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028 フランクフルト

「……最後に覚えているのは、大きな爆発に巻き込まれたということです。目を覚ました時には、この島の海岸にいました。私の乗っていた飛竜が側で息絶えていたことから、溺れた私を最期の力を振り絞って岸まで運んでくれたのでしょう」


 フィーリーは飲み物を口にしつつ、エアプレイス墜落の時の話をする。


 アタシたちはジッとその話に耳を傾けていた。


「……モンドは?」


 フィーリーは辛そうに首を横に振る。


「エアプレイスが堕ちる前、敵の群れに単騎突入して行くのを見えました。恐らくは……」


「……そう」


 続きの言葉は聞かなくても分かった。


 心なしかフィーリーは少し痩せた気がする。きっとアタシ以上に大変だったはずだ。


「……しかし、レディー様がご無事で良かった。グランバ様とナターシャ様のことは本当に残念です」


「……うん」


 本当に悲しい。


 でも、その悲しさを分かちあってくれる人がいる……それだけでも少し心の痛みが和らいだ気がする。 


「……その剣がそうなのですか?」


「え?」


 フィーリーの目が、ユーデスに向けられていた。


「ああ。うん。この魔剣が、剣魔帝からアタシの命を守ってくれたの。他にもボブゴブリンから助けられたりとね」


「エアプレイスに封じられていた魔剣……まさか、それほどの力を持っていたとは」


「フィーリーは、この魔剣ユーデスのことは何か知らない?」


「すみませんが、詳しくは存じません。噂でそのような物があると聞いたことがある程度で……」


 それはそうか。


 お母さんもエアプレイスとラマハイムの関係は隠す必要があったとか言ってたし……。


 当然、ユーデスのことも秘密だったんだろう。


「しかし、驚きました。レディー様が冒険者ギルドに所属されたとは……」


「つい最近の話だよ。それと、アタシに“様”なんかつけなくていいから」


 ウィルテの視線が痛いし。


「でも、フィーリーも冒険者ギルドに入ってたんでしょ?」


「ええ。私の取り柄も、剣くらいしかないものですから。他に思いつくものもなかったので……」


 なんか歯切れ悪く返事する。


「私もレディーと同じです。船代を稼いで…」


「剣魔帝を倒す。敵を討つために…」


 アタシが言うと、フィーリーは強く頷く。


 そう。もう個人的なあだとかだけじゃない。


 フィーリーの話を聞いて、アタシは自分のお腹の底から怒りを感じる。


 お父さん、お母さん、おじいちゃんだけじゃない。


 エアプレアスのみんなを殺したデモスソードは“かたき”なんだ。


「協力して……もらえますか?」


「うん! もちろんだよ! こちらこそお願いしたいぐらい!」


 差し出された手をアタシは強く掴む。少しだけフィーリーは驚いた顔をしてから悲しげに微笑んだ。


 なんだろう。剣を教わっていた時は上から目線の嫌な人って感じだったけれど、今は同じ辛い目に遭ったせいなのか、それとも同じ志を持っているせいなのか、とても身近な存在って感じ。とても心強く思える。


「レディーも何だか……雰囲気が変わりましたね」


「え? そう?」


「ええ。前は私と視線を合わせようともしなかったでしょう」


 あー。まあ、おじさんだけじゃなく美形も苦手だったし。男性ってだけで緊張してたからね。


「…まあ、色々あったしね。吹っ切れたんだよ」


「なるほど」


 あまり深く聞かれないですんでよかった。


 さすがにウィルテの強引な……


 あ。そうだ。忘れてた。


「ゴメン。ウィルテのこと放ったらかしにして……」


「ううん。大丈夫だから」


「え?」


 あれ? なんかおかしくね?


「あ。レディー。残り食べて。ウィルテ…ワタシ、もうお腹いっぱいだから」


 え? “ワタシ”?


 しかも語尾に“にゃ”がない??


 普段、アタシの皿からも取って食べるウィルテが……卵焼きだけ食べてフランクフルトを残した???


「それで、お話を横で聞いておりましたけれども……」


 “お話”?


 “聞いておりました”???


「フィーリー様は、レディーと目的を同じにしておられるのですよね?」


 “フィーリー様”? 


 え? なんかいつもと違う。気持ちワル。


 ウィルテの目がキラキラしてるんですけど……


「そうですね」


「失礼ですけれども、冒険者ランクは?」


「ホワイトです。私もこの町に来たばかりでして、登録も今朝方に行ったところなのです」


 ウィルテが「まあ!」と手を叩いて、小首を傾げる仕草をする。


「ワタシはこう見えて実はブルーなんです!」


 もしかしてこれってブリッ娘してるの?


「それは凄い。玄人の冒険者でしたか」


「ええ。それでフィーリー様さえ良ければ、ワタシたちとチームになりませんか?」


「え!?」「え?」


 ウィルテの突然の発言に、アタシもフィーリーも目を瞬く。


「チームになれば、その中で一番高い人物のランクが適用されるので……つまり、ホワイトでもブルー級の仕事が請けれます! 手っ取り早く稼ぐには、もっともよい手だと思います!」


 確かにホワイトだと、幾ら腕っぷしが強くても迷子の猫を捜すみたいな簡単な雑用くらいしかやらせてもらえない。もちろん報酬も内容に見合った額だ。


「……それは私からしたら、断る理由もないありがたい話ですが」


 フィーリーはアタシを見やる。


「え、ええ。フィーリーさえよければ…。そして、もし剣魔帝を倒すのに一番早そうな方法っぽいし。フィーリーこそ、それでいい?」


「もちろんです。レディー。このフィーリー・ハイオン。共に剣を合わせ、エアプレイスの敵を討ちましょう」


 よかった。ここで前みたいに「お前の剣では無理だ!」って戦力外通告されたら、せっかく立ち直ったのにまた凹むところだったわ。


「……しかしながら、今は1件、依頼を受けていまして。今夜中に解決いたします。チームとなるのは明日以降でもよいでしょうか?」


「もちろんにゃ…いえ! もちろんですとも!

 では、明日、ギルドで!」


「ええ。それでは。レディー。そして…」


「ウィルテです! ウィルテ・ヴィルル!」


「なるほど。ウィルテ。どうかよろしくお願い致します」


「はぁ〜い♡」


「……」



 フィーリーが出て行った後、ウィルテはすぐにフランクフルトに似た腸詰め料理を注文した。 


「ヤッベー。話してるだけで身篭りそう♡」


 やめて。フランクフルトをフォークで突きながらそんな台詞やめて。


「……ウィルテ。“にゃ”は?」


「あんなん男を引っ掛けるための…コホン!」


 そういや普段から猫なで声のクラスメイトとかいたな……女子の皆から嫌われてたっけ。


 ま、ぼっちのアタシとは最初から話したことなかったけど。周りの悪口って不思議と聞こえてくるもんだよね。


「ねぇ! 聞いて! 猫人キャッティのウィルテはいま適齢期にゃ! このチャンスを逃す気はにゃい!」


「…はぁ」


「ウィルテもレディーたちに協力するにゃ! だから、レディーもウィルテの恋愛成就を手伝うにゃ!」


「…はぁ」


「友達でしょ!」


「友達? この前、単なる仕事の仲間だって……」


「つれないこと言わないのにゃ! レディー、だーい好き♡」

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