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第13話 お誘い


 そうして授業時間は無事に経過して。

 たっぷりとお昼寝した私はやる気に満ち溢れているのだった。


「いやぁ、ダンジョンの中でやる気を出すべきだったと思うなぁボク」


 意外とツッコミキャラっぽいユリィさんだった。


 出口では幾人かの先生が待機して生徒からの報告を聞いていたので、私は顔なじみであるファルさんの元へ向かった。


「ファルさ――じゃなくて、先生。実地研修終わりましたよ」


「おうお疲れ……疲れてるわけないか。ずいぶんと顔がつやつやしているじゃないか」


「いやぁ、やはり授業中に堂々と眠れるのって最高ですね」


「ダンジョンの中で安眠できるのなんてお前さんくらいだろうよ。……討伐などの成果はなしだな? 生きて帰って来ただけで満点だ。と、教師っぽいことを言ってやろう」


「ありがたみがないですねぇ」


「そもそも教師じゃなくて司書だからな。仕事内容は図書の管理だ」


「ファルさんが司書をやっているのが間違っていると思うんですけど」


「何を言う。私ほど司書に相応しい人間はいないだろうが。……おっと、あまり仲良く話していると嫉妬させてしまうかな」


「嫉妬?」


 ファルさんが意味深に視線を動かしたので追いかけてみると――ユリィさん? なんでユリィさんを見て? まさかユリィさんが嫉妬して……いやいや、ないない。私と彼女はただのクラスメイト。友達未満。嫉妬という感情が介入する余地はない。


「にっぶい女だなぁおい」


 自分がさといと思って先回りしたあげく大失敗する人が何か言っていた。


「そういや、色ボケ二人にダンジョンの中で会わなかったか?」


 アルーとミワの潜入、ファルさんにはバレバレだったみたい。まぁそこで止めないのがファルさんの良いところというかダメなところというか。


「さぁ、何のことか分かりませんね」


 私がすっとぼけるとファルさんはククッと喉を鳴らした。


「その様子だとちゃんとお説教もしたみたいだな。……今回は見逃したが、あまり続くようなら対応しなきゃならんからな。アホ二人にもキツく言っておいてくれ」


「はぁい」


 変なところで真面目なファルさんだった。いやまぁ私以外であの二人を何とかできそうなのはファルさんしかいないというのもあるのだろうけれど。





 放課後となり。

 アパートへと帰る道中、私は昨日と同じくスーパーに立ち寄ることにした。アルーとミワに実地研修の祝勝会(?)の開催をお願いされたからだ。


 なんで祝われる側の私が食事を作らないといけないのか。という疑問もあるにはあるけれど。アルーに任せたら無駄に高い野菜(生)が出てくるだけだし、ミワは無駄に高いカップ麺にお湯を入れるだけだからなぁ。


 むしろアルーはサラダを作るだけなのに包丁で指を切りそうだし、ミワは沸かしたお湯で火傷しそう。二人とも魔法ですぐに治るとはいえ、それまでの大騒ぎを思うとなぁ。結局私がやった方がいいんだよなぁ。


 というわけで。きょうもまた鍋。あの二人は根本的に舌がアレなので、とりあえず野菜と肉を食わせておけば文句は出ないのだ。昨日は水炊きだったので、今日はキムチかなぁ。


 と、私がそんなことを考えていると、


 じぃー、っと。


 視線を感じた。

 正確には学校から出たくらいから感じていた。それがスーパーに入ってからさらに強くなった感じ。


 私は昔から人の気配とかに敏感だからね。誰かから見られているとすぐに分かるのだ。


(殺気はなし、と)


 まぁユリィさん本人が言っていたように、ユリィさんと同じパーティーになったことを面白く思わなかったり、興味を抱いた人が付いてきているのかなーっと思って今まで放置していたのだけど……。このスーパーを出てしまうとあとはアパートまで一直線だし、そこまで尾行されるのも気味が悪い。


 たとえ尾行を指摘したところで「偶然だよ」と言い逃れされてしまうだけだと思うけど……。まぁ、一度釘を刺しておこうかな? 気づいていると知らせれば止めるかもしれないし。


 食料品売り場から一旦離れ、人気ひとけのない行楽品売り場へ。


 まずは大きな通路を曲がり、棚と棚の間の通路に入ってしばらく歩いたところで――振り返る。


「わっ」


「わぁ!?」


 ちょっと驚かせると、素っ頓狂な声を上げたのは……ユリィさん? さっきまで一緒にいた、ユリィさん?

 少しビックリさせすぎたのか、ユリィさんは床の上に尻餅をついてしまっていた。


 ちょっと罪悪感を感じた私はユリィさんの元へ歩み寄り、手を引いて立ち上がらせる。


「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね」


「あ、あぁうん、こちらこそ、ごめんね。床に手を付いた手で触っちゃった」


「?」


 あ、なるほど。尻餅をついたときにユリィさんは両手を床に付いていて。私が手を伸ばしたから反射的にそのまま手を握り返してしまったのだ。


 別にこのくらいで『汚い!』とは思わないけど、一応食料品を買っている途中だからね。清潔にしておくべきかな。


 というわけで。お総菜コーナーのところにアルコール消毒があったのでまずはそこまで移動し、手を清潔に。そうして私は改めてユリィさんに向き直った。


「ユリィさんもこのスーパーを使うんですね?」


「え!? あ、うん! そうだね! よく使うよ!」


「それにしては初めてスーパーで会いましたが。学校帰りに一度くらい遭遇しても良さそうなのに」


「う゛」


「そもそもユリィさんの家ってこっちなんですか?」


「う゛ぅ」


「近所のスーパーなら曜日ごとの特売品くらい覚えていそうなものですけど……今日の特売品は?」


「う゛ぅう……」


 私は別に名探偵ではないので、個々の質問に関してはいくらでも言い訳はできたと思う。


 でも、罪悪感があるせいかユリィさんはすぐに追い詰められてしまって……。なんだか『しおしお』と萎れてきてしまったので、イジるのはこのくらいにしようかな。


「なんでまた後を付けてきたんですか?」


「う゛っ、いや、そんな気はなかったんだけど……なんかこう、アルーさんとミワさんのこととか、アパートの管理人をやっているとかの情報が気になりすぎて、気がついたら……」


「後を付けていたと?」


「ごめんなさい」


「いやまぁ別にいいんですけど」


 そりゃあダンジョンの中にエルフ美人が二人も出てきたり、同級生がアパートの管理人をしているなんて聞かされたら気になって当然だ。たぶん私だったらそのアパートを確かめたくなると思う。


 まぁ、気になるんだったら本人に直接「遊びに行っていい?」とか「アパートってどんな感じなの?」と聞けばいいのだし、いきなりストーカーまがいのことをしちゃうのはだいぶアレなんだけどね。それを指摘したらさらに『しおしお』としてしまいそうだから黙っていよう。


 おっ、そうだ。

 実地研修の祝勝会(?)というのなら、パーティーメンバーのユリィさんがいてもいいはずだ。むしろいるべきだ。


「そんなに気になるなら……うち来ます?」



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