「ぎゃーーーーっ!?」
「やーーーーーっ!?」
聖剣レヴァンティンの気配を察知したアルーとミワは絶叫した。
「どこ!? どこで抜かれたの!?」
「ダンジョン! 学校のダンジョンです!」
「なんでそんなところに!? じゃなくて! すぐに向かって――」
アルーたちの行動は、遅すぎた。
「あんぎゃーーーーーーーっ!?」
「いぃやぁーーーーーーーっ!?」
レヴァンティンの一撃。この街を中心に国中で乱れる魔力。そして何より、学校の方角から斜めに吹き上がった炎の柱。
「あのおバカ! あれだけ聖剣を使うなって!」
「でも! 自重したせいでユリィさんが大ケガしましたし!」
「それはそうだけど! ――おうぇえ」
「うげぇえ」
急激に乱れた魔力のせいで、魔力酔いの症状に陥る二人。きっとこの街――いいや、この国のそこら中で似たような症状が続出しているだろう。あるいは海外にまでも波及しているかもしれない。
優菜がレヴァンティンを使うと、これだ。
歴代勇者にとっては固く、よく斬れるだけの剣。しかし優菜は
つまりは、炎の巨神スルトによって振るわれ世界を焼き尽くした炎。この世界においては単なる神話であるが、あちらの世界では神代に起こった事実なのだ。
「何でよぉ……なんで学校のダンジョン程度で聖剣を使っているのよぉ……」
「ゆ、優菜さんは遊び半分で抜くような人じゃありませんし……きっと何か理由が……」
魔力酔いによって地面に両手を突きながら、そんなやり取りをする二人。
「――ったく、情けねぇ」
そんな二人の周辺が光に包まれ、魔力酔いが急激に改善されていく。どういう理屈かは知らないが、おそらく『賢者の知恵』にはそのような術もあるのだろう。
心底呆れ果てた目でアルーとミワを見下しているのは……ファル。かつての勇者パーティの『賢者』であり、今は優菜の通う学校で図書館司書をやっているはずだ。
「なんで、ファルがこんなところにいるのよ?」
「そうですよ。学校の先生なら学校にいたのでしょう? どうして止めてくださらなかったのです?」
「ばーか。今は休校中だ。休みなんだから図書館に行っていたに決まっているだろうが」
やれやれと肩をすくめるファル。存分に鼻を鳴らしてから視線を学校の方向へと向けた。
先ほどまで立ち上がっていた炎の柱は、すでに消えていた。
「本気でやればまだ火柱は残っているはずだからな。優菜なりに手加減したんだろ」
「「あれで……?」」
異口同音なアルーとミワだった。やはりこの二人は何だかんだで仲がいい。
そんな二人に対してファルが鼻を鳴らす。
「さて、お二人さん。楽しい楽しい後処理のお時間だ。優菜のアホが平穏な学生生活を送れるよう、完璧な工作をしてやろうじゃないか」
「「うへぇ」」
「……不満そうだがな? 『監視のため』と嘘をついて同じアパートに住んでいるのに、こんな状況になっちまった責任追及をしてもいいんだぞ?」
「さぁ! 頑張って後処理しましょうか!」
「とりあえず! 悪いドラゴンが出たという方向で話を進めましょう!」
すくっと立ち上がり、学校に向かうアルーとミワ。
そんな二人のすぐ後ろに続きながら、ファルは面倒くさそうにため息をつくのだった。