「――うん、こんなところね」
紙に色々と書き込んでいたユニーさんが満足そうに頷いた。なんだか思ったより本格的な採寸だったなぁ。授業でしか使わないのだからもうちょっと気軽な感じで良かったのだけど。
「予算は10万円だったわね? それに収まるように作ってあげるわ」
「あ、はい。お願いします」
「さすがに今日明日じゃ無理だから、しばらくはその鎧を使っていてくれるかしら? また授業でダンジョンに入るのでしょう?」
「いいんですか?」
「ダンジョンに入るのに鎧無しというのもねぇ? それに、ユリィちゃんのお友達なら持ち逃げされる心配もないし」
装備を持ち逃げする人とかいるんだ、と妙なところで感心(?)してしまう私だった。
「さて、お二人とも時間はあるかしら? よかったらお茶していかない?」
そんなお誘いをしてくるユニーさんだった。
まぁ今日の授業は自習みたいなものだし、外出には担任の許可ももらっているので急いで帰る必要はないと思う。
ユリィさんに視線で確認すると、彼女も別に問題はなさそうだった。というかユリィさんはこのまま直帰という形を取った方がいいんじゃないだろうか?
ユニーさんに案内される形で、店の奥へ。
奥は作業スペースになっているのか、かなり広い空間に作りかけの鎧や各所工具などが並べられていた。
こういう装備屋さんには裏に鍛冶場があるイメージなんだけど……なさそう。というかさすがに町中で鍛冶をするのは危なすぎるか。
あるいは、クリエイト系のスキル持ちかもね。ランクが上のスキルは素材さえ準備すれば即座に武器や防具を錬成できると聞くし。
「じゃあ、お茶を淹れてくるから、ちょっとここで待っててねぇ」
ユニーさんが軽々とテーブルを持ってきたので、私とユリィさんも椅子を持ってくるお手伝いを。
テーブルのセッティングが終わり、ユニーさんが手際よくお茶を準備してくれたので早速お茶会開始だ。
「優菜ちゃんはどうやってユリィちゃんと知り合ったの?」
まぁ親なら気になるよねぇということで、正直に話すことにする。
「はい。同じクラスの隣の席でして。ユリィさんから誘われて授業でのパーティーを組むことになりました」
「……へぇ、ユリィちゃんが、自分からねぇ?」
ユニーさんがニヨニヨと頬を緩ませながらユリィさんを見て、
「…………」
ふてくされるように顔を背けるユリィさんだった。おぉ、学校での『王子様』なユリィさんらしからぬ態度。やはり家族相手だと色々違ってくるのかな?
まぁここは助け船を出しておこうかな? なにせ友達になったのだから。
「いえ、ユリィさんは凄いスキルを持っていますからね。たくさんの人からパーティーに誘われて困っていたんですよ。だからまぁ助け船というか、ボランティアですね」
「…………」
「…………」
なんか「うわぁ、コイツは……」みたいな反応をされてしまった。まったく同じ顔で。
「…………。……ユリィちゃんは珍しい外見をしているからね。昔から注目を集めていたのよ。良くも悪くも」
「あ、はぁ?」
なんか身の上話が始まったぞぉ?
「あの人が亡くなってから私もユリィに構ってあげられる時間が減っちゃってねぇ……。たぶん色々と一人で抱え込んでしまったのよね」
「…………」
あの人ってたぶんユリィさんのお母さんだよね? ユリィさんはハーフエルフだからおそらくは人間の女性で……。え? 友達になりたての私が聞いても大丈夫な話題ですか?
「たぶんちょっとした人間不信になっていたのだけど……そんなユリィちゃんが、自分から声を掛けるなんて……私、感動しちゃった」
よよよ、っと涙を拭うユニーさんだった。ちなみに本当に泣いているわけではない。
えー、これ、どんな反応をすればいいんだろう?
戸惑いつつも当たり障りのない対応を心掛けた私だ。
「そ、そうでしょうね。いくら移住してくるエルフが増えたからとはいえ、まだまだ子供は珍しいですし。どうしても目立ってしまいますよね。ユリィさんは
「――――っ!?」
なぜか盛大にむせるユリィさんだった。お茶が熱すぎたのかな?
「……あー、なるほど。女たらしなのね……」
なんか初対面の人からとんでもない評価をいただいてしまったぞーぉ?
解せぬ評価に私が首をかしげていると、
「――ユニー、いる?」
お店の方からそんな声が。若い女性かな?
「あらお客さんね。ちょっと出てくるから、ゆっくりしていってちょうだい」
軽い足取りでお店に戻るユニーさんだった。
(ほうほう?)
お客さんが来て喜んだ、にしては商売っ気がないような感じ。顧客としてではなく、特定個人がやって来たのを嬉しがっているというか……。
そしてお客さんの方も『ユニー』と呼び捨てにしていた。
本来なら娘(ユリィ)が学校に行っている時間帯にやってきた、親しげな客。
真っ先に浮気を疑うところだけど、さっきの話からすると未亡人で――いや男性に対して『未亡人』という言葉は正しいのかな? いやいやでもユニーさんはたぶん心は女性だし……。
ちらり、と。
横目でユリィさんの様子を確認すると――なんとも、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。