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第17話 その頃、紗夜さんは



 その頃、紗夜さんは――



 やってしまった。

 私のせいで海成くんが……。


 そりゃ足元に死体があったら驚く。

 おそらくこれはデスウィーバーが喰い漁った跡。

 あの時、私が先導して死体を見つけ、海成くんにその事を事前に伝えていればこんなことにはならなかったはず。


「……なんて後悔してる場合じゃないか」


 こうしている間にも海成くんは、このダンジョンのどこかで怯えてるに違いない。

 だって冒険者始めたてのE級冒険者が、この異質なダンジョンでまともに戦えるわけがないもの。


 早く、私が見つけてあげないとっ!


「海成くん、待っててね」


 私はこういう時のために獲得していたスキルを発動する。


「【魔力感知】」


 これで海成くんの魔力を追う。


 ……ダメ。

 この階にはいないみたい。


 さすがに【魔力感知】でも別の階の魔力までは把握出来ない。

 だから階を移動する度にこのスキルを使用して探す他ないのだ。


「仕方ない。ちょっと魔力消費量多いけど、今は緊急事態だもんね」


 私はちょっとした覚悟を決めた。

 そして地面に、このレイピアを向けて唱える。


「雷特級魔法【雷竜の砲撃】」


 体から溢れる魔力は雷エネルギーへと変化し、手に持つレイピアの剣身へ全て凝縮されていく。

 そして私は地面を抉るようにそれを前に突き出した。


 ドカンッ――


 それはまたレイピアの斬撃に似合わない激しい地鳴りを響かせて、地面深くまで風穴を造り出した。


「……なんとか貫通したわね」


 この魔法は魔力消費量が莫大なため、1日に1回が限度。

 ……他に使うことがないことを祈ろう。


 せめてこの下で海成くんがいますように、そう願いながら私は貫通した穴を抜けきった。


 高い天井から見事着地した私は、とりあえず周りを見渡す。


「なんかすっごい広い空間……危ないわよっ!?」


 私は咄嗟に声をあげた。

 そこにデスウィーバーやナイトワーム、多数のリザードマンに囲まれた青年の姿があったから。


 助けに行かなきゃっ!


 そう思ったのも束の間、その青年は私を見て首を傾げている。


「何が危ないの? こんなにいい子達なのに」


 そう言って彼はデスウィーバーの頭を撫でる。


「……え、どういうこと?」


 何がなんだか分からない。

 しかし周りにいるモンスターは彼を襲う様子など全くない。

 むしろ懐いていると言っていいのか、デスウィーバーだけでなくナイトワームも青年の傍で大人しくしている。


 まさに異様な光景だ。


 それにこの空間の端には蜘蛛の糸で作られたかまくら様の建設物があり、中には寝袋なんかもチラッと見える。


「……もしかしてここに住んでるの?」


 私の質問に青年は当然の如く答えた。


「えっとそうだけど、何か?」


 唖然とした。

 ダンジョンに住むなど聞いたこともない。

 それにモンスターと仲良くなんて……。


「うわぁぁぁ……っ! やめてくれーーっ!」


 この空間に存在する、ナイトワームが掘り進めたであろう無数の大穴のひとつから届く悲痛な叫び。

 それも1人じゃない。

 何人かの声が重なって聞こえてくる。


「……なに、今の声」


「それにしてもまさか天井からやってくるなんて、お姉さんスゴいね。ここは僕の家族達が守っている空間だから、誰も近づけないはすだったんだけど」


 そう言って青年は自分の周りに群がるモンスター達に視線を送る。


「……そうじゃなくて、今の声は何!?」


 思わず声を荒らげてしまった。


 ここの空間、他の場所とは比べられないほど多くのモンスターが大穴を行き来している。

 そんな中聞こえた叫び声だ、この先で何が起こっているかなんて想像すらしたくない。


「さっきの声はここに来た冒険者の大人達だよ。僕の家族を殺そうとしたから、奥で生きたまま捕えてる。この後どうなるかは……彼ら次第だね」


 そう言って声のする穴を青年は遠い目で見つめる。


「ご、ごめんさな……うわぁぁぁ、痛い痛い痛いぃぃぃいいい」


「なるほど、僕の家族達は彼らを許さなかったみたいだね」


 青年はうんうんと頷き、納得した様子。


 間違いない、コイツだ。

 このダンジョンがいつまでも攻略されなかった原因、その根源が今私の目の前にいる。


 私は辺りを見渡した。

 数多くの大穴、1つ残らずモンスターの気配がする。


 ここから逃げるとして、どの穴を通ればいい?

 通ったとしてモンスターに挟み撃ちにあうだろうし。

 何が正解なのか、今の間によく考えないと。


「……お姉さん」


「え、はい?」


 咄嗟の呼びかけに思わず返事をする。


「お姉さんはさ、僕達の敵? それとも味方なのかな?」


 今この時、青年と周囲のモンスター達の鋭い視線が私に向いた瞬間だった。

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