波留のトラブルが解決して以来、順調に幸せな家庭を築いているのではと、俺は密かな手応えを感じていた。
家に帰ると可愛い妻と子供が出迎えてくれて、温かいご飯を食べて、娘と一緒にお風呂に入って、寝る前には夫婦水入らずで甘ーい一時を過ごして……! これを幸せと言わずに何というのか。
ルームウェアに身を包んだ波留をベッドに押し倒して、濡れた髪を指で
あぁ! ウチの妻、なんて可愛いんだ!
彼女の首元に唇を押し当てて、キスの痕を落としていった。甘美な声を押し殺しって耐えている様子が堪らない。
「なぁ、波留。そろそろ二人目を作らないか?」
「え……二人目?」
心もお利口さんになってきたし、年齢差を考えると良い時期なのではと思っていたのだが、波留はどうだろうか?
少し前までは子供に関心が持てずにいたが、今の俺は違う。波留が望むならいくらでも育児に協力する所存だ。
意気揚々と尋ねたのだが、当の本人である波留はイマイチ乗り気になってくれなかったようで、難色を示す顔をされてしまった。
「私はまだ、少し自信がないかな。心だけで手一杯だし、もう一人なんて余裕が持てないかも」
「そっか、それなら仕方ないか」
いくら男が子供を求めたところで、命を掛けて出産するのは女性なのだ。彼女がその気になるまで待つしかない。たとえ、避妊なしでエッチがしたいと思っても、彼女が望まないなら我慢するしかないのだ。
「もし大智さんがシたいなら、ピルを飲もっか? 元々生理が重いから飲もうかなって思っていたし」
「えぇー、いやぁ、そんな申し訳ないって。確かにゴムなしの方が気持ちはいいけどさー」
きっと今の俺の顔は、最低なくらい腑抜けた表情をしているに違いない。鼻の下を伸ばして、どうしようもないくらい情けない顔を晒して。
だが、やむ得ないんだよ。
こんな可愛い子とさー、パフパフハッスルダンスだなんてさー。
気を抜くと緩んでしまう口元を押さえながら、必死に平常心を保ち続けた。
しかし、そんな甘い雰囲気をぶち壊すかのように鳴り出したスマホの着信。サイドテーブルの上で震え続けるバイブ音に、ビクっと身体を揺らした。
(だ、誰だよ! こんなタイミングに電話をしてくる無神経野郎は!)
最初は無視していたのだが、二度、三度と掛けてくる電話に、波留の方が心配して取るように頼んでくる始末になった。
「大智さん、私のことなら気にせずに……」
うぐっ、別に気を遣ったわけじゃなくて、邪魔されたくなかっただけなのに……!
だが、ここまで言われてしまったら取らないわけにはいかなかった。俺は観念して通話ボタンを押した。
「はい、木梨ですけど? おたく、どちら様?」
『あー、やっと出てくれたー! もう木梨社長! マリンのこと忘れてない?』
——マリン?
ハッとした俺は慌てて電話を耳から話して、波留の顔色を伺うように覗き込んだ。どうやら会話までは聞き取れていなかったようだ。
しかし、このまま会話を続けるのはリスキーだ。俺は波留に事情を話して、そのまま別室へと向かった。
「マリン! お前、何しに電話を掛けてきたんだよ‼︎」
『それはコッチのセリフだしー。マリン、ずっと社長の電話を待ってたのに、もう〜!』
確かにマリンの言う通り、約束を破った俺が悪いのだが、それにしてもタイミングが悪すぎる。
俺は頭を掻きながら、マリンの会話に耳を傾けていた。
————……★
「これからはマリンのターン!」