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第32話 エルフ


 ――一週間経過して。

 国家保安省が調査した結果、学校のダンジョンでは他のドラゴンを確認できなかったそうだ。


 しかし、そうなると『どこからやって来たのか』という問題が出てきてしまう。伝説級のドラゴンなら空間を引き裂いて――なぁんて可能性もあるけれど、あのとき出てきたのはドラゴンの中でも格下なアース・ドラゴンだし……。


(そもそも、あれは子供だったはず。ならばどこかに親がいても不思議じゃないのだけど)


 偶然空間が割けて、子供だけこっちの世界に落ちてきた・・・・・とか? いやそれでもアース・ドラゴンが落っこちるレベルなら国家保安省も気づくだろうから……卵の状態で落ちてきて孵化したとか?


(まぁ、私が考えてもしょうがないか)


 アルーを含めた専門家が『いない』と判断したのだ。なら、私がとやかく言うことじゃない。


 国家保安省の調査は終了したのだけど。ダンジョンは当面封鎖されるようだ。


 これは学生の安全対策という意味もあるけれど、一番の目的は『ドラゴンがいるのか! 素材ゲットだぜ!』という冒険者が乱入しないようにするためらしい。多くの学生が出入りしているとどうしても『隙』ができるけど、最初から封鎖してしまえば対策も取りやすいのだとか。


 ま、とにかく。私としてはダンジョンに入らなくても成績に問題なさそうなので万々歳だ。むしろ卒業まで封鎖してくれてもいいんじゃないかな?


「さすがに駄目だと思うなぁ」


 ユリィさんが入院している病室で。そんな話をしたら呆れられてしまった。


「でも、楽して卒業できるならそれでいいのでは?」


「いや、国家保安省入りを目指す優菜ならそれでいいかもしれないけど。冒険者を目指す他の皆は駄目だと思うな」


「いやいや、今回の件は凄く参考になったじゃないですか。『初心者用ダンジョンでも油断すれば死ぬぞ』って。これはきっと学校に通う三年間分の学びになったことでしょう」


「凄くいいこと言ってる……サボりたいだけなのに……」


 なぜかユリィさんに呆れられてしまった。まぁ、大ケガから順調に回復しているようで何よりだ。


「早く身体を動かしたいなぁ。ずっとベッドの上だから身体が鈍ってきたよ」


「羨ましい限りです。私も身体が鈍るくらいのんびりしたいですねぇ」


「じゃあ、優菜もアース・ドラゴンの尻尾で殴られてみる?」


「もっとこう、平穏無事な方法でベッドと結婚したいですね。宝くじ当たるとか」


「夢を見るのは素敵だけど、妄想は夢とは言わないんだよ?」


 可哀想なものを見るような目を向けられてしまった。


「そういえば、アルーさんのストーカーはどうなったの?」


「この前なんだかアパートを覗かれている気がしましたが、それだけですね」


「え゛? アパートを? それ、結構危なくない? お母さんに見回りしてもらおうか?」


 たしかにユニーさんの見た目なら威圧感抜群だろうけど……。


「ユニーさんだってお店があるのですから、駄目ですよ」


「優菜とアルーさんのためなら喜んでお店を休みにしそうだけどなぁ」


「……簡単に想像できるから、やっぱり駄目ですね」


 ありがたいですけど。と、締めくくった私だった。





 ユリィさんのお見舞いも終わり、帰路につく。


「あ、そうだ。ユニーさん」


 話題に出たばかりだったため、ふと思いつく。ユニーさんのお店に行っておいたほうがいいんじゃないかなぁっと。ユリィさんは元気でしたよって。あと現場に居合わせた私の口からも説明しておいた方がいいだろうし。


「私がもう少しちゃんとしていれば、ユリィさんもあんなケガをしなくて済んだのだし」


 油断していた。

 ユリィさんのスキルに頼りすぎた。

 そもそも、私に実力が足りなかった。


 あっちの世界・・・・・・にいた頃は、もう少し上手くやれたような気がする。いつだったかアルーに『鈍ったんじゃない?』みたいなことを言ったけど、私だってそうみたいだ。


「本格的に鍛え直した方がいいなぁ……。ん?」


 視線を感じた。


 近づいて来たのではなくて、突如として現れた・・・


「…………」


 なんだかまた面倒くさそうなことに巻き込まれそうだなぁと思いながら、振り向く。


 夕日を反射して煌めく金髪。

 お人形さんのように真っ白な肌。

 ビスクドールが如く整った顔つき。


 そして何より、横に長く伸びた耳。


 ――エルフだ。


 外見年齢は20歳前後だろうか? でも、エルフは見た目で判断できないので20歳かもしれないし200歳かもしれない。


 まだまだエルフが貴重なこの世界で。私の知り合いではないエルフが、じっと私を見つめていた。


 これ、私に用事があるんだよね?


「あの~、何か御用ですか?」


 面倒くさいことになりませんようにと願いつつ、問いかける。


 そんな願いも虚しく。エルフの女性はその要求を口にした。


「ここでは邪魔が入るかもしれないわ。付いてきなさい」


 拒否権はなさそうだった。



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