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第19話 間に合ってよかったよ、紗夜さん


 ――紗夜さんサイド



「お姉さんはさ、僕達の敵? それとも味方なのかな?」


 青年の質問に少し戸惑った。

 彼は周りのモンスターを本心から大事にしている様子だったから。


 ……だけど私は冒険者。

 ダンジョンに存在するボスモンスターを倒し、このD級ダンジョンのゲートを閉じることが目的。

 これを邪魔するなら彼は敵、ということになるけど。


「私はボスモンスターを倒しにきたの。だからアナタにもアナタの家族? にも危害を加えるつもりはないわ」


 こう言う他ない。

 これでダメなら戦うことも厭わないけど、できればボスモンスターまで戦闘は避けたいところ。


「ボス、モンスター? お姉さんはそれを倒しにここへ来たの?」


「ええ、そうよ」


 はっきり答えた。

 彼の機嫌を損ねるかもしれないけど、ここは曖昧にできることじゃない。


「……そっか」


 青年は少し顔を落とす。

 どういう感情なのか分からないけど、今のうちに【鑑定】だ。



名前 楠木 れい

階級 C級冒険者

職業 テイマー

レベル 38


HP 470/470

MP 166/166


攻撃力 47

防御力 62

速度  47

魔攻  84

魔坊  99


ステータスポイント(残りポイント0)


スキル(残りポイント40)


▼攻撃スキル

 【テイムLv3】【遠隔精神反応】


▼パッシブスキル

 【寵愛の加護】【自動翻訳】【痛覚遮断Lv1】

 【鑑定Lv3】



 テイマー!?

 モンスターを使役し、ダンジョンを攻略すると言われている冒険者。

 噂は聞いてたけど、ほんとに存在するなんて。


 おそらく【テイム】のスキルでモンスターと無理矢理関係性を作り【遠隔精神反応】ってやつで命令を下す、そんなところだろう。


 本来モンスターを冒険者側につけてダンジョン突破を目指すはずが、今回はモンスター側に立場を置いている。

 どういうことか分からないけど、面倒なことになってるのは間違いなさそう。


「ボスモンスターはね……この先の階段を降るといるんだけど、まだ倒しちゃダメなんだ」


「え、どういうこと?」


 青年からは曖昧な返事が返ってきた。

 まるで他人事のようなそれに、私は違和感しか感じない。


「……とにかく、ダメなものはダメなんだよ。それでも手を出すってんならお姉さんは敵ってことでいいんだよね?」


 そこから青年の雰囲気が変わった。

 まさに敵意剥き出し、そんな感じに。


 そしてそれと同時にモンスターも私を向く。


「……やっぱりこうなるか」


 気乗りはしないけど、私も戦闘モード。

 魔力節約ならこれしかない。


 「【武装:モード雷竜】」


 これは魔力で編み出した全身鎧を纏うスキル。

 黒基調に黄色の稲妻模様が不規則に走っているデザイン。

 久後さんは男のロマンだとこの装備のカッコ良さを語っていたけど、私にはよく分からなかった。


 ただこのスキルは燃費がいい。

 それが1番の魅力なのだ。


 ザシュッ――


「グギャッ!?」


 私は雷エネルギーを纏ったレイピアで立ち並ぶナイトワームやリザードマンをつんざき、一掃した。


 パリンッ――


 そしてポリゴン状に消え去ったモンスターから一部の魔力がレイピアを通って私の体へ馴染んでいく。


 そう、雷竜の武装をした状態で倒すと、そのモンスターから魔力を回収できるのだ。


「うわぁぁん……僕の家族がぁ」


 消え入るモンスターを見て、青年は声を上げて泣き喚いている。

 そんな彼に呼応するかのように残ったナイトワームやリザードマンが雄叫びをあげると、新たなモンスターが壁から地中からと現れた。


「……増援、か」


 まぁさすがにさっきどさくさで倒したB級のデスウィーバーはいないみたい。

 ちょっと安心。


「みんな、来てくれたんだね。ありがとう! 【テイム】僕のために、家族のために戦ってよ!」


「シュルシュル」

「グルゥ」


 だけどいくら向かってきても同じこと。

 私の剣撃は止められないっ!


