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第16話 戸波さん、ありがとうございました



「た、倒せたぁ……」

「なんとか、だったね」


 安堵する2人。

 しかしこれで終わりではない。


「2人とも、もう1体いるぞ」


 再び気を引き締めるよう、2人に声をかけた。


「そ、そうだ!」


 陽介と陽菜は焦って、敵と向かい合う。


 ちょうどその相手、もう1体のデスウィーバーは捕食がもう終わりを迎えたところ。

 タイミングが良いのか悪いのか、食事後のデスウィーバーとガッツリ目が合った。


「【フェニックス】」


 俺は念の為、手に魔法を宿しておく。

 あくまで放つわけじゃなく、威嚇のつもりで。


 俺の行動を見て陽介は再び剣を構え、陽菜は水の球を魔法で創り出した。


 それと対峙するデスウィーバー。

 鋭い眼光は放ちながら俺達を順に目で追った後、再び天井を這ってどこかへ移動していった。


 奴の姿が完全に無くなってから、陽菜と陽介はその場にへたり込む。


「し、死ぬかと思ったぁ……」

「さすがに今日は死に目に遭いすぎだよ」


 少し前にデスウィーバーと遭遇した時、奴は紗夜さんの実力を見て身を引いていた。

 つまり自分の力では敵わないと判断した場合、自ら撤退する傾向にあるはず。

 さっきの威嚇もそういう意図を狙った故の行動だったが、上手くいったようでよかった。


「「そ・れ・よ・り・もっ!」」


 戦いも落ち着いたところで、2人が俺とほぼゼロ距離まで迫ってきた。


「な、なんですか?」


 近すぎる2人から距離を取るように、俺は体を仰け反らせながら聞き返す。


「えっと……戸波さん? あなた武闘家ですよね? なんで魔法が使えるんですか?」


 すると陽菜が代表して本題をぶっ込んできた。

 どうして名前を……と思ったが、どうやら【鑑定】スキルには名前も表示されるらしい。


 そしてやっぱりその話題。

 彼女、戦闘中にも【鑑定】スキルを使ってたし、きっとバレるだろうなとは思っていたけど、まさかここまで食い気味に来られるとはな。


「そうですよ! 明らかに実力もE級ではないですし、戦闘中の佇まいも只者じゃない感ハンパなかったです!」


 そりゃ戦い中は【不屈の闘志】が機能してるわけだから自信は溢れてただろうけど。


「いやいや、君らの方がよっぽど実力は上だと思いますけど」


「そんなわけないじゃないですか! 僕と陽菜ちゃんだけだったら本当にここが墓場だったと思います。戸波さん、改めてお礼を言わせてください」


「いや、そんなお礼なんて全然……」


「私もっ! 戸波さん、この度はどうもありがとうございました!」

「戸波さん、ありがとうございました!」


「……そこまでかしこまられると、なんかこっちも照れくさいんだけど。でもまぁここはどういたしまして、かな?」


「はい、そゆことですっ!」


 俺がお礼を受け入れると、2人はご満悦といった様子で首を縦に振った。



 ここで改めて、俺達はお互い自己紹介をした。


 2人は工藤陽介と工藤陽菜、

 今年25歳の同い歳で、最近籍を入れた新婚ホヤホヤらしい。

 そこまで聞いてないのだが、勝手に惚気けてきたのだから仕方ない。


 そして見ての通り陽介は『剣士』で、陽菜は『魔導士』、2人とも本部直属のC級冒険者だそうだ。


 通常D級ダンジョンとはD級冒険者2人でも攻略が可能なレベルらしい。

 陽介と陽菜では明らかに過剰戦力気味なのだが、最近は『共喰い』を犯す冒険者が巷を騒がせているため、本部は念の為C級である2人をこのダンジョンに派遣したようだ。


「……簡単な仕事だと思ってたのに、なんですかこのダンジョン。D級のモンスターは群れで襲ってくるし、B級モンスターは出てくるし」


 陽介はグチグチ文句を垂れ、陽菜もそれに乗っかってきた。


「ほんとそう! ここの難易度、明らかにD級ダンジョンじゃないよね」


 やっぱり紗夜さんも言ってた通り、ここのダンジョンは異常らしい。


「……ちなみに普通はモンスターが群れで襲ってきたり、D級ダンジョンにB級のモンスターが出てきたりしないんです?」


 俺は抱えていた疑問を2人ぶつける。

 てかモンスターの知識もなければダンジョンの知識もない、今考えるとよくこんな素人同然の冒険者を実戦に送り込んだよな、久後さんっ!


 案の定2人は俺の問いにポカンとする。


「えっと……戸波さん? 実はあまりダンジョンのことご存知なかったり?」


「あーえっとそうですね、あまりどころかほとんど……いや、全然だったりします」


 俺の答えに2人はさらに目を丸くした。


「あんな戦い慣れしてたのに、ですか?」


「そうですよ! あれだけの実力があってダンジョンのことを知らないなんて信じられません」


 なんて言われても事実なのだから反応に困る……と思っていると、陽介がため息を吐いてから続けざまに言葉を発した。


「……でも戸波さんが嘘をつく人だとは思えないし、きっと本当のことなんだろうね」


「じゃあさ……」


 彼に乗っかるように、陽菜も口を開く。


「私達がダンジョンについて知ってることをお伝えします。その代わりさっきの魔法、あの力について教えてくださいっ!」


 突然の問い。

 ……といっても目の前で武闘家が魔法を使ったとなりゃ、気になるのは当たり前だよな。


「じゃあ教えられる範囲なら」


 俺はある1つの真実のみ伝えることにした。

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