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第38話 ジェノの帰還

 アミーナとビビを中心に放置区域での農業が始まっていた頃、黒岩城の駅には緑園街から戻った都市間列車が停車していた。


 蒸気の煙を上げながら止まった列車から降りてきたジェノ。そしてそんな彼を見送るようにスカディがついていたが、他の憲兵は二人と同行していない。


 ジェノを見送るとして、スカディが同行を断わっていた。


「ジェノ、上着だ」


 温かな都市間列車から降りれば、黒岩城の冷たい空気がジェノの肌を刺す。そんな彼を思ってか、スカディが憲兵に支給されている一般的な上着を手渡せば、ジェノもありがたく彼女の用意した上着を身に着けた。


「緑園街のドームの温かさになれると、こっちでの生活は耐えられなくなりそうだ」

「そうかもしれないな」


 ジェノの言葉に相変わらず無表情を貫くスカディ。しかし、その目がどこか心配するように自分を見ていたことに、ジェノは少なからず気付いていた。


「ジェノ、ロストテクノロジーを捨てる覚悟が決まったら、いつでも私を訪ねてくると良い。上層へと続くエレベーターの憲兵に私の名前を伝えれば、取り次いで貰えるだろう」

「そんな日は来ないと思うが?」

「この先のことはどうなるか、誰にもわからないだろう?」


 彼女の言葉に僅かな不安を覚えながら、それでもジェノは彼女に別れを告げると、足早に駅を去って行く。


「隊長、彼を帰して良かったのですか?」


 そんな中、ジェノを見送っていたスカディに語り掛ける一人の憲兵。スカディは憲兵としての顔に戻ると、その言葉に冷徹な無表情を貫いて応える。


「問題無い。彼に首輪は付けたのだろう?」

「はい、隊長の指示通りに……」

「ならばこのまま泳がせた方が良いだろう。我々には彼がどの程度の技術を持っているのかを調べる必要がある。その上で必要以上の技術を有しているのならば――」


 そこから先を言い淀むスカディ。


 その言葉の先を知っている憲兵は、背筋に薄ら寒いものを感じながら敬礼を残してスカディの元を去って行く。そして残されたスカディもまた、踵を返すと黒岩城の上層へと戻っていくのだった。




 一方でようやく憲兵から離れることが出来たジェノは放置区域を目指していた。本当ならホシマチを使ってすぐにでもビビに連絡を取りたかったが、スカディを全面的に信用できないとも感じていたジェノ。


 まっすぐに放置区域を目指すことは危険だとも思ったが、人目を盗んでホシマチから取り出した光学迷彩のマントを羽織れば、まず人目につくことはないだろう。


 手慣れたように放置区域と居住区を隔てる壁を越えれば、彼の目に見えるのは瓦礫と廃墟が残る風景。


 後ろを振り返っても誰かがついてくる気配も無く、ジェノは安堵で胸を撫で下ろした。


(どうやら尾行は無いみたいだな)


 瓦礫の街を歩きながら向かったのは、光学迷彩で隠されているゲートの建物へと向かう。しかし、そこでジェノが見た光景は彼の想像以上を越えていた。


「何だこれ……」


 ジェノが驚いたのも無理は無い。

 放置区域の建物の傍には同じように瓦礫の山が残っていたはずだ。その一部が無くなって、小さいながらも畑のようなものが作られている。


 その上、小さな機械が畑には隣接するように作られていて、そこには小さな溜め池のようなものまで作られていた。


「まさか畑か? でもどうやって……」


 とりあえずは事情を聞こうと、マントを脱ぎながらゲートの建物へと入る。すると、アミーナやビビ、カミナとラプラスの四人がちょうど休憩をとっているところだった。


「よう」


 若干の気まずさを感じながら4人に声を掛けるジェノ。すると、驚いた四人が振り返り、ジェノを見て笑みを浮かべていた。


「ジェノさん! 無事だったんですね! 連絡も無いから、私ずっと心配して……」


 ビビがジェノに声を掛けようとする。しかし、そんな彼女よりも先に行動を起したのは、目の前で連れて行かれた彼を心配していたアミーナだった。


「馬鹿野郎! 帰ってくるなら連絡くらい入れろ! それに、この格好はなんだ? 憲兵のコートなんか着やがって……」

「いや、こっちに連れ帰られる時に貰ったんだよ。ほら、中は普通だろ?」


 口では悪態をつきながら帰ってきたジェノを抱き締めるように出迎えたアミーナ。そんな彼女の行動を見て、カミナが頬を赤く染め、ビビは目をキラキラと光らせる。


「え、えっと……アミーナ?」

「うるさい! 心配掛けやがって……」


 涙混じりのアミーナの声。僅かに震える肩を見て、ジェノはアミーナが自分の事を本当に心配していたのだと察すると、優しく彼女の背中を撫でる。


「ジェノさん、愛されていますねぇ♡」


 そんな二人を見てニヤニヤと笑みを浮かべるビビ。その言葉にアミーナが自分が何をしたのか気が付いて離れるが、既に時遅し。


「こ、これは、ジェノを心配していただけで――」

「とアミーナさんは行っていますが、カミナさんとラプラスさんにはどう見えますか?」

「普通に恋人じゃ無いんですか?」

「アミーナお姉さんの、いい人ですよね?」


 妹たちの言葉にアミーナは益々顔を赤くする。そんな中でジェノも気恥ずかしさを感じながら、「とりあえず、彼女を紹介してくれないか?」と初対面のラプラスについての説明を求めていたのだった。

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