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第20話 人をたくさん殺したのか?



「紗夜さん、無事でよかったです……ってほんとに無事で、大丈夫なんですよね?」


 俺は地面にへたり込んでいる紗夜さんの元へ急いで駆けつけた。


「……海成くん、どうしてここに?」


 彼女はとても不思議そうに首を傾げる。


 そりゃそうか。

 E級で何もできないような奴がこんなところまで辿り着いたんだから。

 いやそこまでは思ってないかもしれないが少なくとも今起こっている出来事、つまり目の前の青年が錯乱しているワケについては気になってるだろう。


「えっとここまで一緒に来た仲間がいまして……あ、その人達は今、俺が通ってきた通路で溢れんばかりに現れたモンスターの相手をしてくれてます」


 正直、陽介と陽菜にはかなり助けられた。

 ここへ向かう途中、突然大量のリザードマンが押し寄せてきたのだけれど、2人が先に行ってくださいと敵の足止めをしてくれたのだ。


 おかげで俺はギリギリ紗夜さんを助けることができた。


 しかしまさか戦ってる冒険者が紗夜さんのことだとはさすがに思わなかったが。

 何にせよ、紗夜さんが無事で本当に良かった。


「お、お前……なにしたんだっ!」


 青年が俺を睨みつける。


「お前こそ、紗夜さんをどうするつもりだったんだ?」


 まぁ聞かなくてもわかる。

 自分が【魔力吸収】したスキルの詳細を把握することができるから。

 そりゃ自分で使えるんだし当たり前だけど。


 つまり俺は相手が使っていた【テイム】がモンスターを手懐ける事ができるスキルだということを分かっている。

 【鑑定】を会得してない分、他のスキル概要を知ることはできないが、少なくとも【テイム】により飼い慣らしたモンスターを使って紗夜さんを追い詰めようとしていたことは間違いないはず。


「どうするも何も、その女が僕の家族を散々殺したんだ。せめてソイツに死んでもらわなきゃ気が済まないよ。大した価値のない命だろうし、殺しても問題ないでしょ」


「……は? 何言ってるんだ?」


 人の命が大したことない?

 E級ダンジョンのあの男といいコイツといい、どうして冒険者にはイカれた奴が多いんだよ。


「お兄さん、よく見るとE級じゃないか。それならこの場にいるリザードマンだけで大丈夫だね」


 青年はホッと胸を撫で下ろす。

 そして一言「みんな、戦って」そう命令すると、すでに【テイム】にかかったリザードマンが「グルゥ」と短い鳴き声をあげて俺に歩み寄ってきた。


 その数、20体ほど。


「海成くん、私が戦ってる間に逃げて……」


 紗夜さんが立ち上がり、剣を構える。

 その姿は今にも倒れそうなほどふらふら。

 これまでよほど激しい戦いを強いられていたのだろうと容易に想像がつく。


 そんな状態でも紗夜さんは、リザードマンを斬り倒していっている。


 すごいな、紗夜さんは。


「【フェニックス】」


 ボフッ――


「グギャッ!」


 放った数メートル大の不死鳥は、リザードマンを5、6体まとめて燃やし尽くす。


「え……海成くん!? 魔法!?」


 驚愕している紗夜さんの横で、俺はもう1発リザードマンに撃ち込んだ。


「グギャア……ッ!」


 同類の消え入る姿を見て、他数体のリザードマンはこの空間からせっせと去っていった。

 おそらく今逃げた個体は【テイム】にかかっていない奴らだろう。


 残すところ3体。

 なんの問題もないな。


「【フェニックス】」


 全てのリザードマンがポリゴンと化した後、俺は青年に目をやった。


「E級冒険者の分際で、僕の邪魔をするのか!? 【テイム】さえ使えればお前なんて……っ!」


 そう言って悔しそうに歯を軋ませている。


「だけど使えないのが現実だ」


 俺はゆっくり青年に歩み寄っていく。

 為す術なく後ずさっていく彼だが、なぜか表情はまだまだ死んでいない。

 もう策もないだろうに、なんて思っていると、青年の口角が突然引き上がる。


「残り1体、間に合ったようだね」


 その言葉と同時に、1番奥の通路から無数の足音と壁が壊れていく音がした。


 なんの騒ぎだと思ったところで、ちょうどその姿がこの場に現れる。


 通路に合わない巨体、ソイツがここへ辿り着いた時には通ってきた通路の壁が広がり、そのモンスター等身大の大穴へと変貌していた。


 パッと見は知ってるモンスター。

 しかしそのサイズ感や細かい見た目は大きく変化を遂げていた。

 目は普通より大きく、牙は剥き出し、8本ある脚は頑丈さを語るかの如く、白銀色でコーティングされてある。


 今日対峙するのは、すでに3度目。

 姿形は違うけれども、コイツの名前は『デスウィーバー』で間違いないだろう。


「ユイカ、あとは君だけなんだ。目の前の男を殺してくれるかい?」


 シュルッ――


 青年の言葉に呼応するよう、デスウィーバーは大きな鳴き声を漏らす。


「この子はその辺のデスウィーバーとはひと味違う。たくさんの人間を喰らったからね。モンスターも人を喰うことで進化して……」


「【フェニックス】」


「クュルルッ!」


 俺が放った炎魔法を直で受けたデスウィーバーは甲高い悲鳴を繰り出しながら、姿勢を崩す。

 しかしさすが頑丈さは他の個体と違うようで、すぐさま立て直してきた。


「そ、そんなんじゃユイカはやられないっ!」


 青年は心配そうにそのユイカとやらに視線をやっている。


「人をたくさん殺したのか?」


「え、うん。あ、でもいらない人だよ? 低レベル冒険者でなんの才能もないやつさ。どうせ放っておいてもどこかのダンジョンで野垂れ死ぬだろうし、それならユイカに喰べられて彼女の血肉になる方が彼らも幸せだろうと思ってね」


 青年は平然とした顔でそう言った。


「……なるほど。コイツらにも遠慮はいらないんだな」


「え、なんか言った?」


「いいや、なんでもない」


 俺の独り言はどうも聞こえなかったようだけど、そんなことは関係ない。

 ……これで遠慮なく殺せそうだ。


「【フェニックス】【フェニックス】」


「キュルッ!」


 続いて放つ炎魔法にデスウィーバーは為す術なく直撃、再びその場に倒れ込んだ。


「ユイカッ!?」


「【フェニックス】【フェニックス】【フェニックス】」


 一際頑丈なデスウィーバー、通称ユイカは連続で放たれた上級魔法に抗うことすらできず、静かに消えていった。



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