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第15話 炎上級魔法【フェニックス】


 デスウィーバー。

 目にするのは今日で2度目だ。


 奴は身動きの取れないレッドリザードの元へゆっくりと壁を伝って近づき、間近に迫った瞬間、大きな口を開いて喰べ始めた。


「……何が起こってるんだ?」


「分からんけど、今のうちに逃げた方がいいぞ」


 唖然とする陽介に俺はそう言う。


「そうね。あれはヤバそう」


 陽菜も賛意を示す。


 こうして意見も一致した。

 すぐさま逃げようとした時、陽介から声がかかる。


「……待って!」


「な、なんだ?」


 と問い直したが、その返事が返ってくる前に、俺は状況を理解した。


 そう、俺達が逃げるべき方向にもう1体のデスウィーバーがいたのだ。


「に、2体はさすがに無理よ」

「もうダメだ」


 くそ、2体いるって聞いてないぞ。

 挟まれてしまったが、さてどうする。


 背後を一瞥し確認するとデスウィーバーが捕食しているが、ペースはかなりゆっくり。

 この感じだとまだ5分以上はかかりそう。


「2人とも! 後ろのアイツが捕食中に目の前のデスウィーバーを倒そう!」


「そ、そんなの無理だって……」


 シュシュッーー


 議論中に飛んできた高速の蜘蛛の糸は陽介に向かって放たれるが、 即座に反応し、炎を纏った剣で叩き斬った。


 やはり動きの速度からして、比較的強い冒険者であることは間違いない。

 協力すればなんとか倒せそうだな。


「私の鑑定によると、弱点は膨らんだお腹。3人で連携してそこを叩けば倒せるかも」


 なるほど。

 鑑定とは弱点まで視えるのか。

 本当に便利なスキルだ。

 俺も【隠蔽】じゃなくて【鑑定】がほしかった。


 なんてグチグチ思ってる場合じゃないな。


「つまりあのデスウィーバーを引きつける役と背後からお腹を狙う役が必要なわけだ」


 陽介の言う通り。

 誰かが囮をすることになるわけだが……。


「俺が囮になる!」


 俺は自ら名乗りをあげた。

 迷ってる暇なんてなかったから。

 もうすでに敵は次の攻撃に移ろうとしている最中。

 そんな間に攻められちゃ元も子もない。


 それに俺にはこのスキルがある。


《専用パッシブスキル:自動反撃を発動します》


 俺がデスウィーバーの傍に駆けよると奴は大きな足を水平に振るってきたが、それによりいつものパッシブスキルが発動する。

 俺はスキルの補助により軽々と飛んで躱わし、顔めがけて1発ぶん殴ってやった。


 そうだ、俺にはこのスキルがある限り、攻撃をくらうことは極めて少ないはず。


「うお、あの人すげぇ」

「彼、本当にE級……?」


 陽介と陽菜は後ろで驚いている様子。

 どうやら囮としては認めてもらえたっぽいな。


 陽介は戦うことを決心したのか、デスウィーバーの背後へ回り込もうと機会をうかがい始めた。


「相手は1人じゃないわよ。【ウォーターボール】」


 一方の陽菜は後方から俺のサポートを。


 デスウィーバーも今の状況を察したらしく、キョロキョロと周りを見渡している。

 そして俺からは視線を逸らし、その目は陽介に向いた。


「こっちよ! 【アイススフィア】」


「【正拳突き】」


 相手が陽介に向いては意味がない。

 彼が攻撃役なのだから。


 しかし俺達の一撃など、まるで初めから存在しなかったと言わんばかりに全くの影響を及ぼさず、デスウィーバーは陽介に向かって網状の糸を連続して飛ばしている。


「くっ、これじゃ後ろに回り込む暇がない!」


 陽介は飛ばされる糸を斬り続ける他なくなっている。


「なら私がっ! 【アイシクルバースト】」


 陽菜はデスウィーバーのお腹がこちらを向いた隙に、新たな魔法を放つ。

 地面から次々と突き出る氷柱がデスウィーバーに迫り、今突き刺さんとするが、奴のお腹の硬さに勝てず、氷柱側が砕けてしまった。


「中級魔法じゃダメかっ!」


 やはりB級のモンスターとは相当に硬く、攻撃もなかなか通らないらしい。

 つまり威力でいうと上級レベルは必要ということになる。


 仕方ない、か。


 俺は奥の手を使うことを決めた。

 そしてデスウィーバーめがけて手をかざし、ひとつのスキルを唱える。


「【フェニックス】」


 俺は前へ突き出した手から、鳥の形をした炎エネルギーを放出した。

 その大きさ、デスウィーバーと同等。


「上級魔法!?」


 陽菜は俺の魔法を見て、そう叫んだ。

 魔法を使う冒険者として当然の知識が故に知っているのか、その【鑑定】スキルで魔法の情報まで視ることが出来るのか、その真相は彼女に聞かなければ分からないが、その通り。


 これは炎上級魔法【フェニックス】。


 E級ダンジョンで『共喰い』をしていた男、アイツが使用していた魔法だ。


 俺が【フェニックス】を放ったと同時に、デスウィーバーは過敏すぎるくらい速い反射速度でこちらを向いたが、時すでに遅し。

 灼熱に燃える不死鳥はデスウィーバーの正面を捉え、見事直撃を果たした。


「フシューッ」


 体の節々を焼かれて苦しむデスウィーバーだったが、全身を巡ろうとしていた炎は徐々に鎮火されていく。

 そう簡単に燃える相手じゃなかったか。


 ドスッ――


 しかしデスウィーバーを支えていた脚は脱力し、勢いよく倒れ込んだ。

 フシューフシューと激しい息遣いをしつつ、なんとか自身の脚で立ち上がろうとするが、再びバランスを崩し転倒。

 まさに虫の息といった様子。


「今だっ! 剣技【妖刀炎舞】」


 陽介はその隙に背後へ回り、渾身の一撃を振り下ろした。


 パリンッ――


 そしてデスウィーバーがポリゴン状となって、この場から消滅したことで戦いは終わりを迎えた。

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