あのまま正座をさせているとお鍋が煮え立ってしまうので早々に切り上げて。
「――では! 優菜によるダンジョン壊滅を祈願いたしまして!」
乾杯の音頭(?)を取り始めたアルーがまたアホなことを抜かしていた。ダンジョン壊滅って。私を何だと思っているのか。
「かんぱい!」
いえーい! とコップを天高く掲げるアルーだった。なんかハイテンションだね?
「むっふっふっ! 今日は面倒くさい仕事を別の部署に押しつけることに成功したのよ!」
「押しつけるって……」
アルーの仕事は
密航者を防ぐのは当然。
魔物がやって来ないようにするのも当然。
そして意外と重要なのが、こちらの世界の動物をあっちの世界に移動させないことだ。
もうすでにダンジョンから魔物があふれ出してしまったこっちの世界はともかく、あっちの世界にこっちの世界の動物が移動したら変な病原菌が広まってしまうかもしれないからね。その辺も気を使わないといけないのだ。鳥を一匹逃がしたせいで鳥インフルエンザや七面鳥X病が大流行なんて笑えないし。
つまり、誰にも任せられない重要な仕事であるはず。
それを、別の部署に押しつけるって……。
じっとー、っと。半眼でアルーを見つめていると、アルーは慌てて釈明し始めた。
「違うのよ! 誤作動! 誤作動だから!」
「誤作動?」
「そう! なんか予定外の存在が
「話にした、じゃなくて?」
「じゃなくて! もう! 技術担当は「絶対何者かが通ったはずだ」と強弁するし、結界担当は「そんなのはあり得ない」って譲らないし! 各所の調整が面倒くさかったんだから!」
「へぇ……。でも、技術者さんがそこまで言うのなら、誰か通ったんじゃない? アルーくらいの魔法の腕があれば監視カメラや結界も
「ないない! あり得ないわよ! そりゃあ私なら! 誤魔化すこともできるけど! それは私が『勇者パーティー』の魔法使いに選ばれるほどの天才だったから可能なわけで! 私ほどの天才がそうそういるわけないわよ!」
「…………」
「…………」
なぁんか、『フラグ』っぽくない? と顔を見合わせる私とミワだった。
◇
「ところで」
鍋を突いている最中。キリッとした顔でミワが尋ねてきた。
「優菜さんにこびりついたニオイの元、いったい誰ですの?」
「こびりついたって」
もうちょっと言い方はないのだろうか?
「春日野ユリィさんだよ。クラスメイトの」
「クラスメイト……また女性を落としたのですか?」
どうして「クラスメイト」という言葉から連想するものが「女性を落とした」になるのだろう? まさかクラスメイト全員を口説き落としかねないと思われてる?
というか「また」って何さ、「また」って。私がいつ女性を落としたというのか……。アルーとミワ? 二人が勝手に落下しているだけだしなぁ。パラシュート無しで。
「ユリィって、誰?」
ハイライトの消えた瞳で問いかけてくるアルー。彼女の場合頻繁にハイライトが消えるのでいちいち気にしてはいられなかったりする。
「んーっと、隣の席で、よく私に話しかけてきて。自称私の友達かな」
「ギルティ」
「ギルティ」
有罪判決を下されるユリィさんだった。
「いやでも、」
「まだ『ユリィさん』呼びですか。まだ大丈夫ですね」
ひそひそと顔を寄せ合うアルーとミワだった。この二人って実は仲がいいよね。
「あと、私とパーティを組んだから、明日から一緒にダンジョンに潜るね」
「……それは、」
「もしや、二人きりで?」
「うん」
「ギルティ」
「ギルティ」
有罪判決以下略。
◇
夕食後。
優菜が洗い物をしている最中。
アルーとミワは真剣な表情でお互いの顔を見合わせていた。優菜が見れば「ま~た何かアホな相談をしているの?」と呆れることだろう。
「……どう思う?」
「……優菜さんに頻繁に話しかけて、自称友人ですか」
「しかも二人きりでパーティーを組むだなんて……」
「狙っていますね」
「狙っているわよね」
優菜が聞けば「またアホなことを言っている……」と呆れることだろう。
だが、良くも悪くも優菜に心奪われている二人は止まる様子がない。
「これは一度確認しないと」
「なにせダンジョンで二人きりですからね」
「カッコイイ優菜を見て『メロメロ』になっちゃうかもしれないし」
「優菜さんの魅力に当てられて襲っちゃうかもしれませんし」
「有給は……くっ、さすがに明日いきなり休むのは無理だわ」
「こちらも……明日の23:59までにこなさないといけない締め切りが」
「……私よく分からないけど、そういうのって夜中ギリギリまでじゃなくて、就業時間内が締め切りなんじゃないの?」
「ちょっと何を言っているか分かりませんね」
「分かりなさいよ。編集さんに迷惑を掛けるんじゃないわよ」
「では。実地研修は何日も行われると聞きますし。優菜さんの『授業参観』は明後日からということで」
ぱんっ、と両手を打ち鳴らして話をぶった切るミワであった。