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第23話 ミワとのデート


 その後はユニーさんからお茶に誘われたけど、他にお客さんもいたのでさすがに遠慮して。そのままウダウダと街で過ごしてアルーとのデート(?)は終了したのだった。


 ちなみに受け取った皮鎧は空間収納ストレージに突っ込んでおいたので移動の邪魔にはならなかった。こういうのを実感すると空間収納ストレージ持ちが求められるのも分かるよね。


 ま、とにかく。アルーとのお出かけは無事終了。


 そして翌日の日曜日、今度はミワとのデートとなったのだった。


「私の時代が来ましたね!」


「来ない来ない」


 部屋に迎えに行くとミワは高笑いをしていた。うわー近づきたくねー。


 いやそれ以前の問題として。ミワ、服装がいつもの学生用ジャージなんだけど? まさかその格好でお出かけするつもり?


「何か問題でも?」


「問題しかないね」


「……なるほど。着飾った私を見たいと? まったく優菜さんも欲しがりさんですね?」


「あーはいはい、もうそれでいいから早く着替えてねー」


 さすがに学生ジャージを着た(外見年齢)二十代前半女性と並んで歩く自信はない。テキトーに相づちを打ちつつ着替えを促す私だった。


 恥ずかしがる様子もなくその場でジャージを脱ぎ下着姿になるミワ。まぁ女性同士なのだしわざわざ騒ぐようなこともでもない。なんだったら一緒に銭湯や温泉に行ったこともあるし。

 いや「み、ミワが下着を着けている!?」という意味では驚くべきかもしれないけどね。み、ミワが下着を着けているだってー!?


「……いえ優菜さん。美人が目の前で着替え始めたのですからここは興奮したり恥ずかしがったりする場面では?」


「私たちの間では今さらじゃない?」


「ふふ、なるほどもはや私たちは性欲を超えた関係であると」


「性欲て」


 逃げられないよう拘束してからじゃなければ指一本触れることのできないヘタレがよくもまぁ。


「ぐっふ!」


 効果は抜群だ。

 ダメージがでかすぎるのか下着姿のまま床に転がるミワだった。着替えないならもう帰っていい?


「ま、待ってください! すぐ着替えますから! ふっふっふっ! 優菜さんのデート! よく考えれば一張羅の出番ですよね!」


 一張羅。

 なんだか嫌な予感。


 よーしツッコミを入れるぞーっと私が身構えていると、ミワが『一張羅』とやらを取り出した。


 布面積。下着よりも僅かに多い程度。

 素材。皮。

 見た目。SMの女王様が着ているようなボンデージ。


「――そんな服を着た痴女と出かけられるか!」


「痴女!?」


 ガガーンと衝撃を受けるミワだった。ファッションセンス、皆無というかマイナスだ。





 お出かけをする服がない。

 この前一緒に出かけたときいくつか買ったはずなのだけど、空間収納ストレージの奥底か部屋の地層ゴミの奥底に埋まっているらしい。


 しょうがないのでまずは(ジャージ姿のまま)アパート近くの商店街へ移動。馴染みのおばちゃんがやっている服屋へ行き、服を調達。


 正直、あの店で扱っているのは中年~高齢女性向けの地味な衣服なのだけど……馬子にも衣装の逆バージョン。ミワ(美人エルフ・超絶スタイル)が着ると「そういうファッションなのかな?」と思えてしまうのだった。


 むしろここは素材ミワの良さを打ち消してみせる学生ジャージを褒め称えるべきかもしれない。


 店のおばちゃんの長話は早々に切り上げて。最寄りのバス停からバスに乗り、町中へ移動だ。


「ふっふっふっ! 今日は優菜さんを素晴らしいお店にご招待しましょう!」


 なぁんかやる気満々なミワだった。この人がやる気になるとろくなことにならないのに。


 ミワの後に続いて市役所前でバスを降りる。すると、なんだか『きゃいきゃい』している学生の集団を見つけた。


 五人組。制服からして私と同じ精華学園の生徒。


 顔に見覚え、なし。

 そもそもクラスメイトの顔と名前を一致させる自信がないのがこの私だ。そう考えると隣の席とはいえ保有スキル名やハーフエルフであることまで覚えていたユリィさんは破格の待遇(?)と言えるだろう。


「相変わらず、美人や美少女のことはよく覚えられるようで」


「人聞きが悪すぎる」


 ただ単に特徴的な女性の方が記憶に残りやすいだけなのに。


「……ふと気になったのですが、男性でもイケメンなら顔と名前を覚えられるのですか?」


「え? なんで野郎の顔と名前を覚える必要が?」


「……そういうところですねー」


 なぜかミワに呆れられてしまった。あのミワに呆れられてしまった。最近ではユリーさんの顔と名前を一発で覚えたというのに。……いやあの人は『男性』枠でいいのかどうか分からないけど。


 それはともかく、休日に学生服とは珍しいなーっと考えながら学生集団を眺めていると、彼女たちは役所に入って行ってしまった。役所って日曜日はお休みなんじゃないの?


「狩人向けの窓口は24時間対応と聞きますね~。急に危険な魔物が出てくる可能性もありますし。学生の狩人だと日中は授業なので役所に来られませんし」


「へー」


 まぁ魔物が「今日は日曜だから勘弁してやるぜ」とか考えるはずないものね。


 漫画家さんであるおかげか、色々なことに詳しいミワだった。知識はあるのに常識はないのは何でだろうね?


 そんなミワは「ここはいいところを見せるチャンス!」とばかりに解説をしてくれた。


「特にこの時期は学生の『狩人』新規登録が増えると聞きますね。学園で初めてダンジョンに入ってみて、『これならいけるかも!』と自信を抱き狩人の門を叩くのだとか」


「へー。なんか聞いたことがあるかも」


「はい。学生で狩人になるのは本来難しいのですが、精華学園の生徒でダンジョン実地研修を経験していると許可が下りやすくなるのだとか。狩人として必要な知識は学んでいると判断されるのでしょうね」


「ほー」


 何で知識はあるのに常識はないのか以下略。


「……ふふ、狩人として名誉やお金を得る未来を夢見ている少女たち。あの中で一体何人がダンジョンの中で絶望を知ることになるのでしょうか?」


 うふふふふ、と。黒い笑みを浮かべるミワだった。魔王だ。魔王がおる。今のうちに討伐しちゃった方がいいのでは?



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