「と、とりあえず私も手伝おうかな!」
ユリィさんがそう提案してきたので受け入れる私。内心では感動で打ち震えていたりする。おぉ、料理を手伝ってくれるなんてまともな……。うんうん、残念エルフ3号だと思っていたけれど、まだアルーやミワよりはまともであるらしい。
「……くっ、さっそく点数稼ぎを」
「油断なりませんね……」
そんな私たちの背後でドロドロとした声を出すアルーとミワだった。なおコタツに入ったまま手伝う気配はない。
ちなみに私の部屋は妖精さんによる温度管理が完璧なので、たとえ真夏でもコタツで鍋を楽しめるし、真冬でもアイスを楽しめるのだ。
今日の献立はお鍋。そしてスーパーで買ってきた生野菜とお総菜。なので料理とは言っても食材を切って鍋に突っ込んだあとはそれなりに暇である。
「ユリィさんは嫌いな食べ物ってありますか?」
「……お野菜がちょっと苦手かも」
「あーはいはいミワ系ですか。まぁエルフだから多少栄養が偏っても平気なんですかね?」
「……う~ん、本物のエルフはそうかもしれないけど……ボクはハーフエルフだからなぁ。そこまででは無いと思う」
「へぇ、そんなものなんですねぇ」
「……聞かないの?」
「? 何を?」
「ほら、ハーフエルフの事情とか、その辺の話を」
「暇つぶしでよければいくらでもお聞きしますよ?」
「……暇つぶしかぁ。そうだよねぇ。優菜はそういう子だよねぇ」
なんだか。
どこか嬉しそうな声色のユリィさんだった。
と。私とユリィさんが微笑ましいやり取りをしていると、
「うわぁ……」
「また口説いてますね……」
「油断も隙もない」
「女たらし」
なぜだか背後からドロドロとした批判をされてしまう私だった。私、あの二人の夕飯を抜きにしても許されるのでは?
「あ、そういえば。実地研修のことだけど」
ユリィさんが思い出したように話し始めた。
「優菜がダンジョンでもお昼寝する気満々なのはよく理解したけど……さすがに装備無しは駄目だと思うなぁ」
「と言われましても。お昼寝するだけですし。魔物避けの魔導具のおかげで安全ですし」
「……装備無しの状態の人が隣にいると、ボクが安心できないかな」
「なるほど」
自分一人ならどうでもいいけど、今はパーティーを組んでいるものね。自分勝手な行動でメンバーを不安にさせてはいけないと。
「じゃあ……ユリィさん、余っている装備はありませんか?」
「あ、余ってる……?」
「えぇ。私、使えそうな防具なんて持ってないので」
「なんで精華学園に通っているのに、防具の一つも持っていないのさ……?」
「必要ないからですね」
「う~ん、ボクが思っていたよりも厄介な女の子だったよ……」
力なく肩を落としてから、ユリィさんが私を見た。正確を期するなら、私の胸部を。
「昔の装備なら余っているけど……ボクのは合わないんじゃないかなぁ?」
「…………」
ユリィさん。(ハーフ)エルフとは思えないほどの胸部装甲。
私。すとーん。
…………。
「ケンカ売っているなら買いますよ?」
「いやケンカというか客観的事実というか」
「事実は時として人を傷つける。ユリィさんにはぜひ覚えて帰って欲しいものですね」
「あ、はぁ……。まぁ胸はともかく、やっぱり防具は身体にフィットしたものを買った方がいいと思うなボク」
「なるほど」
たしかに一理ある。ぶかぶかのものを買って歩くのすら億劫になったり、逆にキツすぎて呼吸すら難しいという可能性もあるからね。ここは新品の防具を一つくらい買っておくのもいいかもしれない。
「なんだったらボクが買ってあげてもいいし」
「いやさすがにそこまでは……」
「でも、ボクから言い出したことだし……。これでも狩人としてそこそこの収入があるんだよ?」
「大丈夫ですよ、私にも貯金くらいありますから。それにお金の貸し借りとかよくないと聞きますし」
「そう……?」
現代日本はダンジョン関連の産業がそれなりの経済規模になっているので、町に出れば防具屋や武器屋を見つけることができる。
でもなぁ。私一人だとどんな防具がいいか分からないんだよなぁ。知識がないのを見透かされて無駄に高い防具を買わされるのも嫌だし……。
頼りになりそうな人は……。アルーは防御結界で済ませてしまうし、ミワは装備=ボンデージだからとても着られたものじゃない。ファルさんは……なんか選んでいるときひたすら無駄知識を叩き込んできそうだしなぁ。
「おっ」
そうだそうだ。いるじゃないか目の前に。現役の狩人で防具にも詳しそうな人が。
「じゃあ、ユリィさん。今度一緒に選びましょうか」
「え? それって――」
なぜかユリィさんが目を丸くして、
「デート!? デートなのね!?」
「女たらし! 女たらしです!」
なんか仲良く騒ぎ始める残念エルフ1号&2号だった。