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第30話 閑話 結末


 勇者。

 かつて異世界において『魔王』を討伐し、人類を救ったという英雄。その美しき銀髪は見る者すべてを虜にした。と、お母さんが話してくれた。


(見るもの全てを虜にする、という意味では優菜も当てはまりそうだけど)


 優菜は黒髪だし、なにより『勇者』って感じじゃないよね。なぁんて考えてしまう私だった。いやアース・ドラゴンに襲われたときのテキパキとした指示は格好良かったけど。


 まぁとにかく、そんな『世界を救った』勇者を簡単に任命してしまうのがいかにもこっちの世界の人っぽい。


 優菜としても冗談半分だったのか、それ以上深く『勇者』について語るでもなく次の話題に移った。


「アース・ドラゴンは討伐されましたが、別個体がいるかもしれないのでダンジョンはしばらく封鎖。国家保安省が調査を行うそうで、学校も一週間ほど休校だそうです。このあたりはユリィさんにもメールが来ていると思うので、あとで詳しく読んでおいてください」


「あぁ、うん。分かったよ」


 アース・ドラゴンが出たのだからダンジョンが封鎖されるのは当然だし、国家保安省が出てくるのも当然だ。


 だからこそ。ボクが気になったのは別の点。


「アース・ドラゴンが、討伐されたの?」


 自衛隊の大砲ですら倒すのは難しく、ボクの『自己攻撃力上昇・S』でも傷一つ付かなかったドラゴンが?


「ユリィさんのスキルなら倒せそうなものですけどね……」


「いや、倒せなかった。Sランクスキルでも倒せなかったのに……いったい、誰が倒したの? 自衛隊? Sランクパーティー?」


「それはですね――」


 優菜が説明しようとしてくれたタイミングで。


「――優菜! そろそろ帰りましょう! 病院ってやっぱりつまらないわ!」


「アルーさん。こういうときはまずユリィさんの心配をするものでしょう?」


 優菜のアパートに住むアルーさんとミワさんが病室に入ってきた。え? なんでこんなところに?


 ボクが疑問に思っているとアルーさんが自信満々に胸を張った。


「心配する必要なんてないわよ! なにせ! この私が治癒魔法を掛けたのだからね!」


「だからこそ心配するべきだと思うのですが」


「何でよ!?」


 いつも通りに騒がしい二人。


 そう、いつも通り。


 ここは病院だというのに、騒がしいのだ。まぁエルフなので『病院』という存在に馴染みがないのかもしれないのだけど。それでも病院で騒ぐのは無いよね。


 それは、優菜にしても同じみたいだった。


「二人とも、うるさい。正座」


「――――っ!」


 優菜からの圧に負けて即座に正座をする二人だった。病室の床の上に。


 なんだろう? こう、同級生が美人二人を調教(?)している場面って、どんな反応をすればいいか分からないよね……。


 幸いにしてこの病室にはボク以外の入院患者はいないみたいなので、誰かの迷惑にはなっていないと思う。


 いや、でもやっぱり非常識すぎるかな。国家保安省に勤めていて、あっちの世界では『勇者パーティー』の一員で、昔からの知り合いであるお母さんが自慢そうに語ってくれたのに……。


 ふと。

 気になった私はアルーさんに質問することにした。……優菜からのお説教から助けてあげようという意味も兼ねて。


「そういえば、アルーさんってあっちの世界で勇者パーティーの一員だったんですよね?」


「そうよ! あ、いや、そうよ」


 また大声を出したアルーさんは優菜から一睨みされ。小声で返事をし直したのだった。


「え、え~っと、それじゃあ魔王を倒したんですか?」


「ふふ~ん、そうよ。『勇者様』は凄いんだから! なにせ誰も抜けなかった聖剣を引き抜き! 誰も寄せ付けなかった聖なる鎧に気に入られ! 歴代最速で魔王をボコしたんだから!」


「ボコした、って……」


 凄いのだろうけど、言い方のせいで……。


「まぁ魔法は不得手というか攻撃魔法一辺倒なのだけど。その辺は私がサポートしたから何の問題もなかったわ! そう! 優秀な私――あ痛ぁ!?」


 また大声を出し始めたアルーさんの脳天に、優菜が容赦なく空手チョップした。


「すみませんユリィさん。アホがアホで騒がしいからまたあとでお見舞いに来ますね。今度は一人で」


「え、あ、うん。……そ、そういえば、アルーさんが回復魔法を掛けてくれたんですよね? ありがとうございました」


「ふふん、いいのよ。優菜のパーティーメンバーが死んじゃったら目覚めが悪いし、それに――」


「それに?」


「ううん、若いのだから命は大切にしなさいってこと。人間なんてただでさえ寿命が短いのだから――いや、あなたはハーフエルフの中でも血が濃いから無用の心配かしらね」


「あ、はぁ……」


「じゃあ、ゆっくりしなさいね。回復魔法はあまり強くかけ過ぎると逆に身体に悪いから、完全にはくっつけてないの。最低でも二週間は安静にしていること」


「は、はい」


 病室を出て行く優菜とアルーさん。

 そんな二人の後に続いていたミワさんが振り返り、小さく微笑みかけてきた。


「アース・ドラゴンは私たちが討伐しましたので、ご安心を」


「え? ミワさんたちが?」


 そりゃあアルーさんは勇者パーティーの魔法使いなのだから強いのだろうけど、ミワさんも?


「えぇ。私たち、見た目よりは長生きしていますし。それにあちらの世界は、こちらの世界よりもドラゴンと遭遇することが多いですので。対処法も熟知しているのです」


「は、はぁ……」


「ですので。――あまり詮索しない方がいいですよ?」


 詮索? 余計なことを調べるなってこと?


「それは、一体どういう……」


 ボクの疑問に答えることなく、ミワさんは病室を出て行ってしまったのだった。




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