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第10話 ちょっと死ぬかもしんないけど、頑張っちゃえよぉ



 俺は瑠璃に教えてもらいながら、【隠蔽】スキルをレベル10を無事に獲得することができた。

 やってみると意外と簡単で、ステータス画面から取得可能スキル一覧という項目があるので、その中から選んでいくだけ。

 操作もなぜかスマホと同じようなタッチ形式だったため、あっという間だった。


 そしてその後今日は仕事があるので、と瑠璃はそそくさとハローワークへ向かってしまったので、俺は彼女が去り際に教えてくれた【隠蔽】によって他人から見えるステータスの書き換えを行っていく。



 名前 戸波 海成

 階級 E級冒険者

 職業 武闘家

 レベル 3


 HP 140/140

 MP 12/12


 攻撃力 14

 防御力 14

 速度  14

 魔攻  12

 魔坊  12


 ステータスポイント(残りポイント6)


 スキル(残りポイント540)


 ▼攻撃スキル

 【正拳突き】


 ▼パッシブスキル

 なし



 ざっとこんな感じだ。



 名前 戸波 海成

 階級 E級冒険者

 職業 マジックブレイカー

 レベル 3


 HP 140/140

 MP 12/12


 攻撃力 14

 防御力 14

 速度  14

 魔攻  12

 魔坊  12


 ステータスポイント(残りポイント6)


 スキル(残りポイント540)


 ▼攻撃スキル

 【正拳突き】【アークスマッシュ】


 ▼パッシブスキル

 【不屈の闘志】【魔力吸収】【自動反撃】【貯蔵Lv1】

【隠蔽Lv10】



 まぁ実際はこうなんだけど。


 おいおい、進化しても各ステータスの数値変わりねーじゃねぇか!

 ……なんて初めは思ったが、次のレベルアップからステータスの変化量が増大するらしい。


 ちなみにどれくらい変わるのか?

 武闘家の場合、HP、攻撃、防御、速度のパラメーターが2ずつ、その他は1ずつ向上していた。

 しかしこれがマジックブレイカーになった場合、レベルアップ時の変化量がHP、攻撃、防御、速度のパラメーターのみ武闘家の頃の3倍になるらしい。

 ……その代わり、魔法系のステータスは微塵も向上しない仕様になってしまうようだが。



「海成、ちょっといいか?」


 と、一区切りついたところで久後さんに呼びかけられた。


「はい!」


 俺はソファから立ち上がり、久後さんが座るデスクの元へと駆け寄る。


 いつの間にかゲームは終わっていたらしい。

 久後さんはヘッドフォンを外し、手に持っていたコントローラーはデスクの端にまとめて置いている。

 そして俺を見るニタリ顔、なんか嫌な予感しかしないんだけど。


「よし、海成! さっそく仕事の話だ」


「え、いきなり!?」


「おう、D級ダンジョンな」


 D級……ってことはE級より上じゃん。

 当たり前だけど。


「あの、俺E級冒険者なんですけどぉ」


「あ〜まぁちょっと死ぬかもしんないけど、頑張っちゃえよぉっ!」


 やっぱこの人頭おかしいわ。

 部下の命を懸けたダンジョン探索を「ほら告っちゃえよぉ」みたいな男子高校生バリのノリで押し切ろうとしてくる。


「……冗談じゃん、そんな引くなって。今回は紗夜と一緒だ。アイツ、B級冒険者でめっちゃ強いから大丈夫、安心して行ってこい」


「ほっ、そうですか」


 なんだよ、ビビらせやがって。

 いくら武闘家からマジックブレイカーになったからって俺はE級冒険者でしかもレベル3。

 1人でD級ダンジョンなんて確実にちびるところだった。


「……てかD級ダンジョンって難しいんですか?」


「あ? まぁ階級どおりD級冒険者でちょうどいい難度ってところだな」


「じゃあやっぱり危険じゃないですかっ!」


「うるせぇ! 男なら危険の1つや2つ、超えて見せろや! じゃねぇと西奈の男は務まんねぇぞ」


「え……っ! そんなんじゃないですよっ!」


 咄嗟に否定したが、久後さんの姿勢は前のめり。

 食いつきよくさらに問いを投げてきた。


「おっ、なら紗夜か? アイツもアイツで気ぃ強えからなぁ。付き合う男は苦労するぞ」


「な……っ!?」


 突然羅列された美女2人の名前に、俺は顔を火照らさざるを得なかった。


 あの2人が俺と……?