 ザシュッ――


 現れた敵から順に斬り払っていく。


 ……が、その隙に他のモンスターが再びこの場に仲間を呼び寄せた。


 そして【テイム】だ。


 果たしてこれがいつまで続くか。

 このままだと私の魔力切れの方が早いかもしれない。

 いくら倒した魔力を吸収できるとはいえ、さすがに使った魔力を全て回復するには至らないからだ。


 ダンジョンのモンスターが途絶えるまでなんてのは途方もないだろうし、ここで勝つためにはあの青年を直接狙うしかない。


 しかし私が攻撃の狙いを定めた瞬間、モンスター達は青年を守るかのように彼の周りを囲う。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 雷を纏ったレイピアの鋭い刺突はいとも簡単にリザードマンを貫いていくが、ナイトワームは思った以上に堅かった。

 さっきは容易に貫けたが、今回は違う。

 青年を守るべく体に巻き付き、その上からもさらに他の個体が体を覆う、それが何層に重なっている。

 つまり完全なる防御壁。


 私のレイピアで何体かは貫けたけど彼らの柔らかい肉体により威力は吸収され、遂には剣撃が止められるまでになった。


 それから追加で仲間も現れ、青年は【テイム】と詠唱する。


 私は一度後ろに下がった。


「……これじゃキリがない」


 斬っても斬っても次が現れるんだから。

 さらに青年の周りには守りに徹したモンスターが集まってるし、それに加え攻めにも抜け目ない攻撃役のモンスターも私を常に見張っている。

 そしてこの場に溢れるモンスター、何がヤバいって通路という通路に全て立ち塞がり、私をここから出さまいと必死だ。


 しかしこれだけ統率のとれているモンスターも然う然うみることがない。

 おそらく何らかのスキルが働いているとみて間違いなさそう。


 こうなってくると、彼の魔力切れを待つしかないか。


 そう思い、私は今の武装を解いた。

 このモードで戦っていたのは、短時間でモンスターを一掃するため。

 さすがにここまで際限なく現れるとなれば私の魔力がもたなくなる。

 倒す速度は遅くなるけど、どうぜキリなく増えていくなら一緒のことだ。


 私は魔力を使わず極力体力も使わない、そんな戦い方に切り替えた。


 もちろんここにいるリザードマンやナイトワームはそれほど強くはない。

 しかしこの場のモンスター計30体近くを同時に相手となれば、さすがB級冒険者とはいえ手に余る。


「グガッ!」


 一定の間隔で攻めてくるリザードマン。


「シュルシュルッ!」


 それが済めばナイトワームの全力突進。


 私の体力は徐々に削られていく。


 このままじゃやられちゃいそう。

 せめてあと1回【雷竜の砲撃】が撃てたらこの空間から出られたかもしれないな。

 でもそれは残り魔力から考えても難しい。

 残る希望は、誰かが助けに来てくれること。


 ……って何私弱気になってるの。

 クヨクヨする前に他の打開策を考えないと。


「シュルッ!」


 突如体の側面に走る殴打痛。

 視界がブレ、目に映る景色が全て横へ傾いた。


 そう、私は今ナイトワームの尾に強く叩かれ、ぶっ飛ばされたのだ。


 早く起きないとっ!


 そう思って、私は反射的に立ち上がる。

 けれど正直体力がもう限界。

 さっきの攻撃で今まで保っていた緊張の糸がプツリと切れ、ドッと疲れが押し寄せてきた。


 いくらステータスがB級でも体力が増えるわけではない。

 日々体力は鍛えていたが、この数はやっぱり無理だった。


「まだ、まだ……っ!」


 霞む視界で何とか押し寄せるモンスターを斬り払っていく。


 私には守るべき後輩がいるの!


 彼はきっとこのダンジョンのどこかで震えて私を待っている。

 早く海成くんを助けに行かないと。


 だからこんなところでやられるわけにはいかないっ!


 すると生き残っているモンスターが大きな雄叫びをあげる。


 私は一瞬で悟った。

 あぁ、仲間を呼んだんだ。


 もう……さすがに無理。


 ポキッ――


 心の中でそんな音がした、気がした。

 そして腰が砕けたように、その場にへたり込む。


 それからすぐ、穴という穴からゾロゾロと現れるモンスター達。

 奴らは今から青年の【テイム】により、統率力の高いリザードマン軍団や凶暴性を兼ね備えたナイトワームへと成り変わる。


「お姉さん、そろそろ限界みたいだね。可哀想だけどこの辺でバイバイ、かな?」


 そう言って青年はモンスター達にいつものスキルを詠唱する。


「【テイム】」


「シュルシュル……」


 しかしスキル名を唱えてすぐ、まずはナイトワームが大穴をバックしてどこかへ行ってしまったのだ。


「え……なんでっ!? 【テイム】」


 青年は焦った声で次はリザードマンへ呼びかけるが、さっきのナイトワーム同様、彼らも統率する様子なくバラバラに動いている。


「なんで……何が起こってるんだっ!」


 今の状況に困惑し青年は声を荒らげているが、私にもさっぱり分からない。


 なに?

 一体何が起こってるの?


「いやぁ間に合ってよかったよ、紗夜さん」


 後ろから聞き慣れた男性の声。

 振り向くとそこには想像通りの姿が。

 彼はなぜか前に手をかざしており、私と目が合うとニッコリ微笑みかけてくれた。


「海成くんっ!?」


 そう、守るべき対象と思っていた彼が、今まさに私を救ってくれたのだった。



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