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第40話 強襲

 放置区域に再び現われた3体の感染獣。その姿を前にジェノに戦慄が走った。


 一体は以前に放置区域にいた熊型の感染獣であり、黒く染まった体毛に赤い瞳が煌々と光り、口の端からは涎を滴らせている。鋭利な爪と牙を持つ熊型の感染獣は完全にジェノやアミーナ達を獲物として認識しているように見える。


 そして熊型の感染獣の左右に並んだコンテナからはそれぞれ大型犬のような感染獣が姿を現わし、赤い双眸でジェノ達を認識すると、ジェノ達4人に目掛けって疾駆した。


「アミーナ! カミナとラプラスを守れ!」


 言いながらジェノが自分目掛けて襲い掛る感染獣に向かって、手にしていた肥料を投げつける。


 豚の糞から作られた肥料の臭いに当てられたのか、犬型の感染獣の一頭が僅かに怯むと、ジェノは同時にホシマチから瓦礫の山を出現させて壁とした。


(どうする……。どうして感染獣が? いや、理由を考えるのは後だ。まずはこの状況を逃げ切るしか……)


 感染獣の奇襲にジェノの思考を埋め尽くした焦り。


 この場所に感染獣が現われた理由はわからないが、放置区域に三頭もの感染獣が放たれたのは、明確な悪意に他ならない。


 この場所にもう感染獣がいないことがバレたとしか思えなかった。


 一方でアミーナはラプラスとカミナの腕を引くと、すぐさまゲートに向かう。建物の中に同時に移動していたビビがゲートを起動させると、二人は青白い光りに包まれたゲートの向こうに消えてしまった。


「アミーナさんも早く中に!」

「わかってる。だけどジェノが……」


 ゲートの向こうに逃げなければいけない。それが分かっているのに

アミーナはジェノを残していることにゲートを潜ることを躊躇する。


 だがそんな二人の余裕を奪うように、ゲートを守っていた建物の外壁が崩れ落ちる。見れば、熊型の感染獣が咆哮を響かせて、建物の壁を破壊していた。


「こいつ……、光学迷彩で建物が見えなかったはずなのに……」


 外壁が壊されたことによって建物の光学迷彩の機能が失われる。そして感染獣はビビとアミーナを一瞥すると、まっすぐにゲートに向かってその爪を振り下ろした。


「なっ……! 嘘だろ!」


 感染獣の一撃を受けてゲートが光を失ってあっさりとひしゃげてしまう。その光景を見せつけられて、ビビは悲鳴に近い声を上げた。


「くそっ! ビビ、こっちだ!」


 ゲートの向こうに送ったカミナとラプラスの二人と分断されてしまったジェノ達。アミーナがビビの手を引いて建物を出れば、ゆっくりと感染獣が二人を追うように姿を現わした。


「アミーナ、こっちに!」


 ジェノに呼ばれてアミーナとビビの二人が合流する。


 しかしジェノももう追い詰められているのだろう。彼が瓦礫を元に作り出した壁は崩され、二頭の大型犬に見える感染獣が迫っている。


 周囲を完全に取り囲まれて、三人は完全に追い詰められていた。


「ビビ、カミナとラプラスは?」

「アーカイブに直接送ってます。あそこにはどうしたって行くことはできませんから」

「そりゃ何よりだ。後はこの状況をひっくり返す何かがあれば最高なんだが、何か方法は?」

「ホシマチを使えば、アーカイブには行けますけど、その場合はもう黒岩城には戻れません。せっかくここまで再建を進めたのに……」


 ビビが絶望の表情を浮かべる。


 もしもこの場でジェノとアミーナ、ビビの三人がホシマチを使って逃げれば、三人の命は助かるかもしれない。しかし、その場合に三人が外に出れば、彼等が行くことができるのは緑園街となってしまう。


 ホシマチの転送機能を使えばアーカイブから黒岩城に転移することは可能だが、それは放置区域に築き上げた全てを捨てていくことと同義だ。


「命が助かる方を最優先に選ぶしか無いだろ?」

「……アタシもジェノに賛成だ」


 アミーナとジェノがそれぞれにホシマチを手にする。たとえ全てを捨てることになっても、ここで死んでしまう事だけはできない。ビビが2人のホシマチに触れようとする。


 しかしその瞬間、ビビに向かって熊型の感染獣が襲い掛る。


「くそっ!」


 その攻撃にジェノが咄嗟にビビを突き飛ばす。と同時にアミーナがホシマチと共に姿を消した。


「ジェノさん!」

「バカ! 何でお前がこっちに残って――」


 この状況にジェノが表情を引きつらせる。


 ビビだってホシマチが無ければ転移はできない。最善手はジェノを残してビビとアミーナが同時に転移することだっただろう。だがビビがこちらに残ってしまった。


 ビビとジェノの間には獰猛な感染獣が立ちはだかっている。


 ハッキリと明確な死を覚悟するジェノ。しかし感染獣はジェノをチラリと見ただけで彼には襲い掛らない。代わりに感染獣が向かったのはビビ。


 明らかにこの場の感染獣はロストテクノロジーを、最優先に破壊することを目的に動いている。そう言う意味では、アンドロイドであるビビがこの状況では、最優先の破壊対象。


 そしてビビに向かって感染獣の鋭利な爪が振り下ろされた。

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