トレントたちが、アタシたちに向って一直線に走ってくる!
「……【陽炎舞】」
フィーリーは流れるような動作で、敵の急所を一撃で狙い斬る。炎を纏ってるように見えるけど、あれは魔力らしい。
厨二病っぽい技名で、まるでダンスしてるかのように見えるのが、流剣技の特徴だ。
「【フレイム・ダート】!」
ウィルテが魔法を使うと、
高範囲の攻撃魔法もあるらしいけれど、延焼して森が焼けてしまわないよう配慮しているらしい。
さて、アタシの番だけど……
このトレントって嫌な魔物だ。巨木の根が脚みたいになって移動するわけだけど、どうしてか幹の部分に人の形をしたのがぶら下がっている。
「コイツらお得意の“擬態”にゃ。どうせ人間とは違うからサクサクとやっちゃうにゃー」
「サクサクと言われてもなぁ〜」
『タスケテー!』
『コロサナイデー!』
『ナカマヨー!』
カタコトでそんなことを叫んでる。
凄いやり辛いんですけど……。
「気にする必要はありません。彼らに感情などありません。この魔物は我々の思念を読み取り、同族が使う信号を発しているだけで、それを私たちの脳が勝手に言葉として受け取ってるのです」
ホント、フィーリーは凄いよな。なんで後ろも見ずに、高速でバック走行ができるんだろう?
若干、気持ちの悪い動きだけど、フィーリーぐらいのイケメソがやるとムーンウォークのようなパフォーマンスに見えるから不思議だ。
でも、2人が戦っているのにアタシだけ何もしないわけにもいかない。
「よし! 行くよ! ユーデス! ……ユーデス?」
あれ? 反応が……?
『ナカマヨー!』
あッ! トレントが枝を振り上げて…!
「うあッ!」
『タスケテー!』
「助けてって言いながら攻撃してくんなよ!」
でも、あれ?
ユーデスが全然反応しない!
「やッ!」
ううッ。剣を振ったけど、まったく力が入らず幹を軽く傷つけただけだ。
「なぁにやってるにゃ! レディー!」
「……」
あ。なんかウィルテが怒ってるし、心なしかフィーリーの目が冷たい。
「ねぇ! ユーデス!」
「…あ。うん。さっきからやってはいるんだけどね」
「やってるって!? 全然、剣に力が入らないよ!」
「……うん。なんか上手くリンクできてないね」
「リンクって!?」
「私とレディーの波長が一致してない……」
「は?」
そんな悠長な話してる場合じゃない!
『トモダチヨー』
なんかトレントたちがアタシんとこに集まって来てんですけど! 友達じゃない!
「あ! マズイにゃ! 囲まれたにゃ!」
「いえ、助けに入るのは待ちましょう」
「でも!」
「……大丈夫です」
振り下ろされる枝にバシバシと殴られる!
「ねぇ! ユーデス!」
「……無理に繋げることもできなくはないが」
「いいからやって! このままじゃ潰されちゃう!」
「……分かった」
ドクン! 耳の奥で何かが鳴った。
血? 魔力? 何なのか解らないけれど、アタシの下半身から強い熱が一気に流れる気がする。
「が…ガアアアアッ!!??」
誰が叫んだの?
これ、アタシの声…?
でも身体が勝手に……
アタシの手が剣を振るう!!
紙でも裂くように、トレントが次々に斬り裂かれて……
「す、凄いにゃ……。レディー。トレントはいくら弱いからといって、剣で縦に真っ二つだなんて初めて見たにゃ!」
「あれが……流剣? どこかだ……ケダモノと同じじゃないか」
「え?」
「……いえ、なんでもありません」
「アハハハハハァッ!!!」
アタシが笑っている。
全然笑おうとも思ってないのに……
(私が無理に力を引き出すと、精神に影響を与える。……だからあまりやりたくないんだ)
(ユーデス? もしかしてアタシを操っているの?)
(いや、操るのとは少し違う。いま制限をかけず、君の“魔力”の自由にさせた。これをやり過ぎると…“
魔物?
アタシが…魔物に?
ユーデスと心の中で会話している間も、“アタシ”は勝手に戦っている!
普通の身体能力じゃない。飛び上がって一回転して、そのままの勢いでトレントたちを蹴散らしていく。
剣だけじゃない。蹴りを入れるだけで、トレントが大きくブッ飛んで隣の奴に当たって砕ける。
「アハハッ! イヒヒッ!! ウハハハハッ!!」
(こんなの……こんなのって……。止めて、止めてよ、ユーデス!!)
(……ああ。もちろんだよ)
急に、“アタシ”が戻って来る。
「うッ……」
全身がバラバラになってしまいそうなほど痛い。
周りにはトレントの残骸……これ、アタシがやったんだ。
見てたから分かる。けど、実感がない。
怖い。すごく……。自分が怖い。
「レディー。だ、大丈夫かにゃ」
「う、うん」
ウィルテが心配して近寄ってくる。けれど、なんだか怯えているみたい。
そりゃそうだよ。アタシ、アタシの戦い方があんなだったから……
「……これで、お互いの持つ力が分かりましたね」
フィーリーが見てくる。やっぱりその目はひどく冷たい気がする。
「レディーは強い。けれど、その強さを使うのは……時と場合を選んだ方がよさそうです」
「そ、そうにゃね。……レディーは切り札にゃ」
「……ゴメン」
「謝る必要はにゃいにゃ。強い……それは悪いことじゃないにゃ。戦うのに興奮して、ウィルテたちまで斬るのは勘弁にゃけど」
「うん。気をつける……」
“気をつける”……
どうやって? 自分で言っていて分からない。
もし、またさっきのをやったら……
ダメだ。
もう二度とあんなことはできない。
「……とりあえず、今日のところはもう引き上げましょう」
「そう…にゃね」
「……うん」
2人の顔が見れず、私は俯いたまま返事をした。