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第31話 帰って来た日常



 翌日の朝。


 今日から学校は休み。

 つまりは天国である。


 ……おっと、ユリィさんが死にかけたのだから喜ぶわけにもいかないよね。


 学校が休みだろうがうちのアパートの社会人組には関係なし。というわけで、まずはアルーの部屋を強襲した私である。


「アルー、朝だよ~?」


「うひ~ん、起きたくな~い。行きたくな~い」


「そんなこと言ったって今日から忙しいんでしょう? 学校に調査に入るのだから」


「うぅ、私は部署が違うのに……なんで監査に同行を……」


「そりゃあ『勇者様』案件だからでしょうが」


「いつもの仕事は減らないのに~、監査まで~。優菜~、デートしてぇ~」


「はいはい。今度の休みにしてあげるから」


「――言質取った!」


 きゅぴーん、みたいな感じでベッドから起き上がるアルーだった。なにやら妙にカッコイイポーズまで決めている。パジャマ姿なのに。


「約束よ! デートよデート! 素敵な夜景が見えるレストランでワイングラスをチーンと!」


「いや、私学生だから無理かなぁ」


「そんな!?」


 ガーンッとショックを受けるアルーだった。そしてそのままベッドに倒れ込む残念女。しまったせめて着替えてから否定するべきだったか。





 アホのアルーをなんとか送り出し。私はミワの部屋へとやって来たのだった。


 妖精さんによるとまた徹夜したっぽい。まったくしょうがないなぁと思いながら私はミワの部屋のドアを開け放ったのだった。


「ミワー。起きてるね。お弁当だよ」


「ひーん! 優菜さん! 締め切りに間に合いません!」


「いつものことじゃん」


「いつものことですが! 優菜さんにダンジョンまで呼び出されたのでさらに時間がないんですよ!」


「いや呼び出したのはアルーだけだし」


 ユリィさんを助けるために回復魔法が得意なアルーだけを呼び出したのだけど。どこからか受信(?)したミワも駆けつけたんだよね。


「とにかく! 今日は優菜さんに原稿を手伝ってもらいましょうか!」


 るんるんとするミワ。うん、私としても本当に困っているなら助けてあげたいのだけど……。


「私、デジタルは本当に分からない」


 最初の頃はミワも紙原稿を使っていたから手伝えたのだけど。

 あと、プロ作家として重版や続刊をバンバン決めている人の原稿を素人が手伝うのもどうかと思ったし。


「教えます! ――いや! 教えていては原稿が間に合いませんか!」


 おぉ、ミワが真っ当な判断を。ほんとにマジでヤバいっぽい。


「こうなったら――優菜さん! 応援してください!」


「応援?」


「はい! 優菜さんの応援があれば! 時速1.1倍での作業が可能なのです!」


 原稿って時速換算でいいの?

 1.1倍って、それでいいの?


 私が突っ込もうとしていると、ミワが床のゴミ溜め――じゃなくて、雑に放置された衣服の山に手を突っ込み、何かを取り出した。


「さぁ! このチアリーダー服を着て応援してください!」


「…………」


 チアリーダー服。

 おへそ丸出し。スカート短い。ちょっと素人にはハードルが高すぎる衣装だ。なにより目の前にいるのがヘタレとはいえ野獣。


「……お疲れ様でした~」


 片手を上げながら玄関に向かうと、ミワが泣きながらすがりついてきた。


「あー! ごめんなさい! 変なこと言わないですから応援だけでもしてください! ほんとに! 心が折れないように!」


 マジでヤバいならふざけなければいいのに……。ため息をつくしかない私だった。





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