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第14話 ……デスウィーバー



 転移した先は……もちろん景色が大きく変わることもない洞窟っぽい風景。

 しかしさっきの場所より心做しか、いやかなり明るく照らされているような気がする。

 もしかしたら階層によって少し違うのかもしれない。


 しっかしまぁ。


「やっちまったぁ〜」


 ただのD級ダンジョンでもヤバいのに、ここは特別異質な場所。

 凶暴なナイトワーム、B級のデスウィーバーがいる紗夜さんいわく推定C級以上の高難易度ダンジョンだ。


 こんなところで、ちょっと魔力を吸えるおれの低レベルマジックブレイカー(リザードマン倒してレベル7になった)がどう生き残ればいいんだよ。


 と、グダグダ言ってても仕方ない。

 とりあえず少し進むか。

 他の冒険者にも出会えるかもしれないし。


「だ、だれかぁっ! 助けてぇっ!」


 いや、さっそくかよ。


 奥から響く叫び声これは……女の人の声。

 ちょうどこの先を抜けたところから聞こえてくる。


 俺はそう思って急いで駆けつけた。


 そこには叫び声の張本人である女性冒険者ともう1人男性冒険者の姿、俺より少し若いか多く見積っても同い歳くらいの見た目。


 そんな2人がリザードマンの群れに囲まれてしまっている。

 その数、十数体ほど。


 2人とも冒険者らしい茶色の革鎧みたいなものを胴や腕部分につけており、男の人は炎を纏った剣で、女の人は30センチほどのステッキから水の球を放ってなんとか対抗していた。


「これじゃキリがないッ!」


 男の人はそう叫びながら休む間なくリザードマンをぶった斬っているが、倒す数が攻めの数に追いつけず、ダメージを少しづつ受けている様子。

 受けるダメージは全て致命傷を避けるように立ち回っているため、相当場馴れしているのだろう。

 しかしそれもいつまで持つか。


 ここで俺がとる選択肢はひとつ。


「【正拳突き】」


 群がったリザードマンを背後から不意打ちでぶん殴ったため、3体ほどまとめてぶっ飛ばした。


「「え、」」


 2人の冒険者は一瞬何が起こったか分からずキョトンとしていたが、すぐに状況を呑み込んだらしい。


「ありがとうございます!」

「協力感謝しますっ!」


 これで残るリザードマンは10体をきった。

 しかしさっきは不意打ちだからこそなんとかなったが、複数に攻めてこられると俺も打つ手がない。


 今の俺ができること、それはちびちびと相手の攻撃を避けながらリザードマンを倒していき、あの2人が一掃してくれるのを待つ。

 これが正しい選択だろう。

 おそらく2人とも、俺より強いだろうし。


 そんな予想は見事的中、男の冒険者はバッサバッサと軽く斬り倒していく。

 まるで端から俺の助けなどいらなかったかのような速度でこの場のリザードマンを一掃していった。


「すごいな……」


 思わず感嘆の声が漏れるほど。


「いや、後1体います」


 えっと、どこだ?

 さっき全部倒したと思ったが。


 男冒険者が指差すのは、斜め上方向。

 そこには天井に張り付くリザードマンの姿。

 しかし他の個体と比べるとひと回りほど体が大きく、色も全体的に赤みがかっている。

 それに立派な翼もあるときた。

 あれが大将的な感じだろうか?


「レッドリザード。アイツが指示役です」


「しかしどうやって倒そうか」


 俺がそう思ったのは、ここの天井の高さだ。

 奴が足場にしている天井とは10メートル以上は離れている。

 もちろん俺の【正拳突き】では届かないわけだが。


「僕の剣は届かないので、陽菜ちゃんの水魔法で地へ落としましょう」


 彼の作戦に彼女は二つ返事で快諾し、さっそくレッドリザードにステッキを向けた。


「分かったわ、陽介くん。【ウォーターボール】」


 だが相手もそんな簡単ではない。

 天井を這うことで、軽々と水の球を避ける。


「くっ、これならどうだ。【アイススフィア】」


 やはり彼女もかなりの手練。

 素早い切り替えで次は氷の槍を数多く創り出し、同時に放った。


 バサッーー


 さすがに躱わしきれないと思ったのか、レッドリザードは即座に翼を広げて空中を旋回して避け始める。

 そして数本のアイススフィアが奴に命中したが、墜落するほどのダメージではないらしい。


「陽菜ちゃん、惜しかったよ!」


「……あとちょっとだったのに」


 陽介はそう言うが、陽菜は少し悔しそう。


 空中戦とは非常に厄介な相手。

 実のところ俺も、マジックブレイカーとして参加できないことはないのだが……さてどうするべきか。


「フギャッ!」


 突然短い悲鳴をあげたレッドリザード。

 何が起こったのかと視線をやると、なんと白く細い糸によって壁に張り付けられていたのだ。

 全く身動きがとれないところ、見た目以上に頑丈な作りなのだろう。


「……なにっ!?」

「何が起こったんだ!?」


 2人は突然の出来事に唖然としている。


 もちろん俺もだ。

 何が起こったのか分からなかったから。


 しかし壁のレッドリザードに近づく奴の正体を知って、俺はさらに驚愕した。


 なぜなら俺はそのモンスターを知っていたから。


「……デスウィーバー」



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