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第13話 俺、転移石に当たっちゃったみたいで




 俺と紗夜さんは下の階層へと降った。

 ……まぁさっきと大して景色は変わらないが。


「先に進もっか」


 紗夜さんが前に進もうとした時、俺は壁に突き刺さったある物を見つけた。

 それは水色で細長い鉱石。

 たしかE級ダンジョンに行った時、掘り起こした鉱石を売れば1万から100万ほどの価値があるんだと瑠璃が言っていた。


 そんなの掘らにゃ損損でしょ!

 インベントリにしまえば、荷物にもならないわけだし。


「紗夜さん、ちょっと待ってください。せっかくなんで、鉱石採ってから行きましょうよ」


 100万は我の手にっ!


「待って!」


 その鉱石に触れる寸前、紗夜さんが俺の手を止める。


「ふぁいっ!?」


 突然紗夜さんのスベスベ肌に包まれて、思わず変な声で叫んでしまった。


 すると紗夜さんは、ふぅ、と心底安心したかように息を吐く。


「それ、転移石。触れたらダンジョン内のどこかに飛ばされちゃうの」


「ガ、ガチっすか」


 あ、危ない……。

 まじで触らなくてよかったぁ。

 こんなわけの分からないダンジョンで1人、無事に帰れる自信なんて1ミリもない。


「……よかった。君がどこかに飛んじゃったら、さすがに守ってあげられないからね〜」


 そう言って困り眉で笑う紗夜さん。

 控えめにいって可愛いです。


 とか思いつつも、俺は先に進む紗夜さんの後を追っていった。




 そしてしばらく歩くと現れた1体のモンスター。


 緑に染まった体、光沢がかった硬性っぽい鱗。

 昨日倒したコボルトのように2足で立つトカゲだ。

 立派な槍を手に持ち、戦う気満々といった様子。


「あれはリザードマンね。D級のモンスターだし、一緒に戦おっか」


 俺は頷こうとしたが、踏みとどまる。


 もしかして、これは成長するチャンスなんじゃないか?


「紗夜さん、ここは1人で戦わせてください」


 相手は1体、これなら俺でもなんとかなるかもしれない。


「1人か、うーん……」


 紗夜さんは数秒考える素振りを見せる。

 そしてしばらく思考を巡らせてからようやく首を縦に振った。


「分かったわ。その代わり、危険だと判断した場合は助けに入るから」


「ありがとうございます」


 さぁ、お手並み拝見だ。


 槍を持っているリザードマンを敵だと認識した瞬間、どこからともなく戦う勇気や絶対的自信が湧いてくる。

 これがパッシブスキル【不屈の闘志】、戦いにおいて非常にありがたい存在だ。


 相手はおそらく近接タイプ。

 距離が近ければ【自動反撃】で倒せる可能性が高い。


「グガッ!」


 案の定、リザードマンは距離を詰めてきた。

 そして考えなしに槍で突いてくるが、全く問題ない。


《専用パッシブスキル:自動反撃を発動します》


 脳に直接響くAI音声。

 この声にもかなり慣れてきた。


「【正拳突き】」


 俺の体はスキルの補助により、最小限の動きでその槍を躱わし、本気の一撃をぶち込む。 


 勢いのまま吹っ飛んだリザードマンは、空中でポリゴン状に姿を消した。


 なんとか倒せた。


「海成くん、すごい! D級のモンスターだよ? よくそのステータスで倒せたね。しかも躱わし方だってそう。海成くん、君もしかして……」


 紗夜さんは怪訝な顔をする。


 まさか、俺が【隠蔽】でステータスを誤魔化しているのがバレたのか?


「もしかして海成くんって……運動神経いい方?」


「え、あ、そうです! これでも喧嘩は昔から強かったんですよ」


 妙に間が空いたので、焦った。

 とりあえず話題を変えねば。


「紗夜さん、早く先に進みましょっ! 今度は俺が先頭で行きますよっ!」


 俺は彼女の気を逸らすため、ダンジョンを進み始めた。

 まぁ多少前に進んでも今のリザードマンくらいなら倒せることが分かったし、問題はないだろう。



「あ、待って! ちゃんと周り見ながら進んでよ〜?」


 俺が足を進めると、紗夜さんも焦って後をついてきた。

 なんだか母親に心配される子供みたいだな。


「分かってますって! 前向いて歩きま……うわっ!」


 なんて思っていると、言ってる傍から躓いたぞ。

 恥ずかしい、大人にもなってこんな派手に転ぶとは。


「ちょっと海成くん大丈夫?」


「すみません、なんか何かに引っかかって。それに地面も濡れてて滑りやすくなってました」


 俺は恥ずかしいので、急いで立ち上がった。


「滑りやすく……!?」


 心配して俺に駆け寄る紗夜さんの動きが止まった。

 そして俺の足元に視線をやる。


 なんだ?

 紗夜さんは俺が足を引っかけた物体を注視している。

 たしかわりと大きなものだったような。


 俺は視線を落とす。

 そして目に映ったのは、四肢をもがれた人の胴体だった。


「うわぁぁっ!」


 俺は驚きのあまり声を上げ、大きく後ずさり、壁へとぶつかった。


 てことは今の濡れた足場って……血?


「海成くん、大丈夫?」


《転移石に触れました。ダンジョン内のどこかへランダムに転移します》


 紗夜さんの声と重なって俺の脳内にはこういった音声が流れた。


 待て、転移石なんて俺触ってない……いや、さっき壁にぶつかった時、背中になにか触れた気がするぞ。

 それが……転移石だったってことか。


「紗夜さん、すみません。俺、転移石に当たっちゃったみたいで」


「えっ!? 海成く……」


 紗夜さんの言葉を最後まで聞くことが出来ないまま、俺はこの場からどこかへ転移するのであった。

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