「信じられない……」
いつもは憂鬱な帰宅途中。
家に帰りたくない私は、いつもだったら公園でゲームをしながら時間をつぶして、夜になってから家に帰ります。
でも今日は、ほんの少しだけ気持ちが軽いです。
そうです。本日、私のクラスに転校生がやってきました。
結城一果くんという、少し目つきは怖いけどカッコいい男の子。
転校初日からクラスで一番可愛い桐生さんに気に入られて、流石だなと思いました。
でも、きっと彼も他の男の子たちと同じように、私のことをいじめるようになるんだなと思うと、少し寂しい気持ちになりました。
でも信じられないことが起きたのです。
なんとその転校生の結城くんが、私のためにクラスのみんなと戦ってくれたのです。
先生すら見放す状況だったのに……です。
それはまるで夢のような出来事で。
正義のヒーローが助けにきてくれたような……まるで自分が物語のヒロインになったかのようなそんな素敵な時間でした。
もしかしたら彼がいれば、私も普通の小学生のような生活ができるようになるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いてしまったのです。
でも。
夢見る時間は終わりにします。だって。
「私に関わると……みんな不幸になる」
私を産んだお父さんとお母さんは、私が7歳のときに交通事故で亡くなりました。
引き取ってくれた親戚の叔父さんの家も、私が家に来てから事業が上手くいっていないようです。
『アンタなんて生まなければ……息子たちは!』
おばあちゃんからも、会う度に罵倒されます。
お前のせいでお父さんとお母さんは死んだのだと。
私は一度だってお父さんとお母さんに死んで欲しいなんて思ったことはなかったけど。
でも、みんながそう言うのなら、きっと私は呪われた子なのでしょう。
優しくしてくれた人たちを不幸にしてしまう。そんな生まれながらの悪。
泣かない様に耐えながら歩いていると、もうお家についてしまいました。
玄関の前に立ちって一呼吸。中からは、叔父さんたち家族の楽しそうな声が聞こえます。
勇気を振り絞って、ドアを開けます。
「ただいま……」
「……」
「……」
「……」
さっきまであんなに楽しそうだったのに。私が声をかけた途端、みんな静まりかえってしまいました。
叔父さんも奥さんも従姉妹も。
私は足早に、二階の自室に逃げ込みました。
虐待されているわけではありません。ご飯もちゃんと用意してもらえるし、お小遣いだってちゃんと貰えています。
旅行にはつれていってもらえないけど、施設に預けられるよりずっと裕福な暮らしをさせてもらっています。
何不自由なく育ててくれている叔父さんたちには感謝しかありません。
でも……この家にいると、時々無償に寂しくなるのです。
胸の奥が冷たくなって、息ができないみたいな錯覚をします。
でも、今日助けてくれた彼の言葉を思い出すと、少しだけ心が温かくなりました。
「結城くんはいい人だったな。でも……」
だからこそ、私には関わらないで欲しい。そう思いました。
私と関わっていたら、きっと結城くんは不幸になる。
優しい人には、幸せになって欲しいから。
悲しいけれど、明日ちゃんと言わなくちゃ。
そんな悲しい決意をしながら、その日私は眠りについたのでした。