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052 マルカトニーの依頼

 ローラさんから簡単に説明されるけど、「読んだ方が早いわ」と依頼書を渡される。


 マイザーたちとはそこで別れ、酒場に行って、よく確認しようという話になる。


 最初、ウィルテが読んで、次にフィーリー。アタシにも回されたけど、正直、読んでもアタシがどうこう判断できない。


 ザッと流し読みしただけ。後は他力本願……2人の意見を聞こうと思ったけど、何だか浮かない顔をしていた。


「これ、そんなに困難な仕事?」


「困難と言うよりも…うーんにゃ」


「話が少し上手すぎるんですよ」


「上手い?」


 ウィルテが手を上げて注文をする。それに合わせて、アタシもフィーリーも飲み物だけ頼んだ。


 アタシはまだ、アブドルさんの頼んでくれた食事が消化しきれてない。


「依頼内容はそこまで難しなさそうにゃ。廃屋に住む魔物退治。読む感じだと、これは屍鬼グールにゃね」


「グールって、ゾンビみたいな奴?」


「そうにゃ。討伐ランクは最低のEにゃ。武器を使う知能はにゃいから、スケルトンよりも簡単な相手にゃ」


「唯一気をつけるべき点は毒ですが、直線的な攻撃しかしてこないので対処しやすい。ウィルテは炎魔法の使い手ですし、まず苦戦はしないでしょう」


 歩く死体を燃やすのか……嫌なニオイしそう。


「給金は手付3,500E、本報酬で6,500E……計10,000Eにゃ」


 グール相手に、この額が高いのかどうかアタシにはいまいち分からない。


「……そうですね。グール1体程度なら、1,000Eでも破格でしょう。仮に他の追加注文が入っても、この額を上回ることはないかと」


 フィーリーがアタシが困った顔をしているのを見てそう説明してくれる。


「なら、なんか他に条件とかがついてるとか?」


 ウィルテもフィーリーも首を横に振る。


 頼んでいた飲み物とお通しが来た。


 2人は麦酒だけど、アタシはアルコールが飲めないからココナッツみたいな味のする果汁だ。あんまり美味しいとは思わないんだけどね。


「この金額なら、先の報酬と合わせても船賃としては充分ですね」


「え? そうなの? でも確か、1人10万はするって……」


 ウィルテには、島を出るには「たくさん稼がなきゃいけない」と言われていた。


 今回の報酬は19,000Eで、3人で割ると1人あたり6,300Eだ。全然、まだまだ足りないと思ってたんだけど。


「10万? いったい、どこまで行かれるつもりなんですか?」


「へ?」


 フィーリーが驚いて言うのに、ウィルテが舌を出す。


「……まさか、騙したの?」


「ニャハハ! ま、そんなことより今はこの依頼を受けるか否かの話にゃ!」


「誤魔化すなよ」


 きっとアタシを使って、稼げるだけ稼ぐ魂胆だったに違いない。


「……手っ取り早く稼ぐことができるならば、私としては多少のリスクは厭いませんが」


 ウィルテも賛同すると思いきや、何やら首を捻る。


「どうしたの? いつもならすぐに飛びつく話じゃないの?」


「そうにゃんだけど。依頼人が……ねぇ」


「町長の息子マルカトニー・レパトリだという部分ですね」


 ウィルテは頷く。


「あまり良い評判は聞きませんが……信用できない相手なのですか?」


 フィーリーが聞くのに、ウィルテはまた「うーん」と悩む。


「……別荘にしていた家屋に屍鬼グールが住み着いたから退治してくれ。話の筋としてはおかしくないにゃ。そういうこともあるにゃ」


「なら、何が気になってるって言うの?」


「なんと言うか、普通すぎるにゃ」


「普通すぎる?」


「金払いがよい件は?」


「そこもおかしくはないにゃ。口止め料……もし、その別荘を売ることを考えるにゃら、公にはしたくにゃい。額面的にも妥当とも思えるにゃ」


 ウィルテが何が言いたいのかイマイチ理解できず、アタシとフィーリーは顔を見合わせる。


「そのね、ウィルテが気にかかってるのは、あまりにもあのドラ息子にしては普通すぎるってところにゃんよ」


 なに? 普通すぎるからおかしいって、息子ってそんなにおかしな人なの?


「なら受けるの止めるの?」


「いや、受けるにゃ」


「は? それなら、もう話は終わってるじゃん」


 レンジャーとして一番ベテランのウィルテがいいなら、アタシたちとしてはそれに従うだけだ。


「……そうにゃねー」


「もし、ウィルテが乗り気じゃないなら、アタシとフィーリーでやるよ」


 アタシがそう言うと、ウィルテはピーンと耳を立てる。


「いや、そういうわけじゃないのにゃ!」


「やるなら、やろうよ。なんか怪しければ途中で止めればいいし」


「……そうにゃね」


 確か依頼内容が全然違ったりした場合、途中でキャンセルしてもペナルティはなかったと思う。ウィルテがそれを知らないはずもない。


「では、決まりですね。ギルドに受ける旨を伝えに行きましょう」

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