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第21話 アルーとのデート


 その後も特に問題なく実地研修ダンジョンの日々は過ぎていき。研修開始から初めての休日となった。


 真面目な生徒たちは今までの経験から装備の改良や更新をするために各所の武器屋・防具屋に向かい、ちょっとした好景気になるのが毎年の流れなのだそうだ。


 まぁ私はアルーとミワそれぞれとお出かけするので、装備屋さんに出向く予定はないのだけどね。あの二人に今さら装備の更新なんて必要ないし。


 ちなみにユニーさんのお店も大繁盛予定らしく、ユリィさんもお手伝いをするのだと意気込んでいた。


 正直、あんな美少女が看板娘をやったら別の意味で大繁盛しそうなんだけどね……。まぁ路地裏の店だし、店主が筋骨隆々とした男の娘おとこのこ(オブラートに包んだ表現)なので変な人は寄ってこないと思う。


 ……装備屋に行くつもりはなかったけど、あとでちょっと様子を見に行こうかな? それに、よく考えたらそろそろ注文していた皮鎧の受け取りに行かなきゃいけないし。


「――今、他の女のこと考えなかった?」


 じっとりとした光のない瞳を向けてきたのはアルー。まぁいつものことだ。


 なんやかんやで休日を迎え。なんやかんやで珍しく早起きしたアルーと一緒に街へやってきて。第一声が「他の女のこと考えなかった?」である。自称デートなのだからもう少し陽気な発言をすればいいのにね。


 まぁでも誤魔化ごまかすのは慣れっこな私である。


「んー、よくララートさんを相手にして休みをもぎ取れたねぇって。アルーって土曜日は何だかんだで出勤することが多いし。今週も半休をもらったばかりなのに」


 ちなみに半休をもらった理由が「優菜わたしとユリィさんのダンジョン実地研究を監視するため」である。もっと有意義なことに有休を使えばいいのに。


「ふふーん。何日か前、ララートも昼休み時間を大幅に過ぎて帰って来たことがあったからね! そこをつついたら簡単に休みをもらえたわよ!」


「へー」


 たぶんユニーさんのお店にやって来た日のことだろうなと思う私。仕事も忙しいのにお昼休み時間を潰してまで会いに行くなんて――愛じゃん。ちょっとドキドキしてしまう私だった。


 そしてアルーが簡単に休みを出してもらえた理由は……ウダウダと絡まれてユニーさんとの関係が知られるのを避けたかったのかな? アルーの場合、絶対興味本位でお店に向かうし。


(厄介な部下を持つと大変ですねララートさん……)


 彼女の苦労を推し量り、心底同情してしまう私だった。


「……今、他の女のこと考えなかった?」


「アルーはそのセンサー(?)を交換した方がいいんじゃない?」




 街の中心部。

 市役所やら商店街やらが密集する場所で、アルーはなぜか腕を組んで仁王立ちしていた。


「……よく考えたらわざわざ街に出なくてもいいのよね。必要なものはAmaz〇nで買えばいいのだし」


「この引きこもりは……」


 ミワはもうどうしようもないレベルの引きこもりだけど、アルーも結構なものなんだよね。休みの日は外出せず一日部屋で過ごしているし。


 もっとこう素敵なお洋服を求めてウィンドウショッピングとかしないの? とは思ったけど……アルーも、ミワも、そして私も、サイズさえ合えばネットで済ませても大丈夫というか、多少のサイズ違いも許容してしまう系だった。


 ダメだ私たち、女子力が低すぎる……。


 というか目的もないのに街まで付き合わされたんかい、私。


「じゃあわざわざお出かけしなくても良かったじゃん……。アルーも有給使わなくて良かったじゃん……」


「はぁー! 分かってないわねぇこの女たらしは! 釣った魚に餌をやらない女はこれだから!」


 人聞きが悪すぎである。なんだ女たらしだの釣っただの。そろそろ名誉毀損で訴えても許されるのでは?


 アルーを釣った覚えはないし、よしんば釣ったとしても、自分を釣られた魚扱いするのもどうなのさ? そもそも自分から船の上に飛び乗ってきた系だし。というか毎日毎日夕ご飯を作って食べさせているじゃないか。


(あ、そうだご飯)


 もう面倒いからお昼食べて帰ればいいのでは? と、かなり本気で検討していると、


「――ん?」


 ふと立ち止まる私。


「どうしたの?」


「ちょっと視線を感じたかな」


「あら相変わらず敏感ね。――どれどれ?」


 アルーが胸の高さまで右手を挙げた。たぶん探知系の魔法を使うのだろう。私は攻撃系ばかりでこういう魔法が苦手なんだよなぁ。


 ちなみに町中でも人に危害を加えない魔法なら使用が許可されているというか、黙認されているのだ。警察官の中にも魔法の発動を感知できる人なんてほとんどいないし。


 む、と小さく唸るアルー。


「――逃げられた」


「お、珍しい。平和すぎて腕が鈍ったんじゃない?」


「はぁー!? にぶにぶのダルダルな優菜に言われたくはないわよ!」


 にぶにぶのダルダルって。もうちょっと言い方はないのだろうか?


 思わずお腹に手をやる私。……うん、問題なし。無駄な脂肪はナッシング。寝る前の運動は効果を発揮しているようだ。


 でも、逃げられたってことは相手もかなりの魔法の使い手とか? ……いや、アルーがいかにも『今から魔法を使いますよ』ってポーズを取ったから逃げたという可能性もあるかな? まったくこの残念エルフは。


「……なんか失礼なこと考えてない?」


「ないない」


 ただの事実なのだから失礼も何もないよね。


「しかし、視線ね……。これは優菜を狙うライバルが現れたかしら?」


「ないない」


 なんでこんな地味な黒髪少女を狙うのか。それだったら美人&長身&いかにもなエルフであるアルーが目的でしょうが。


 美人なアルーが街行く人の視線を集めるのはよくあることだ。

 でも、さっきの視線はもうちょっと意識的というか、ねっとりとしたものだったなぁ。


「アルー。なんかストーカーとかに心当たりない?」


「ストーカー? ないわねぇ。というかそんなのがいたらアパートまで付いてくるだろうし、さすがに優菜も気づくんじゃない?」


「それもそっか」


 あとの可能性は……。


「アルーがお仕事で盛大にやらかして、恨みを抱いた人間が復讐のために隙をうかがっているとか?」


「優菜は私を何だと思っているのよ……?」


 じとっとした目を向けられてしまった。残念エルフ1号ですが、なにか?




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