだけで文句なしの天才だ。誇っていい」

「ありがとうございます」


 ストレートな称賛。だが、少し引っかかる。まるで、もっとベストな選択肢があって、俺がそれを見逃したかのような、そんな言い回しだ。


「君凄いね! お姉さん感激しちゃったよ! ああ、魔法協会の未来は明るいなぁ!」

「どうも。あと、あれなんですけど」


 俺は寄生されていたサラリーマンだったものの下半身を指差した。


「君は何も心配しなくて大丈夫。ここから先は私たちのお仕事だからね! よし、頑張るぞ」

「よろしくお願いします」


 この後、遺族への説明やらでいろいろ大変だろうに。お姉さんは張り切って、周りの人たちに支持を飛ばした。


「では、我々は行こうか」

「はい」


 こうして、少し引っかかるものを感じながらも、俺は九条円の家に向かうことになった。



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