 いや、有り得ない。

 さすがに高嶺の花が過ぎるわ。


「ははっ、まぁ軽いジョークだ、気にすんな」



 久後さんの笑いがおさまったところで、ようやくダンジョンの話に入った。


 今回依頼されたダンジョンだが、ただのD級ダンジョンではない。

 十数名の冒険者、中にはC級の冒険者もいたはず、しかし未だに帰還者が1名もいないという非常に危険度が高く謎が多いダンジョンなのだ。


 そしてすでに発生から2週間が過ぎている。

 本来ダンジョンの攻略は3週間が過ぎれば、ダンジョンブレイク……つまりいつ内部のモンスターが現実世界へ飛び出してきてもおかしくないという。


「……なら、俺じゃなくてもっと強い冒険者が行ったほうが。それこそ、本部直属の人達とかが行く方が確実だと思うんですが?」


 単純な疑問。

 そんな危険なダンジョン、本部の強い人達が行けばいいだけだと思った。

 すると、俺の問いに久後はため息をつく。


「アイツら強いんだけどよ、攻略するダンジョンを選り好みするんだ。まぁせめてC級のダンジョンとかなら検討の余地はあったかもな」


 久後さんいわく、本部の冒険者はC級以下のダンジョンにはいかないらしい。

 なんでも、採れる鉱石やドロップアイテムの価値が全然違うとか。


 そのため、D級やE級のダンジョンは俺達が属するような子会社がいつも担っている。

 ちなみにここはハローワーク支部、他にもいくつかの小さな子会社が数え切れないほどあるらしい。


「……ま、とにかく明日な。頼んだわ海成」


「えぇ、そんなぁ……ってちょっと久後さん」


「あ?」


 俺の呼びかけに気だるげそうな声で反応する。


「そういえば昨日のダンジョンで冒険者が脳を……」


 うえぇ……。

 思い出しただけで気分悪くなる。

 ……けど俺は理由が知りたい。

 なぜあんなことをしたのか。


 すると久後さんはコントローラーをそっとデスクに置いた。


「あぁ、ありゃ『共喰い』だ。あくまで噂だが冒険者が冒険者の脳を喰うと、能力が引き継げるらしい」


「ガ、ガチですか?」


「俺は喰ったことねぇから知らんが、そんな噂が広まってからだな。この手の事件が増えたのは」


 なる、ほど。

 結局真相は分からないが、あの冒険者は強くなるために脳を喰らってたってことか。


「ほら、話が終わったならとっとと帰った。おめぇの仕事はもうねんだ」


 久後さんはシッシと俺を煙たがるように手で払い除ける素振りをしている。

 いや、ひどいなこの人。


「……分かりましたよ」



 と、半ば強引に帰宅させられた俺だったが、帰り際交換した久後さんの連絡先から明日のダンジョン情報と紗夜さんの連絡先が送られてきた。


 おっしゃっ!

 これで紗夜さんと個人的にやり取りできるぜ☆、なんて思ったのはここだけの話だ。



 ◇



 同時刻、ウワサのD級ダンジョンにて――



 1人の男冒険者は洞窟を歩いていた。


「……D級ダンジョンの壁に転移石があるなんて聞いてねぇぞ。ったくここはどこなんだよ」


 男は文句を垂れつつ、仲間を探している最中。


 ガサッ――


「な、なんだっ!?」


 静かで薄暗いダンジョン内部で起こった謎の音。

 そして天井からパラパラと砂のような小さな石の粒が降ってきた。


 なんだ、と怪しんだ男はゆっくりと天井に目をやる。


 シューッ!


 そこで鳴き声を上げるのは推定体長5メートルの大蜘蛛。

 この薄暗い空間の中、8つの大きな目を輝かせている。


「うわっ!? なんでこんなところにデスウィーバーが!? コイツ、B級のモンスターじゃ……うわぁぁぁぁっ!」


 男はデスウィーバーのはいた糸に見事絡められた。


「ま、待て! だれか、だれか助けてくれぇぇっ!」


 出せる限りの大声で助けを求めるが、誰一人駆けつける様子はない。

 ゆっくりと近づいてくるデスウィーバー。

 そして眼前にまで迫ったそれを見て、男は悲鳴をあげた。


「ひぃ……っ! ごめんなさ……あぁぁああああ」


 ブチッ――


 蜘蛛はまずは男の足を食いちぎった。

 どこへも逃げられないようにしたのち、四肢を順に剥ぎ取っていく。


 デスウィーバー。

 別名『死の蜘蛛』は絶望の淵に落とされた人間の表情が1番の好物。

 人間の肢体を千切って弄ぶ癖があるのだ。



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