ローラさんから簡単に説明されるけど、「読んだ方が早いわ」と依頼書を渡される。
マイザーたちとはそこで別れ、酒場に行って、よく確認しようという話になる。
最初、ウィルテが読んで、次にフィーリー。アタシにも回されたけど、正直、読んでもアタシがどうこう判断できない。
ザッと流し読みしただけ。後は他力本願……2人の意見を聞こうと思ったけど、何だか浮かない顔をしていた。
「これ、そんなに困難な仕事?」
「困難と言うよりも…うーんにゃ」
「話が少し上手すぎるんですよ」
「上手い?」
ウィルテが手を上げて注文をする。それに合わせて、アタシもフィーリーも飲み物だけ頼んだ。
アタシはまだ、アブドルさんの頼んでくれた食事が消化しきれてない。
「依頼内容はそこまで難しなさそうにゃ。廃屋に住む魔物退治。読む感じだと、これは
「グールって、ゾンビみたいな奴?」
「そうにゃ。討伐ランクは最低のEにゃ。武器を使う知能はにゃいから、スケルトンよりも簡単な相手にゃ」
「唯一気をつけるべき点は毒ですが、直線的な攻撃しかしてこないので対処しやすい。ウィルテは炎魔法の使い手ですし、まず苦戦はしないでしょう」
歩く死体を燃やすのか……嫌なニオイしそう。
「給金は手付3,500E、本報酬で6,500E……計10,000Eにゃ」
グール相手に、この額が高いのかどうかアタシにはいまいち分からない。
「……そうですね。グール1体程度なら、1,000Eでも破格でしょう。仮に他の追加注文が入っても、この額を上回ることはないかと」
フィーリーがアタシが困った顔をしているのを見てそう説明してくれる。
「なら、なんか他に条件とかがついてるとか?」
ウィルテもフィーリーも首を横に振る。
頼んでいた飲み物とお通しが来た。
2人は麦酒だけど、アタシはアルコールが飲めないからココナッツみたいな味のする果汁だ。あんまり美味しいとは思わないんだけどね。
「この金額なら、先の報酬と合わせても船賃としては充分ですね」
「え? そうなの? でも確か、1人10万はするって……」
ウィルテには、島を出るには「たくさん稼がなきゃいけない」と言われていた。
今回の報酬は19,000Eで、3人で割ると1人あたり6,300Eだ。全然、まだまだ足りないと思ってたんだけど。
「10万? いったい、どこまで行かれるつもりなんですか?」
「へ?」
フィーリーが驚いて言うのに、ウィルテが舌を出す。
「……まさか、騙したの?」
「ニャハハ! ま、そんなことより今はこの依頼を受けるか否かの話にゃ!」
「誤魔化すなよ」
きっとアタシを使って、稼げるだけ稼ぐ魂胆だったに違いない。
「……手っ取り早く稼ぐことができるならば、私としては多少のリスクは厭いませんが」
ウィルテも賛同すると思いきや、何やら首を捻る。
「どうしたの? いつもならすぐに飛びつく話じゃないの?」
「そうにゃんだけど。依頼人が……ねぇ」
「町長の息子マルカトニー・レパトリだという部分ですね」
ウィルテは頷く。
「あまり良い評判は聞きませんが……信用できない相手なのですか?」
フィーリーが聞くのに、ウィルテはまた「うーん」と悩む。
「……別荘にしていた家屋に
「なら、何が気になってるって言うの?」
「なんと言うか、普通すぎるにゃ」
「普通すぎる?」
「金払いがよい件は?」
「そこもおかしくはないにゃ。口止め料……もし、その別荘を売ることを考えるにゃら、公にはしたくにゃい。額面的にも妥当とも思えるにゃ」
ウィルテが何が言いたいのかイマイチ理解できず、アタシとフィーリーは顔を見合わせる。
「そのね、ウィルテが気にかかってるのは、あまりにもあのドラ息子にしては普通すぎるってところにゃんよ」
なに? 普通すぎるからおかしいって、息子ってそんなにおかしな人なの?
「なら受けるの止めるの?」
「いや、受けるにゃ」
「は? それなら、もう話は終わってるじゃん」
レンジャーとして一番ベテランのウィルテがいいなら、アタシたちとしてはそれに従うだけだ。
「……そうにゃねー」
「もし、ウィルテが乗り気じゃないなら、アタシとフィーリーでやるよ」
アタシがそう言うと、ウィルテはピーンと耳を立てる。
「いや、そういうわけじゃないのにゃ!」
「やるなら、やろうよ。なんか怪しければ途中で止めればいいし」
「……そうにゃね」
確か依頼内容が全然違ったりした場合、途中でキャンセルしてもペナルティはなかったと思う。ウィルテがそれを知らないはずもない。
「では、決まりですね。ギルドに受ける旨を伝えに行きましょう」