――とんでもない美少女だと思う。
毎日。隣の席に座る優菜を見るたびに、ユリィは感嘆の声を上げそうになってしまう。
カラスの濡れ羽色というのだろうか? 腰まで伸ばされた黒髪は艶やかに日の光を反射して輝いている。
不思議と誰も注目していないものの、瞳はまるでルビーのように赤く煌めいていて。その瞳がこちらに向けられることは滅多にないけれど、いざ視線に囚われてしまうと吸い込まれそうな感覚に陥ってしまう。そんな、魅力的というか蠱惑的な瞳だった。
肌はまるで夜のうちに降り積もった雪のように真っ白。他の女子たちが「今日は日差し強い!」とか「日焼け止め塗り直さないと!」と騒いでいる日にも慌てた様子はない。
あるいは『スキル:自己防御力上昇B』は日差しすら防いでくれるのかもしれないけれど、本人に聞いても「そうかもしれませんねー」と面倒くさそうな返事が来る未来しか想像できない。
面倒くさがり屋。
それに加えて――どこか、秘密主義めいたものを感じるユリィだ。
何かを隠しているような。
どこか別の場所を見つめているような。
あの赤い瞳の先に、何を見ているのか。何が映っているのか。気になって、気になって。『隣の席』という関係性を超えて声を掛けてしまっているのが現状だった。
そういう意味では、すでに
でも、ある程度はしょうがないと思う。
他のクラスメイトたちはユリィと仲良くしようとしてくれているとはいえ、それはあくまで『Sランク持ち』、あるいは『珍しいハーフエルフ』としてしか見ていない。ユリィのスキルと見た目にばかり興味を持ち、なんとか仲良くしようとせめぎ合っていた。
その様子に、正直、嫌悪感すら抱いていたのも事実だ。
そんな中。
優菜は、まるで興味を抱いていなかった。
ユリィのスキルにも。
ユリィ本人にも。
優菜の前では、将来有望なSランクスキル持ちでもなく、世にも珍しいハーフエルフでもなく、ただ、ただ、一人の少女として過ごすことができていた。
それに心地よさを感じる。
心地よさを感じて、何が悪いだろうか?
……まぁ、あまりにも興味を持たれなさすぎて、友達とすら思われていなかったのは予想外だったけれど。
興味を持たれていない。
友達とすら思われていない。
――なら、もっと仲良くなろうとユリィは決意した。
あちらから寄ってくるクラスメイトたちには嫌悪感すら抱いているのに、そうではない優菜に対しては自分から寄っていこうとするのだから……
ともかく。
ユリィはもっと優菜と仲良くなりたい。それは紛れもない事実だった。
友達とすら思われていなかったのなら、もっともっと押して、本当の友達になろうと決意した。
だから、実地研修は丁度いい機会になるはずだったのだ。
優菜とパーティーメンバーとなり、一緒に様々な困難を乗り越え、目標を達成していき……そうすれば自然と友達になれるだろうと目論んでいた。
だというのに――
――優菜は、とんでもない美少女だと思う。
まさか、本気で、ダンジョンの中で昼寝をするつもりだったとは。
ダンジョンに入るというのにいつもの制服姿のままだとは……。
あまりにも危機感のない様子に、ダンジョン入りの許可を出した先生に思わず食ってかかってしまったが……司書の先生はまるで心配した様子がなく、むしろユリィが守ってやれと挑発してきた。
――なにか隠しているな、とユリィは思う。
そして、それはおそらく優菜に関することだ。
やはり優菜は何か秘密を持っていて。
その秘密を、司書の先生は知っているのだ。
…………。
なぜだか面白くなかった。
なぜだか胸がざわめいた。
自分の知らない優菜を、この人は知っている。
そう考えると……なぜだか、とても気分が悪くなった。
「くくっ」
ユリィの心境を読んだかのように司書の先生が喉を鳴らして笑う。そんな彼女の様子に、ますます不機嫌になってしまうユリィだった。