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第24話 ミワとのデート・2

 優菜は激怒した。

 かならず、かの残念魔王を討伐せねばならぬ。


「残念魔王扱いは酷いのでは?」


「わりと魔王じゃない?」


「魔王じゃないでーす」


 ぷっくーっと頬を膨らませるミワをなだめながら、案内してくれるという『素晴らしいお店』へ。


 商店街。

 歴史があって古ぼけてはいるけれど、市役所の近くという立地のおかげか、あるいは商店の人たちが頑張っているからか中々繁盛している場所だ。


 そんな商店街の、端っこ付近にその『お店』はあった。


 ででーん、っと。

 誇り高く看板に掲げられている文字は『コスプレ専門店 ユー・ナスキー』


 ……コスプレ専門店?


 いくら繁盛しているとはいえ、それでも人口は少なめなこの商店街に、コスプレ専門店?


 いやいや、無理でしょう。


 お店一つ支えられるほどのコスプレイヤーがこの街にいるとは思えないし、商店街の中の立地では店への出入りが丸見えで「あら、あの人コスプレするのね」とバレバレになってしまうじゃないか。最近では身バレ対策も重要だと聞くのに。


 なぁんか、嫌な予感というか、呆れの予感。


「ちなみにだけど、このお店のオーナーは?」


「私です!」


「だろうね……」


 こんな採算度外視っぽいお店を構えるなんて、お金の使い道を致命的に間違えているミワくらいしか考えられないもの。


「さぁ優菜さん! 私の奢りです! 好きな服を選びましょう!」


「人に奢る前にまず自分の服を買うべきでは?」


「なるほど、私のコスプレ姿を見たいと? さすがは女たらしですね」


「なんでそうなるのか……」


 いやまぁミワは文句なしの美人なのでコスプレとかも似合いそうだけどね? 見たいか見たくないかと問われれば見たいけどね? それを口にすると調子に乗って手が付けられなくなるからなぁ。


「ごめんください!」


 自分の店なのに何とも丁寧な挨拶をしつつ、中に入るミワだった。


 元気いっぱいなミワの登場に、カウンターで暇そうにしていた店員さんが驚いて立ち上がった。


「ま――まぁ! オーナー! 今日はどのようなご用件で!?」


 店員なんだから当たり前なんだけど、ミワがオーナーだと知っているらしい。


「はい! 優菜さんに似合うコスプレ衣装を買いに!」


「いや買うもなにもこの店の衣装は全部オーナーのもの――いえ、なんでもありません」


 ミワに睨まれて視線を逸らす店員さんだった。ほらー、いじめないのー。


 さて、この店員さん。ピンク色の髪や背中から生えた小さな翼、そして何よりボンデージっぽい衣装からしてサキュバスだと思う。いわゆる魔族。現代日本ではかなり珍しいね。


 ゲートを通って就職できたのだから危険な人物というか魔族ではないのだろうけど。


 ……ミワとは服の趣味ボンデージで意気投合したのかな?


 そんなサキュバスさんは興味深そうに私を見つめてきた。


「はぁはぁ、こちらが例の……。確かに美少女ですが、人間でしょう? すぐに老いてしまうのでは?」


「分かってませんねー。優菜さんの美しさはもはや永遠なのです!」


 よく分からないことをほざいているミワだった。いつものことだ。


「では優菜さん! この店にあるありとあらゆる衣装を試着していただいて構いませんよ! 水晶で永久保存しますので!」


 魔法には水晶に映像を記憶する術もあるらしい。じゃなくて。


「着ないよ?」


「……え?」


「着ないよ?」


「…………え?」


「着ないって」


「…………。…………なぜぇ?」


「むしろなぜ着ると思ったのか。私にコスプレ趣味はない」


「優菜さんのメイド姿とか! 猫耳とか! ちょっとエッチな衣装を見るという私の野望は!?」


「潰えました」


「……なぜですのぉ……………………?」


 力なく床に両手を突くミワだった。なんでこうこちらの意志を確認する前に突っ走るのか。どうして衣装を買うだけで満足せずに店まで準備してしまうのか。金を持て余したアホの子はこれだから。


