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第6話 その根性叩き直してやる



《専用パッシブスキル:魔力吸収を獲得しました》


《専用パッシブスキル:自動反撃を獲得しました》


《専用パッシブスキル:貯蔵Lv1を獲得しました》


《専用攻撃スキル:アークスマッシュを獲得しました》


 続いて鳴り響く脳内音声。

 しかし俺は気にすることなく足を進める。


「待てって言ってんだろ」


 そう乱暴に言い放つと、男はぐるりと首を回して俺を睨みつけてきた。


「あ? お前自分が今襲われてないからってえらく強気じゃねぇか。てめぇはこの女の後だ。震えて待っとけ」


「ひぃ……っ」


 男はツラツラ言い終えた後、短刀を再び西奈さんの額に押し当てようとする。


「だから待てって聞こえなかったのか!」


 一切話を聞かない男に俺は、はぁ、と深くため息をついた後、思いっきり回し蹴りを打ち込んだ。


「ブ……ッ!?」


 見事顔の側面に俺の蹴りが入った男は、馬乗り状態から大きく飛ばされるも、なんとか受け身をとって立ち上がってくる。

 そして男は首をコキコキ鳴らしながら、血走った目で高笑いする。


「はは、わーった。女はもうどうでもいいわ。お前さえ殺せりゃな」


 今の一撃で完全にブチギレたらしい。


 そんな男の姿を見て俺は今、不思議な感覚に陥っている。


 どう考えても負ける気がしないのだ。

 これは決して自分の力量に自信がある、とかそういった感じではない。

 なんというか同じ土俵ではない、そんなレベル。

 例えるなら、人間がハエや蚊に対して本気で殴り合わないのと同じみたいな。

 当然恐怖心なんて今の俺の中には1ミクロも存在しない。


 そのため、俺が今持っている感情はただ2つ。


 ふつふつと湧き上がる怒りとアイツを倒さなきゃいけないという使命感だけ。


 そう、何かが俺に勇気をくれたのだ。


「さっさと死ね! 【ファイアボム】!」


「と、戸波さんっ!」


 飛んでくる火の球と共に西奈さんの声もする。


「大丈夫ですよ。西奈さんはそこで待っててください」


《パッシブスキル:魔力吸収を発動します》


 突如流れる脳内音声、魔力吸収。

 なんかさっき頭の中で鳴ってた気がする。

 そのパッシブスキルに見覚えはないが、俺の本能はなぜかそれの使い方を知っているようだ。


 俺は自然に手を前にかざした。

 するとその火は球体の形を無惨にも崩し、ただの青い気体となって俺の手に吸い込まれていく。


「……は? てめぇ何した!?」


「お前こそなんだあの火は。お遊びにしても小さすぎやしねぇか?」


「くっそ、もういいわ」


 男は再び手をかざし、さっきよりも赤い紅炎の球を創り出した。


「戸波さん……」


「西奈さん、俺の後ろに隠れてください」


 俺は彼女を庇うように背後へ誘導した。


「この魔法に触れた奴ァ身すら溶かしちまうんでな、脳を食べたいオレからするとあまり使いたくねんだが、仕方ねぇ。テメェはオレをそれほどまでに怒らせたんだよ」


「……御託はいいからさっさと撃ったら?」


 普段なら言えないような強気な言葉。

 今ならツラツラと自然に口から湧き出てくる。


「あっそ、じゃあ死ねや。炎上級魔法【プロミネンス・ノヴァ】」


 そして放たれた紅炎の球。

 近づくにつれ、ありえない熱気が伝わってくる。


《パッシブスキル:魔力吸収を発動します》


 しかしそんなものは関係ない。

 俺が手をかざせば、それはただの魔力として俺の体に吸い込まれるだけなのだから。

 いくら強い魔法といえど結局元を辿れば同じ魔力、原型が崩れれば全て一緒だ。


「……は? うそ、だろ?」


「万事休すってか?」


 俺は男に向かってゆっくりと歩みを進める。


「ま、まだっ! 炎上級魔法【フェニックス】」


《パッシブスキル:魔力吸収を発動します》


 全く懲りないやつだ。

 しかしさっきの吸収でようやく今の状況が分かったのか、男は怯えた顔で後ずさっていく。


「わ、わかった! 乱暴して悪かったよ。オレァもうここから出る。だからもう戦いは終わりにしよう。な?」


 そして男はチラチラと出口ゲートのある方に視線を送り、一気に走り出した。


「……誰が逃がすって言った? お前が逃げたら被害が増えるでしょうよ」


 しかし問題なく俺は回り込み、立ち塞がった。


「大丈夫だ。もう二度と人には手出ししないよ。だから今日は見逃してくれっ!」


 その引き攣った顔で許しを乞う姿。

 腹立だしくて仕方ない。


「人を殺しといて自分は責任逃れ、か。その根性叩き直してやる。攻撃スキル【アークスマッシュ】」


 詠唱と共に俺の右腕は青く光り輝いた。

 これはさっき吸収した魔力の力。

 それを拳に乗せて打ち込む、それがアークスマッシュだ。


「ハァーーッ!」


 俺は勢いのまま拳を振るった。


「ひぃ、助けてく……ブフォッ!」


 男は大きく吹き飛ばされ、先にあった壁にめり込んだのだった。


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