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031 魔力の暴走

 トレントたちが、アタシたちに向って一直線に走ってくる!


「……【陽炎舞】」


 フィーリーは流れるような動作で、敵の急所を一撃で狙い斬る。炎を纏ってるように見えるけど、あれは魔力らしい。


 厨二病っぽい技名で、まるでダンスしてるかのように見えるのが、流剣技の特徴だ。


「【フレイム・ダート】!」


 ウィルテが魔法を使うと、やじり状の炎がトレントたちを射抜く。


 高範囲の攻撃魔法もあるらしいけれど、延焼して森が焼けてしまわないよう配慮しているらしい。


 さて、アタシの番だけど……


 このトレントって嫌な魔物だ。巨木の根が脚みたいになって移動するわけだけど、どうしてか幹の部分に人の形をしたのがぶら下がっている。


「コイツらお得意の“擬態”にゃ。どうせ人間とは違うからサクサクとやっちゃうにゃー」


「サクサクと言われてもなぁ〜」



『タスケテー!』


『コロサナイデー!』


『ナカマヨー!』



 カタコトでそんなことを叫んでる。 


 凄いやり辛いんですけど……。


「気にする必要はありません。彼らに感情などありません。この魔物は我々の思念を読み取り、同族が使う信号を発しているだけで、それを私たちの脳が勝手に言葉として受け取ってるのです」


 ホント、フィーリーは凄いよな。なんで後ろも見ずに、高速でバック走行ができるんだろう?


 若干、気持ちの悪い動きだけど、フィーリーぐらいのイケメソがやるとムーンウォークのようなパフォーマンスに見えるから不思議だ。



 でも、2人が戦っているのにアタシだけ何もしないわけにもいかない。


「よし! 行くよ! ユーデス! ……ユーデス?」


 あれ? 反応が……?


『ナカマヨー!』


 あッ! トレントが枝を振り上げて…!


「うあッ!」


『タスケテー!』


「助けてって言いながら攻撃してくんなよ!」


 でも、あれ?


 ユーデスが全然反応しない!


「やッ!」


 ううッ。剣を振ったけど、まったく力が入らず幹を軽く傷つけただけだ。


「なぁにやってるにゃ! レディー!」


「……」


 あ。なんかウィルテが怒ってるし、心なしかフィーリーの目が冷たい。


「ねぇ! ユーデス!」


「…あ。うん。さっきからやってはいるんだけどね」


「やってるって!? 全然、剣に力が入らないよ!」


「……うん。なんか上手くリンクできてないね」


「リンクって!?」


「私とレディーの波長が一致してない……」


「は?」


 そんな悠長な話してる場合じゃない!


『トモダチヨー』


 なんかトレントたちがアタシんとこに集まって来てんですけど! 友達じゃない!



「あ! マズイにゃ! 囲まれたにゃ!」


「いえ、助けに入るのは待ちましょう」


「でも!」


「……大丈夫です」



 振り下ろされる枝にバシバシと殴られる! 


「ねぇ! ユーデス!」


「……無理に繋げることもできなくはないが」


「いいからやって! このままじゃ潰されちゃう!」


「……分かった」



 ドクン! 耳の奥で何かが鳴った。


 血? 魔力? 何なのか解らないけれど、アタシの下半身から強い熱が一気に流れる気がする。


「が…ガアアアアッ!!??」


 誰が叫んだの?


 これ、アタシの声…?


 でも身体が勝手に……


 アタシの手が剣を振るう!!


 紙でも裂くように、トレントが次々に斬り裂かれて……



「す、凄いにゃ……。レディー。トレントはいくら弱いからといって、剣で縦に真っ二つだなんて初めて見たにゃ!」


「あれが……流剣? どこかだ……ケダモノと同じじゃないか」


「え?」


「……いえ、なんでもありません」



「アハハハハハァッ!!!」


 アタシが笑っている。


 全然笑おうとも思ってないのに……


(私が無理に力を引き出すと、精神に影響を与える。……だからあまりやりたくないんだ)


(ユーデス? もしかしてアタシを操っているの?)


(いや、操るのとは少し違う。いま制限をかけず、君の“魔力”の自由にさせた。これをやり過ぎると…“物”となってしまう)


 魔物?


 アタシが…魔物に?


 ユーデスと心の中で会話している間も、“アタシ”は勝手に戦っている!


 普通の身体能力じゃない。飛び上がって一回転して、そのままの勢いでトレントたちを蹴散らしていく。


 剣だけじゃない。蹴りを入れるだけで、トレントが大きくブッ飛んで隣の奴に当たって砕ける。


「アハハッ! イヒヒッ!! ウハハハハッ!!」


(こんなの……こんなのって……。止めて、止めてよ、ユーデス!!)


(……ああ。もちろんだよ)



 急に、“アタシ”が戻って来る。


「うッ……」


 全身がバラバラになってしまいそうなほど痛い。


 周りにはトレントの残骸……これ、アタシがやったんだ。


 見てたから分かる。けど、実感がない。


 怖い。すごく……。自分が怖い。


「レディー。だ、大丈夫かにゃ」


「う、うん」


 ウィルテが心配して近寄ってくる。けれど、なんだか怯えているみたい。


 そりゃそうだよ。アタシ、アタシの戦い方があんなだったから……


「……これで、お互いの持つ力が分かりましたね」


 フィーリーが見てくる。やっぱりその目はひどく冷たい気がする。


「レディーは強い。けれど、その強さを使うのは……時と場合を選んだ方がよさそうです」


「そ、そうにゃね。……レディーは切り札にゃ」


「……ゴメン」


「謝る必要はにゃいにゃ。強い……それは悪いことじゃないにゃ。戦うのに興奮して、ウィルテたちまで斬るのは勘弁にゃけど」


「うん。気をつける……」


 “気をつける”……


 どうやって? 自分で言っていて分からない。


 もし、またさっきのをやったら……


 ダメだ。


 もう二度とあんなことはできない。


「……とりあえず、今日のところはもう引き上げましょう」


「そう…にゃね」


「……うん」


 2人の顔が見れず、私は俯いたまま返事をした。

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