「……え? じゃあこの店どうなるんです? 私の職場、どうなるんです?」


 冷や汗を流すサキュバスさんだった。うちのアホがすみません。





 あまりに可哀想なのでメイド服を着てあげた私だった。まぁ露出も皆無のロングスカートタイプだったしね。


 ……こんな甘い対応ばかりしているからミワもアルーも調子に乗るのかもしれない。


 ちなみに。映像保存用の水晶をいじくり回しながらハァハァしていたミワはとても気持ち悪かったと特記しておこう。


「うひひ、優菜さんのメイド服姿……我が生涯に一片の悔いなし……」


 むしろ悔いて欲しいんだけどなぁ。今までの色々なやらかしを。


 ありとあらゆる意味でヤバいミワが抱きしめているのは、さっきまで私が着ていたメイド服が入れられた紙袋。なんだか変態的な行為に使われそうな気がしないでもないけれど……まぁ、ミワにそんな度胸はないか。


 お、そうだ。変態と言えば。


「なんかアルーとお出かけしているときに視線を感じたんだけど。ストーカーとかかな?」


「……ストーカーですか。優菜さんは絶世というか世界を滅ぼしかねない美少女なのであり得るでしょう。ストーカーがダース単位でいても不思議ではありません」


「世界を滅ぼす美少女って何さ? 楊貴妃の世界版?」


 そもそも私は地味な黒髪少女なので。そんなトンチキな美少女じゃありません。


「優菜さんのその謙遜は、もしかして凡百の人間にケンカを売っているのでしょうか? 慇懃無礼ってヤツで」


「なんでさ?」


「自覚のない美少女とかー、他の人から見たらムカつくだけですよねー」


 ミワのその言い方の方がムカつくんだけど?


 おっと、話が脱線してきた。


「ストーカーならどうせアルーでしょう。あっちこそ絶世の美女なんだから」


「……顔がいいのは認めてやってもいいですが……。ストーカーですか。そういえばアパートの周辺に張り巡らされていた結界にほんの一瞬反応があったことが」


「え? なにそれ初耳。やばい話?」


 アルーの結界は確か敵意があるとかそういう系の感情を持った人間を排除するものであったはず。


「いえ、ただの泥棒が下見に来ただけかもしれませんし……。しかし私の結界に入ったことを即座に察知し撤退できたのですから、中々の魔法使いである可能性はありますね」


「中々の、魔法の使い手ねぇ?」


 なんとなく。アルーが話していたゲートの警報を思い出す私だった。何かが通ったはずなのだけど、監視カメラにも結界にも何の痕跡もなかったというあれ。


 あれだって熟練の魔法使いなら突破できると思うのだけど……。


「あるいは、ストーカーではなくてエルフの里から人員が派遣されてきたのかも」


「エルフの里?」


「はい。ここ数百年は外部との交流が盛んになりましたが、それを良しとしない頭の硬い連中がいるそうですし。なにかと目立つアルーを監視するとか、連れ戻すとか、排除するために……という可能性もあるかと」


 たしかにアルーは見た目もいいし、何かと忙しいララートさんの代わりに取材対応をすることも多いので目立っている。そもそもアルーって(私が絡まなければ)気前のいいお姉さんだしね。人気が出て注目されるのも当然というか。


 でも、監視ならまだしも連れ戻すとか排除とか……。


「……エルフの里って怖くない?」


「本来なら怖い場所なんですよー。人間とも、魔王討伐のために一時的な協力関係を築いているだけと聞きますし。いや私も人づてに聞いただけなのでそこまで詳しくはありませんけど」


「はー」


 まぁ同盟とかも100年続けば凄い方だし、エルフにしてみれば「ちょっと我慢すればいいかー」くらいの感覚なのかもね。うまくすれば相手国が滅びるかもしれないし。


 しかし、アルーをねぇ……。


「……もし連れ戻すという話になっていた場合、アルーは大人しく帰ると思う?」


「ないない。ないですね。優菜さんから離れるくらいならエルフの里を滅ぼしに掛かるでしょう、あの重い女は」


 アルーが重いかどうかは置いておくとして。


「なぁんか、厄介ごとになりそうじゃない?」


「なるかもしれませんねぇ。しかしあくまで私の予想ですし、自分の不手際は自分で片を付けるべき。優菜さんに迷惑を掛けたらそれこそお説教ですね」


「そんなことを言ったら、まずミワが自分自身にお説教しなきゃいけないんじゃない?」


「……私がいつ不手際をしたと?」


「エブリタイム」


「エブリタイム!?」


 ガガーンと衝撃を受けるミワだった。いや、自覚なかったんかーい。思わずコテコテのツッコミをしてしまう私だった。



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