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第4話 行っちゃダメですッ!


 俺は連れられるままにダンジョンを進んだ。

 そして今目の前にはそのコボルト?とやら。


「ガウガウッ」


「ねぇ西奈さん」


「はい?」


「ガウガウ言ってんだけど」


「言ってますねぇ」


「……ねぇじゃなくて、どうすればいいの? これ襲ってくる感じじゃない?」


 目の前の……なんだこれ。

 えっと二本足で立つ鎧を着た犬、コボルトとか言ってたけどゲームとかで見たことがあるような気がする。


 ま、とにかくそんな奇妙な動物がこちらに牙を向けており、今まさに襲ってこようとしている。


「ガウーーッ!」


 やっぱり。

 ドタドタと迫ってきた。


「戸波さん! 倒しちゃってください!」


「どうやってよーーっ!」


 俺はそう叫びながらも、コボルトのもう突進をサイドへ逃げ込むことで躱すことができた。


「あ、戸波さん! ステータスって叫んでみてください!」


 教えるの忘れてた、みたいな顔しないでよ西奈さん。

 ……ってそんなツッコんでる場合じゃないか。


「ス、ステータスッ!」



名前 戸波 海成

階級 E級冒険者

職業 武闘家

レベル 1


HP 100/100

MP 10/10


攻撃力 10

防御力 10

速度  10

魔攻  10

魔坊  10


ステータスポイント(残りポイント0)


スキル(残りポイント500)


▼攻撃スキル

 【正拳突き】


▼パッシブスキル

 なし



 なんだ?

 目の前にウィンドウのようなものが現れたぞ。


 攻撃、防御……まるでゲームのステータスと一緒だ。

 さらに下を見ると、パッシブスキルや攻撃スキルなんていう表示まである。

 これを、使う感じなのか?


「戸波さんっ! 攻撃スキルを口に出してくださいっ!」


「ええ……これを声に出すの?」


 ちょっと技の名前が厨二病感あって恥ずいんだけど。


「ほら早くしないと、モンスターが襲ってきますよ!」


 コボルトが迫ってくる。


「ええい、ままよっ! 【正拳突き】」


 すると、今回は身体が自動に……というわけではなく、半自動的に誘導される。

 感覚としては、自分の動きに対してスキルが補助してくれている、といった感じ。


 強く握られた俺の拳は勢いよく前に突き出され、見事コボルトの顔面へと放たれた。

 そして吹き飛ばされたコボルトは、突如その場から消滅、まるでゲームのようにポリゴン状となって姿を消したのである。


「倒した、のか?」


「はい。戸波さん、完璧でしたよ!」


「よ、よっしゃーーっ!」


「おめでとうございます、パチパチパチッ!」


 モンスター討伐の高揚感からつい声をあげて喜んでしまった俺を、西奈さんはパチパチと口頭で言いつつ手も叩き、喝采してくれた。


 さっき彼女が言ってたモンスターを倒す楽しみ、みたいなものが少しわかってしまった自分がいる。


「よっし、このまま奥まで行っちゃうか!」


「そうしましょうっ! レッツチュートリアル!」


「……じゃなくて俺、西奈さんが手本として戦ってくれるのかと思ってたんですが?」


 危ない、危うくモンスター討伐の高揚感に理性をもってかれるところだった。

 肝心の教育係?である西奈さんのことはどうしても聞いておきたい。


「あ、アタシ戦えませんよ?」


「……え。ガチ?」


「ガチですっ♪」


 ここで衝撃の事実。

 話を聞くところ、西奈さんの領分は戦闘面ではなく、あくまで人の才能を見極めるため他人のステータスを詳細に目視すること。

 そのために必要なスキル【鑑定】の熟練度向上に全振りしていることから、戦闘スキルはひとつも覚えてないとのこと。


 だから彼女の仕事は冒険者の人事に関することや、ダンジョンの発生を瞬時に把握、指示するといった事務的なことがメインらしい。


「そう、だったんですかぁ……」


「戸波さん、大丈夫ですよ。ここはE級ダンジョンなので、モンスターのレベルもさっきと同じくらいです。サクッと倒して外に出ちゃいましょうっ!」


 西奈さんは明らかに肩を落とす俺に励ましの言葉らしきものをかけてくれた。


 ……いや、何クヨクヨしてんだ俺。

 初めから西奈さん頼りで本当に情けない。

 ここに来たのは冒険者になりたくて……ってわけじゃないし、ゲートに飛び込んだのも西奈さんに強引に押されて……だけど彼女を信じて行動したのは誰でもない自分自身だ。


 冒険者だって立派な仕事の一つ。

 前の会社で学んだだろ。

 言われたことだけじゃない、それ以上をやってのけろ、戸波海成!


「よし、西奈さん、行きましょうか!」


「……はいっ!」


 俺の決意に一安心したのか、西奈さんはパァッと頬を緩ませる。



 そして俺達は、しばらくコボルトやゴブリンを相手しつつダンジョンを進んでいった。


 合計5体のモンスターを倒したことで、Lv1だった俺のステータスは、無事Lv3へと成長を遂げた。

 ちょろちょろと攻撃や防御の数値も変わってはいたが、今はダンジョン攻略中、細かくは見ていない。


「西奈さん、奥にはボスとかいたりするの?」


「えっとですね、報告によると、このダンジョンのボスはもう攻略済みらしいです。なので奥にはもう帰りのゲートしかないはずですよ」


「へぇ奥に行けば帰れるってほんとにゲームみたい」


「そうですね。それでいえば、ボスのいないダンジョンは後々消滅するのもゲームみたいですよね?」


「え、消滅するの!? 早く出なきゃっ!」


「ふふ、安心してください。数日はゲートも保たれるので問題なしです。それにそろそろ奥だと思いますよ」


 西奈さんは通路の先を指差した。

 その先には広い空間と、ここへ入ってきた時と同じゲートがある。

 あれをくぐれば帰れるってわけか。


 だけどゲート前に誰か座って何かを食べてるぞ?

 ま、帰る前に休憩中の冒険者みたいな?


「よし西奈さん、早く出ようぜ!」


「と、戸波さんっ! 行っちゃダメですッ!」


「え……?」


 通路を無事抜けた俺。

 西奈さんの今まで見せたことのない切迫した声が届くが、その前に俺はこの広い空間へと到着してしまった。


 クチャクチャッーー


「え、」


 俺はその光景に言葉を失った。

 男は座ったまま何かにかぶりついている。


 粘り気のある咀嚼音。

 熟した果実のようにかじった食痕からは赤い液体が飛び散っている。


 その男が手に持つ薄ピンクのそれを見て西奈さんが声を上げた。


「脳……っ!? なんでこんなところに!?」


 脳?

 ってもしかして人の……。

 そんなバカなこと……いや待てよ、そういえば最近そんなニュースがよくあった気がするぞ。


 頭部のない死体、頭部が切り開かれた死体、頭部のみが発見、そんな怪奇的な事件が。


 そう思った時、ふと視界をよぎった。

 その男の後ろに転がる、額から上を水平に切り開かれた人の姿が。


「う……っ、おえぇ……っ!」


 思わず上がってきたものを吐瀉してしまった。


 惨い、惨すぎる。

 なんであの男は平然と脳を食べてるんだよ。


 その時、ソイツとパッと目が合った。


「あ、お前も喰う?」


 その男は血で汚れた口で笑みながらそう言うのだった。

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