目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第16話 ともだち

 翌日。

 今日の授業はダンジョンに入ることなく、昨日のダンジョンでの経験を反省したり改善点を検討したりするよう言われている。


 まぁつまり、自習みたいなものだ。

 自習なのだから防具を買いに街へ出ても問題ないのでは?


「問題あると思うけど……」


 ユリィさんは乗り気じゃなかったけど、まぁまぁ先生に聞いてみるだけでもと納得させてから職員室へ。


 担任の先生に事情を説明すると、なぜか目を潤ませてしまった。


「そうか。やっと防具の重要さを理解してくれたか……」


「あ、はぁ」


「将来狩人にならず国家保安省に就職するつもりならと強くは言い聞かせては来なかったが……そうだな。いくら校内のダンジョンが安全だとはいえ絶対とは言い切れん。そもそもそういう油断のせいで命を落とした狩人は多く――」


「あ、はぁ」


「よしよし、金銭的な問題があるなら先生も少しばかり支援して――」


「いやマズいですって。たぶんヤバいくらい騒がれますって。最近何でも炎上するんですから止めましょうよ」


 お金を渡してこようとする先生と、断固受け取り拒否する私。


 それ自体はすぐに諦めてくれたのだけど……今度はいかに安全にダンジョンで行動するかの講義が始まってしまった。


 なぁんか話が長くなりそうだったけど、内容が内容なので途中で切り上げるのも忍びなく。結局その後30分ほど担任の熱い語りを聞かされるハメになったのだった。





 先生の長話って精神的にも肉体的にも消耗する気がするよね。


「もう今日は疲れたので、防具は諦めて図書室の個室でのんびりしません?」


「気持ちは分かるけど、ダメだよ。明日はまたダンジョンに入るのだから」


「はーい」


 しぶしぶながらも学校前のバス停からバスに乗り、町中へ。ユリィさんオススメの防具屋を紹介してくれるそうなのだ。


 駅近くのバス停で降り、あまり綺麗じゃない路地に入っていくユリィさん。一応人二人が並んで歩ける程度の広さがあるとはいえ、それでもなぁ……。真っ昼間だから心配しなくてもいいだろうけど、女子校生二人で立ち寄るべき場所とは思えない。


「え~っと、こんなところに防具屋さんがあるんですか?」


「うん。偏屈な人だから表通りには店を出さないんだけど、腕は確かだよ」


「偏屈って」


 王子様キャラ&生真面目なところがあるユリィさんにそう言われるって、かなりの変人なのでは?


 まぁでもアルーやミワ以上の変人は中々いないから平気かなと考えながら路地を進むと、古ぼけたお店にたどり着いた。


 大きなショーウィンドウにはいかにも高そうな全身鎧と両手剣が飾られている。


 お店の看板に書いてあるのは、装備屋。武器と防具を扱っているのかな?

 しかしなんとも単純明快な名前。他の職種で言えば『お花屋』とか『ケーキ屋』、『本屋』と看板に掲げるようなものなのでは?


 外壁は……コンクリートというか、モルタル? よく分からないけど、なんかそんな感じの造りだ。


 いかにも『専門店!』『素人お断り!』って感じの雰囲気が漂っているお店。正直言ってちょっと入りにくいかも。ほら私って砂糖菓子のように繊細な心を持っているから。初見のお店に入るのは気が引けるというか。


 そんなお店だというのに、ユリィさんは迷うことなく扉を開け、入店してしまった。


ただいま~・・・・・


 え? ただいま?

 もしかして実家? 実家なんです?


 まさか、しつこく防具を買うように言ってきたのは単なる営業活動だったり? ……いや、それはないか。ユリィさんとの付き合いは短いけど、彼女が本気で私を心配してくれていたのは分かるからね。


 ドアベルに反応して、店の中から野太い声・・・・が響いてくる。


「――あらユリィちゃん? おかえりなさい。まだ学校の時間じゃないの?」


「うん。ちょっと急ぎで防具を作って欲しい子がいてね」


「急ぎ? なんだか穏やかじゃないわね?」


 私が店の外で戸惑っている間に、店内ではそんなやり取りが進んでいた。


 ユリィさんに手招きされたので、借りてきた猫のように大人しく店内へと入る。


 いかにもな『装備屋』だった。

 入り口から見た右側の壁には長剣や槍といった武器が所狭しと並べられ、左側の壁には盾や鎧といった防具が並べられている。


 一般的な装備品には詳しくない私だけど、なんとなく質は良さそうな感じがする。


 そんなお店の中央正面。

 カウンターの中にいたのはエルフの男性・・・・・・だった。


 ……いや、『男性』でいいのかな?


 野太い声や、肩幅、ガッシリとした体つきからして、確実に男性。しかし長く伸ばされた金色の髪や、女性向けの衣服を着ているので『女性』と表した方がいい感じはする。


 おかま――という表現は昨今ダメなんだっけ? こう、精神的に女性っぽい人だった。


 そんな彼? 彼女? えーっと、店員さんは朗らかな笑顔をこちらに向けてきた。


「あら~可愛い子ね? ユリィちゃんのお友達?」


 職人らしいガッシリとした肉体をした男性が猫なで声(野太い)を出すのは……ま、まぁ、趣味は人それぞれだよね。


「はい、友達ですね・・・・・。優菜と申します」


「あら、優菜ちゃん。可愛い名前ね。まったくこんな可愛い子を捕まえるなんてユリィちゃんも隅に置けないわ~。この辺は私に似ちゃったかしら?」


 ユリィさんのお父さん――お母さん? は、なんだか嬉しそうに両手のひらを合わせて、


「おお!」


 ユリィさんはなぜか感動に打ち震えていた。……もしかして私が『友達ですね』と答えたから? いやまぁ同じパーティーになったのだし、夕食も一緒にしたのだからそろそろ友達でもいいと思うのだけど。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?