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第18話 行こう! 助けに!



 パッシブスキル:【貯蔵】

 【魔力吸収】にて得た魔力エネルギーの情報から元の魔法を再現し、本来必要な魔力を消費せずに発動することができる。再現する魔法はスキルとして保存することができ、いつでも発動可能。Lv1の場合、保存できる魔法は3つまで。


 これが【貯蔵】スキルの説明欄。

 だから俺は炎上級魔法【フェニックス】を使うことができた。


 つまり後2つは魔法が保存できるということ。

 そう考えるとこの【貯蔵】、保存する魔法によっては今までチート級スキルだと思っていた【魔力吸収】【自動反撃】をも超すほどのポテンシャルを秘めている気がする。

 ……まぁもうすでに魔力消費なしでバンバン【フェニックス】を放てる時点で充分反則的だけど。

 これが【貯蔵】というパッシブスキルの内容。


 一応ギリギリまで悩んだが、さすがに2人にはここまで詳しく話せない。

 俺が陽介、陽菜にこれを伝えることで、彼らにまで何かしらの被害が及ぶかもしれないからな。


 しかしあそこまでの戦いをしておいて、完全に隠し通せるはずもないので俺は1つだけ真実を伝えた。


「なるほど、戸波さんは【隠蔽】でステータスを隠してるんですね。どうりで私の【鑑定】じゃ視えなかったわけだ」


「……さすがに【隠蔽】で隠してると言われてしまっては、それ以上聞く気も起きませんね。そのためのスキルですから」


 どうやら納得してもらえたようだ。

 申し訳ないが、これが最善だと思う。

 俺にとっても、2人にとっても。


 それから彼らは、ダンジョンについての軽い知識を教えてくれた。

 俺は今回スキルの話を【隠蔽】の話へとすり替えたことで真相を回避したはず。

 だから交換条件を満たしてない、そう思ったのだが2人は俺にこう言った。


「だって僕達命を預けあったんだから、もう仲間じゃないですか! 仲間と情報を共有するのは当然ですよ」

「そうそう。私もあぁやって提案しましたけど、ほんとは条件なしでお伝えするつもりでしたし」


 めちゃくちゃいい2人じゃないか。


 正直大人になってから思ったが、人間ってのは自分含め本当に身勝手な生き物だ。

 他人のことを心配している人なんて1人もいない。

 そんな人がいたとしたら、そいつは『他人を心配している自分すげーいい奴』って自己肯定感上げてるやつか異性にモテようとしているやつ、もしくはそういった行動が自分に何らかの利益をもたらす場合だけだ。

 つまるところ、全て自分のためである。


 そんな利己的な人間が世の中には溢れ返っていると思う。

 もちろんそうじゃない人だってたくさんいるだろうけど、少なくとも自分の周りにはそんな人1人もいなかった。

 だから俺はそんな人間関係が嫌で前職を辞め、新たな職を探しにハローワークへ出向いたわけだが、意外と正解だったかもしれない。


 今のところ、いい人ばっかりだし。

 ……今のところだけど。


「ありがとうございます。陽介さん、陽菜さん」


「そんな、敬語なんてやめてください。戸波さんの方が歳上じゃないですか! それに陽介さんだなんてよそよそしい。陽介でいいですよ!

「そうです、私も陽菜でお願いします!」


「え、でも冒険者歴は君ら2人の方が長いと思いますけど」


「いいんです、僕らも人生の先輩に気を遣われる方が気を遣います!」


 陽介のひと言に陽菜も大きく首を縦に振る。


 まぁその理屈は分からんでもない。

 会社でも後輩だけど歳上ってちょっとやりづらかったりするもんな。


「……わかったよ。じゃあ陽介と陽菜で」


 呼び名と口調を変えて2人が納得したところで、俺達は前に進み始めた。



 それからはダンジョンの話。


 まず俺達冒険者がダンジョンで何をするべきか。


 それは『ダンジョンブレイク』を防ぐこと。

 これは久後さんも言っていたこと、ダンジョンゲートが開いて3週間も経てばいつ外へモンスターが飛び出してくるか分からないという。

 つまりそれまでにゲートを閉じなければいけないわけだが、そのためにはダンジョン最奥にいるボスモンスターの討伐が必須。

 実はそれを見分けるためにも【鑑定】スキルが必要で、ボスモンスターに関しては名前の表記が赤色になっているらしい。


 なるほど、バカみたいに【隠蔽】レベルを上げ続けた俺には見分けられないわけだ。

 ……やっぱり早く【鑑定】が欲しい。


 それから次にダンジョンの難易度について、これは冒険者の等級と同じくEからSへ振り分けられている。

 そしてダンジョンの発見から振り分けまで担っているのがレベルアップコーポレーションの『ダンジョン管理課』らしい。


 たしか西奈さ……じゃなくて瑠璃は『人事部鑑定課』だとか言ってた気がするし、どうも色んな課があるようだ。


 その『ダンジョン管理課』の仕事はそれだけではない。

 本部以外のその他冒険者達が属する子会社、通称『ギルド』へダンジョン攻略業務の斡旋などを行っているらしい。


 ちなみにそのダンジョン、どうやって発見しているのか?

 それは本部直属の冒険者である陽介と陽菜も知らないとのこと。

 ……まぁ気になるが、本部の2人も知らないということはかなり重要な機密事項なのだろう。


「……待って!」


 話途中で、突然陽菜が立ち止まる。


「どうした、陽菜ちゃん!?」


「この先……ものすごい数のモンスターがいる」


「それってどれくらい?」


「……感知できないくらい」


 不安げな彼女に戸惑う陽介。

 只事じゃない空気だ。


「戸波さん……どうしましょう?」


 そんな時、陽介が俺に問いを投げてくる。


 いや、1番経験の浅い俺に聞かれてもな。


「えー、じゃあ感知ができるんならそのルートを避けて通るとか?」


 まぁ俺達が探しているのはこのダンジョンのボスモンスターであり、帰りのゲートだ。

 そんだけモンスターがいれば本来の目的地なのかもしれないが、3人で行くのは危険すぎる気がする。

 他の冒険者……せめて紗夜さんだけでも見つけてから向かいたいところだ。


「避けて、通る。そうですね、私もそれが1番いいと思います。だけど……誰かがそこで戦ってるみたいで」


「そ、それなら助けに行かないとっ!」


 陽介はそう言い切って俺に視線を向ける。


「で、でも助けに行けば私達も危険で……」


「今戦ってる冒険者はもっと危険なんだ。俺達が行かなきゃ。ね、戸波さん」


 【不屈の闘志】が発動していない今の俺の本心。

 それは逃げたい、である。

 だけどさっきの陽介の言葉は俺の心に響いた。


 今戦ってる冒険者はもっと危険。

 彼の言う通りだ。

 こうしている間にも、その冒険者は死の恐怖に怯えているに違いない。


 カッコイイよ、陽介。

 俺は君みたいな冒険者になりたい。

 彼の言葉にあてられて、俺はそんなことを思った。


「2人とも、行こう! 助けに!」


 俺の決断に、陽介は即快諾。

 陽菜は悩む様子をみせるが、しばらく経って首を縦に振る。


 意見が一致したところで、俺達はその冒険者の元へ向かったのだった。

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