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第16話 魔法少女おじさん

「――よし」


 全身に魔力を巡らせる。


 互いに武器はなし。とはいえ、目の前に立つS級魔法使い九条円は伝説の装備トゥインクル・チェリー・エクステージを着ている。


 確か、着ているだけであらゆる魔法への耐性が増し、様々な攻撃魔法を使えるようになるという。


 この勝負の目的は勝つことじゃない。


 俺の実力を示すこと。


 なら、俺のやるべきことは。


「……ほう。その技術も使えるか」


 俺は魔力を手の平に集め凝縮する。そして、そのまま一気に放出した。


「――放出バースト!」


 魔力をそのままエネルギー攻撃として放つ放出バーストという技術。


 魔法ではないが、魔力制御の応用技である。魔力のコントロールが難しいが、威力調整がしやすく牽制や様子見として最適なのだ。


 そして俺はこの一撃に全ての魔力を注ぎ込んだ。


 放たれた魔力の渦はもはや牽制様子見の攻撃などではなく、必殺の一撃まで高められている。


「――見事」


 だが迎え撃つ九条円は魔法少女姿のまま仁王立ち。回避行動も迎撃行動も一切取らない。


「なっ!?」


 まさか一切の防御を行わないなんて想定外。こままじゃ死ぬぞ……。そう思ったのだが。


「ぬんっ」


 俺の放った放出バーストは九条円に命中。だが少しのダメージを与えられなかった。


「そんな……俺の全力が……」

「これがトゥインクル・チェリー・エクステージの力だよ。さて」


 次は九条円が魔法発動の準備に入る。


「――変幻魔法マジカルステージ!」

「なっ!? 衣装替えの魔法を俺に……って、うわああ!?」


 九条円の魔力が俺の体を撫でるように巡ったかと思うと、俺の着ている服が一瞬で替わっていた。

 それも、ヒラヒラのついた女ものの服だ。


「な、な、な……」


 恥ずかしくて気が動転した刹那。


「フッ。勝負あり……だね」


 次の瞬間には九条円がすぐ目の前に接近していて、拳を振り上げていた。

 振り下ろせばそのまま俺の命を刈り取ることができる位置。


 文句なしの完敗だった。


「はい……俺の負けです」


「そう気落ちする必要はない。君の才能はわかった。でも、まだS級魔法使いわれわれと戦うには早い。励みたまえ」


 最後にそう言葉を貰って。


 S級魔法使い、九条円との生活は終わった。


 ***


 ***


 ***


 九条円サイド



 一果を自宅に送り届け、コンビニで休憩中の九条円のスマホに電話が届く。


『――すみませんでした。息子が一ヶ月、お世話になりました』


 電話の相手は一果の父、結城召一だった。

 何を隠そう、闇魔法の使い手として目覚めた一果の様子を見て欲しいと頼んだのは召一だったのだ。


『それでどうでした。息子の様子は』


「とてもいい子だったよ」


『そうですか。ですが……』


「うん。わかっている」


 魔人しか扱えないとされていた闇魔法は、使用者の心を蝕んでいく。


 強力な力の代償として、心の闇を膨れ上がらせる効果があるのではないかと懸念されているのだ。


『私は心配なのです。息子がやがて闇の力に呑まれ、魔人と呼ばれる者たちと同じように、道を踏み外してしまうのではないかと』


「確かに彼は危うかった。ですが、心配ないでしょう。私の伝えたかったことはちゃんと伝わった。最後には、そんな目をしていましたよ」


『だといいのですが』


 不安げな召一の声色に、九条円は思わず笑ってしまった。


「そんなに心配なら、ご自身でアウトドアにでも連れて行ってあげればよろしいのでは? きっと喜びますよ」


『フッ。一果は私のことを嫌っていますからね。私が何か言っても逆効果でしょう。貴方にお願いしてよかった。一果にいい経験をさせてやれた。それに、S級魔法使いに才能を認められるなんて……流石私の子だ』


(その親馬鹿な態度を少しでも息子のまでしてやれば、彼の態度も変わるだろうに)


 そう思いつつ、これ以上他人の家庭に口出しするのも違うだろうと口を慎む九条円。


「しかし一ヶ月も休めば、学校の方も復旧しているでしょう。一果くんも同級生に会えるのを楽しみにしていましたよ」


『いや。一果はもう元の学校には行かせませんよ』


「え?」


『実は隣の小学校に凄まじい魔力を持った子が隠れているという話がありましてね。ですが学校という環境は我々では手が出しにくい』


「まさか、その調査を一果くんに?」


『ええ。四月から転校させる予定です。もし無自覚に魔力を持った子供がいるのなら、魔法協会として保護したい』


「それはそうですが……その話は一果くんには?」


『していませんしする必要もない。私の息子なら受け入れて当然でしょう』


「そ、そうですか……」


 そういうとこやぞと思いつつ、九条円はため息をつくのだった。



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