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067 二大巨頭

 リュウベイの登場に、マイザーたちは戦意が削がれた感じがする。


 それはブルーランクこと、“レイヴンツヴァイ”のリーダー、“猛虎”と呼ばれ、恐れられる剣士こそがリュウベイであり、イークル冒険者ギルドに置いても、戦闘能力でいえば他者の追随を許さず、大都市であればレッドランクに相当する実力者と噂される人物であったからだ。


「アンタ、俺たちが邪魔になるって……」


「事実を述べたまで。雑魚にウロウロされても目障りだと言っている」


 マイザーたちは気色ばんだが、リュウベイの三白眼の迫力を前に圧されてしまう。


(なんて眼力だ…。これがブルーランクかよ。俺より一個上ってなだけで、こんなに差があるもんなのか)


「アンタ……ひとりか?」


 チーム名の通り、2人チームであるはずなのに、リュウベイは単騎だった。だから、マイザーは不思議に思ってそう聞いたのだ。


「フン。クビにしたのだ。足手まといなど拙者にはいらん」


 これが“レイブンツヴァイ”の特色だ。リュウベイひとりでこのチームは完結しており、後は彼の荷物持ちや私生活を補助する手伝いでしかない。ギルドの依頼は、ほぼリュウベイの独力で達成していた。

 故にパートナーは定着せず、自分勝手なリュウベイに愛想をつかしては辞めてしまう。その場合でも、リュウベイは「拙者がクビにした」というのが常だったのだ。


「…だけど、さっき、拙者“たち”って言ってたでしょ」


 トレーナが疑問を口にすると、リュウベイはフンと鼻を鳴らす。


「……まあ、拙者に並ぶとまでは言わんが、それでもついて来れるレンジャーなら話は別だ」


 リュウベイの目線の先に、白銀の鎧を纏う偉丈夫たちがいた。


「ま、まさか…“クアトロアックス”のローガン兄弟か!?」


「よう! “マイザー・チーム”! 久しぶりだなぁ!」


 リーダーである長兄ローガンが、磨かれた禿頭と白い歯を同時に光らせる。


 瓜二つの3人の弟たちも同じように頭と歯を光らせ、その反射が合わさって辺りを明るく照らしていた。


「ヌゥッッ…」


「落ち着いて、ダルハイド。敵じゃない……」


 ダルハイドが警戒して唸るのを、シェイミが背中を優しく撫でて宥める。


「ハハハ。魔物ではないトロルを狩る趣味はないよ」


 ローガンは口元こそ笑っていたが、据わった目でダルハイドを見やる。


 彼らクアトロアックスは、主に野良トロルを狩る仕事を生業にしていた。


 トロルは知性を持つハイ・トロルと、持たないロー・トロルに分かれるが、後者は文明に属さず無法を働くことがあり、魔物として討伐されることがあるのだ。


 しかし、ダルハイドからすれば知性あるなしによらず、同族は同族であり、同族を殺すレンジャーに対して強い敵愾心を抱いていたのである。


「この付近はボブゴブリンがたまに出る程度だったからな。退屈だったんだ。そんなもんだから、アレの出現はちょうどいい」


 ローガンは、こちらへと迫って来るリビングアーマーを親指で差して言う。


「……倒せるのは、拙者か、“クアトロアックス”しかおるまい」


 リュウベイは目を細め、ローガンたちの持つ巨大な戦斧を見やる。

 4人兄弟が全員が同じ戦斧を持っていた。これがチーム名の由来である。


「倒した魔物の数で言えば、俺たちの方が上なんだぜ。レッドランクまで秒読み段階さ。リュウベイさん」


「…ハッ! 討伐難度が高い依頼はほぼ拙者が片付けている。今回の大金星で、その僅かな差を埋められよう」


 互いにライバル視しているリュウベイと、ローガンの間で見えない火花が散る。


「お、俺たちは……」


「“マイザー・チーム”は実力あるし、堅実派だからな。普通の任務なら、チームアップをと言いたいところだが……ここは戦闘特化の俺たちに任せておきな」


 柔らかくそう言うが、ローガンの目は明らかにマイザーたちを見下していた。


(クソ。俺はまだコイツらの足元にも及ばないってのか……)


「お喋りはそこまでだ。そろそろ間合いに入るぞ」


 リュウベイの言う通り、リビングアーマーは石畳を叩き割りながら前進し、目と鼻の先にまで迫っていた。


「では……」


「待って!!!」


「民間人? いや、あれは…ローラさんか?」


 ギルドの受付嬢が息を切らせて走ってくる。


「ハァハァ…。あ、あれは私の妹なんです! い、依頼は彼女を無事に救出することで……お願いします!」


「なんだって?」


 マイザーたちは目を見開く。


「ちょっと、ローラさん。妹って、ランザちゃんのこと? どうして、そんなことに……」


 シェイミが、息も絶え絶えのローラを支えつつ尋ねる。


「詳しいことは私も……。ですが、あれを見て下さい」


 震える指で、ローラはリビングアーマーの胸元辺りを指差す。


 まるで囚われてでもいるかのように、半裸の女性がそこにはぶら下がっていた。


「あ、あそこにいるが……まさか」


「ウソでしょ。魔物と融合しているの?」


 トレーナが口元を覆って顔を青くする。


「……魔物と融合だと? ならば、あの部分が“核”なのか?」


「オイオイ。だとしたら、救出は無理だぜ」


 リュウベイとローガンがそう言うのに、ローラは絶望を顔に浮かべる。


「お願いです。少しの間、時間を稼ぐだけでいいんです。そうすれば……」


「フン。時間を稼げ? 稼いでどうなると言うのだ」


 リュウベイは眉を寄せて不快感を顕にする。


「きっと助ける手立てが……」


「なあ、ローラさん。悪いことは言いたかないが、妹さんのことは諦めな。

 どういう事情か知らねぇが、ありゃ助けるのは難しそうだ。倒すっきゃないぜ」


「そ、そんな……」


「待てよ。リュウベイ、ローガン。そんな簡単に諦められるかよ。彼女の家族だぞ」


 マイザーは、ローラに強く同情していた。


 ギルドで何度も世話になった相手だ。その家族がピンチとあって、何とかしたいという気持ちが湧いてきたのだ。


「フン。聞く耳など持てんな。こうしている間に、町が破壊されていく。死体が増える一方だ。それを捨て置けと? 馬鹿も休み休み言え」


「ああ。それには同意見だぜ。レンジャーってのは、即座に正しい判断ができなきゃいけねぇ。情なんてあやふやなもんに左右されてちゃ、この先とてもやっていけねぇぜ」


 リュウベイとローガンたちは武器を構え、そして一気呵成に走り出した!


「待って! お願い! ランザを、ランザを殺さないで!!」


 ローラのそんな悲痛な叫びは、もはや彼らには届かなかった──。

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