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第39話 寒冷地用トウモロコシ

 放置区域に戻ったジェノはラプラスが黒岩城に来た経緯と、アミーナの妹分としてアーカイブでの農業を担う事になったと説明を聞いて、少し呆れていた。


「またお前は考え無しに……」とビビがラプラスに食事を振る舞ったことに小言を漏らしていたが、しかしジェノは一方でラプラスに期待もしていた。


 カミナと同年齢とは言え、ラプラスは少なからず緑園街での農業や畜産業についての経験がある。今までそう言ったことに触れてこなかったアミーナは勿論、簡単な芋の栽培しかしてこなかったジェノにとっても、ラプラスの知識は役に立ちそうだったからだ。


「それにしても……すごい臭いだな……」


 言いながら放置区域の農地へ向かうとジェノがビビに渡された肥料を撒いていく。それは豚の糞を元にした肥料らしいが、以前にラプラスが撒いた牛のものよりも更に強い臭いを放っていた。


「がまんひてくらさい。これも土のレベルアップの為です」


 鼻の曲がりそうな強い臭いにジェノが辟易しながら振り返ると、ビビは鼻栓をした状態でジェノに指示だけをしていたので、鼻栓を取り上げた上でゲンコツを脳天に落とすジェノ。


「いだいですよぉぉぉ……」


 その痛みにビビは頭を抑えながら瞳を涙で潤ませていた。


「ったく……、指示する暇があるなら協力しろ。これも世界再建の為なんだろ?」

「それもそうなんですけどね。私のセンサーはジェノさんやアミーナさんよりも強力すぎて、モロに影響を受けるんですよね……。それこそ、鼻の曲がりそうな臭いでセンサーが麻痺するくらいには」

「ビビさん、頑張って」


 サボっていたビビはともかくとして、ラプラスはしっかりと手を動かしており、その手際もやはりビビやジェノよりも早い。肥料を撒き終われば、ラプラスはビビが用意した何かの苗を植えていた。


「とろろでビビ、この畑で何を育てるつもりなんだ? 野菜を育てるって言うのは分かるが、俺もアミーナも殆ど野菜なんて見たことが無くてだな……」

「黒岩城で野菜は高級品だしな。トマトとかそういうのか?」

「そうですねぇ。一つの苗からたくさん採れるトマトなんかも魅力的なのでいつかは作りたいと思いますけど、今は黒岩城での新しい産業を始めるための準備の要素が強いです。ですので、今回は黒岩城の過酷な寒い環境でも育つ、寒冷地用のトウモロコシの苗を用意しました」

「トウモロコシ?」


 ジェノとアミーナがビビの言葉に首を傾げる。


 ジェノは勿論、アミーナもトウモロコシについては見たことも無い。黒岩城の商業区では取り扱いさえ見たことの無い食材だった。だが、ラプラスはビビの狙いがわかっていたようだった。


「トウモロコシですか……。それなら、確かに色々と利用ができますね」

「そうでしょう。トウモロコシほど便利な食材はあんまり無いです」

「いや、二人で納得してないで、どう便利なのか説明してくれ」


 ジェノがラプラスに訊ねると、ラプラスは饒舌にトウモロコシについて説明してくれる。


 訊けば、トウモロコシの茎や葉には畑の栄養になる窒素分が多く含まれているために、畑の栄養バランスを整える緑肥になるらしい。


 もちろん食用としても利用出来るし、養鶏や家畜用飼料としても使うことができるらしい。


「つまり、農業としてのトウモロコシの発展は、今後の黒岩城での畜産業を進めることにも繋がるのですよ」

「はぁ~……、なるほどな。それにしてもラプラスも良く知っていたなぁ。ラプラスがこっちに来てくれていて良かったよ」

「あ、ありがとうございます……♡」


 ラプラスの説明に併せてビビが説明をするが、ジャノがラプラスを褒めると、照れたように頬を染めるラプラス。しかし、ビビはそんな待遇の差に不満があるようで、僅かに頬を膨らませていた。


「ジェノさん、ラプラスさんと私の扱いの差が酷いと思います。アンドロイドにも人権を! 待遇の改善を求めます!」

「いや、どっかどう見ても身から出た錆としか言いようが無いだろ」

「酷いですよぉ! 私、高性能ですから錆なんて無いんですからね」


 一生懸命にアピールするビビ。


 もっともジェノだってビビが農業の発展の為に色々と気を使ってくれていることを理解している。溜め池におかれちえる雪を浄化水にする機械など、ビビだってなれないながらも苦心をしてくれているのだろう。


 それが分かっているからジェノがポンポンと頭を撫でると、ビビは少しだけくすぐったそうに目を細めていた。


「トウモロコシができるまでは通常3ヶ月くらいは掛かりますけど、これはアーカイブの技術を使った品種改良したものですからね。一月くらいでちゃんと育つはずです。まぁその分、土のエネルギーをガンガン吸い上げますので、肥料やりが欠かせませんが」

「そうか。出来上がるのがたのしみだよ」


 アミーナやビビ、カミナとラプラス。五人で過ごす特別な時間。


 こんな穏やかな日々がいつまでも続けば良いと思ってしまう。生活に必要な物を少しずつ集めていき、世界の再建に向けて過ごす時間。


 だがそんなジェノの思いとは裏腹に、轟音が放置区域に響いたのはその時だった。


「な、なんだ……」

「おい、アレを見ろよ」


 放置区域の瓦礫を蹴散らしながら、放置区域に現われたのは三台の車両。そして、その三台の車両はそれぞれにコンテナを放置区域に投棄すると、土煙を上げながら放置区域を去って行く。


 そして投棄されたコンテナの扉が開いた瞬間。それぞれのコンテナから現われた感染獣が放置区域に咆哮を響かせたのだった。

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