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第10話 家族というもの

 凛子の震える声がリビングに響いた。

 美琴が息を呑み、すみ子も手を胸元で握りしめる。

 晃は静かに凛子の言葉を待っていた。


「私……雅司と一緒に、二人で決めて、二人で乗り越えていくものだと思ってた。

 でも……何かあるたびに雅司のご両親が出てきて、私のことを否定して、勝手に決めていく。

 それを雅司は黙って見てるだけ……それで、本当に幸せになれるの?」


 雅司は焦ったように手を伸ばしかけたが、凛子は一歩引いた。


「……僕は、ただ凛子に幸せになってほしくて……」


「じゃあ、どうして私の気持ちは考えてくれないの?」


 雅司は答えられなかった。

 光江が苛立たしげにため息をつく。


「まったく……これだから今の若い子は……いい? 結婚っていうのはね、お互いに歩み寄って、家族の中で役割を果たすことなの。

 それができないなら、結婚なんてやめたほうがいいわ!」


 凛子は唇を噛み締めた。


「……そうですね。私、結婚する資格がないのかもしれません」


「わかればいいのよ。さ、雅司、帰るわよ。こんなことで結婚を揺るがすなんて馬鹿らしい」


 光江が勝ち誇ったように微笑む。

 だが——


「違う。私は結婚する資格がないんじゃなくて、雅司さんと結婚する気がなくなっただけです」


 その言葉に、部屋の空気が凍りついた。

 雅司は何か言いたそうだったが、グッと堪えて


「ごめん、反省してる……結婚辞めるなんて言わないでよ」


 と優しい言葉を口にした。今にも泣きそうな顔をしている。しかし、凛子は静かに首を振った。

 すると光江が、苛立ちを隠さぬまま声を張り上げる。


「もうこんなアバズレ娘、辞めなさい! もう遅いし……来週、うちに来て話し合いましょう。雅司も昨日も今朝も出来合いのものしか食べてないって言ってたし!」


 そう言い放ち、雅司の手を引いて出ていった。

 三人の姿が見えなくなると、すみ子は堪えていた感情をぶちまけた。


「傷つけたあとで、あんなふうに優しくしてくるのって、よくあるパターンだよ!」


 美琴も深く頷く。すみ子が観ているドラマに、まさに同じようなシーンがあるらしい。主人公が元彼の言葉にほだされてよりを戻し、結局またひどい目に遭うという展開だ。


「……よく言ったな、凛子」


 晃がぼそっと呟く。


 すみ子と美琴が 


「なんであの人たちに怒らなかったの?」


 と聞くと、晃は肩をすくめて言った。


「無駄だよ。何を言っても、あっちは自分の意見を押し通すだけだから」


 そう言うと、さっさとテレビをつける。どうやら漫才エベレストナンバーワンが始まるらしい。すみ子たちはあの三人を早々帰らせたのも晃がこれを見たかっただけなのだろうと。マイペースさにすみ子はまた呆れる。


「どうしよう、来週……」


 凛子が不安げに呟くと、晃は画面を見たまま言った。


「とりあえず、一週間ある。まずはリラックスすることが大事だ」


 すみ子と美琴は呆れたように顔を見合わせつつも、四人でソファに座り、テレビを眺めるのだった。





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