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第22話 アルーとのデート・2

 特に目的もない。

 でも、せっかくのデート(自称)なのだからすぐに帰るのは嫌だとアルーは言う。


 ということで、私たちはユニーさんのお店がある路地までやって来たのだった。もう注文していた皮鎧は完成しているはずだからね。


 まぁでも急ぎではないし、ユニーさんたちが忙しそうなら回れ右する感じで。


「おっ」


 お店には何人かお客さんがいるようだけど、それほど混雑している様子はない。せっかくここまで来たのだから皮鎧を受け取ってから帰ろうかな?


「……ここがあの女のハウスね?」


 なんかまたアホなことをほざいているアルーだった。


「ここはガツンと言っておかないと!」


 勢いよくお店のドアを開けるアルーだった。なんというか、はっずかしい人だなぁ。他人のフリしようかな?


「げぇ!? ユニーさん!?」


 大声を上げながら仰け反るアルー。

 いや見た目美人が「げぇ!?」ってどうなのさ……。いやそうじゃなくて、もしかしてユニーさんと知り合い? まぁ同じ種族エルフなんだから知り合いでも不思議じゃないけど。


「あらアルーちゃん! 久しぶりじゃない! こっちに来たとは聞いていたけど! 会えて嬉しいわぁ!」


「え? え? ユニーさん……? その格好と口調は……?」


 あわあわと慌てだし、助けを求めるようにこっちを見るアルーだった。この様子だとユニーさんって昔は男性的な格好と口調をしていたみたい。


 まぁでも服装の好みが変わることもあるだろうし、元の世界では好きな格好ができなかっただけかもしれない。


 個性は尊重しなきゃいけないけど、アルーのことだから失言してもおかしくはない。というわけで、私も店の中に顔を出したのだった。


「こんにちはー」


「あら優菜ちゃん、数日ぶりね! 皮鎧できているわよ?」


「ありがとうございます。……あの、ユニーさんってアルーと知り合いなんですか?」


「そうなのよー。昔王城で働いていた頃に、ちょっとね」


「え? 王城? 凄いじゃないですか」


「あらありがとう。でも下働きみたいなものだからね、そんなに凄くはないのよ?」


「いやたとえ下働きでも王城で働けるなら凄いんじゃ……?」


 たとえばメイドさんだって最低でも下級貴族の娘じゃないとなれないはず。


 さすがに王城では男性がメイドとして働くのは無理そうなので……武器や防具の維持管理とかしていたのかな? 王城って騎士が常駐しているし。


 ちなみにアルーも勇者パーティーに入る前は近衛魔導師団に所属していたのだけど……う~ん、凄い、かなぁ……? なんか普段のダメダメさのせいでいまいち……。


 そんなダメダメ残念エルフであるアルーはなぜか自信満々に胸を張っていた。


「そう! 優菜は知らなかったみたいだけど、ユニーさんは凄いのよ! なにせ王城に代々保管されていた『勇者装備』の維持管理を任されていた人なんだから!」


 勇者装備というと聖剣や鎧のことか。


「え、ほんとに凄い人じゃないですか」


「もぅ、だからそんなに凄くはないんだってば。そもそも勇者装備には自己修復機能が付いていたから何もやることがなかったし。結局こんな下っ端じゃ『勇者様』との謁見は叶わなかったもの」


 どこか熱っぽくユニーさんが語り始める。


「勇者様は遠くでお姿を拝見しただけだったけど、綺麗な銀髪・・だったわねぇ。それに背筋もピンとしていて。あぁあれが世界を救うお人なのかと感動しちゃったもの」


「あ、はぁ」


 なんというか、その……筋骨隆々な人が腰をくねくねさせながら語るのは凄い光景だった。


「――あれ? 優菜? それにアルーさん?」


 カウンターの奥から顔を出したのはユリィさん。エプロンをしているから昼食の準備でもしていたのかな?


 私とアルーを交互に見るユリィさん。


「……あぁ、なるほど。例のデートかな?」


「デート……。う~ん、デートでいいんですかねぇ?」


「いやそこは自信満々に頷いてあげなよ。さすがにアルーさんが可哀想だよ?」


 まったくもー、っとユリィさんが苦笑していると、


「ま、まさかうちのユリィちゃんだけじゃなく、アルーちゃんにまで手を出していたとは……優菜ちゃん、恐ろしい子!」


 なんかユニーさんから盛大な勘違いをされてしまっていた。


「いや手なんて出してませんって。人聞きが悪すぎですって」


 アルーやユリィさんみたいな美人・美少女が複数の女の子をはべらすならともかく、なんでこんな地味系黒髪少女が超級美人・美少女に手を出さなきゃいけないのか。そもそも相手にされませんって。


「うわっ、鈍っ」


 男っぽい口調になってますよユニーさん?


「はぁ、しかし恋のライバルがアルーちゃんなのね……。ユリィちゃん、頑張ってね……」


 しみじみとした顔をするユニーさん。今さらですけど私たち女の子同士ですけど。そこはいいんですか? ……まぁあっちの世界じゃ普通に女×女で子供を作れるし、別にいいのか。


「えーっと、皮鎧、受け取ってもいいですか?」


 変な方向に話が進んでいたので、半ば無理やり本題に話を戻す。


「あら、そうだったわね。持ってくるからちょっと待っててね」


 奥の部屋に入ったユニーさんはすぐに革の鎧を持ってきてくれた。


 たぶん何の変哲もない皮鎧だと思う。

 ただ、10万円という値段だというのは分かっているので「わ、わぁ、じゅうまんえんだぁ……」とちょっと震えてしまう私だった。金銭感覚は大事にしていきたい。


「たぶん大丈夫だと思うけど、一応試着してくれるかしら? 今なら無料で手直ししてあげるから」


「はーい」


 上着を脱いで、皮鎧を身につけてみる。お、この前の皮鎧と違って変なニオイもしない。それにとても軽くて動きやすい。これなら皮鎧を着けたまま昼寝しても……さすがに無理か。ちょっと硬すぎて寝心地悪いよね。


 特に問題なさそうだったので代金をお支払い。


「まいど~。サイズの手直しや傷の修理は格安でやってあげるからね? さすがに無料は無理だけど」


「はい、ありがとうございます」




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