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第37話


「ぎゃーーーーっ!?」


「やーーーーーっ!?」


 聖剣レヴァンティンの気配を察知したアルーとミワは絶叫した。


「どこ!? どこで抜かれたの!?」


「ダンジョン! 学校のダンジョンです!」


「なんでそんなところに!? じゃなくて! すぐに向かって――」


 アルーたちの行動は、遅すぎた。


「あんぎゃーーーーーーーっ!?」


「いぃやぁーーーーーーーっ!?」


 レヴァンティンの一撃。この街を中心に国中で乱れる魔力。そして何より、学校の方角から斜めに吹き上がった炎の柱。


「あのおバカ! あれだけ聖剣を使うなって!」


「でも! 自重したせいでユリィさんが大ケガしましたし!」


「それはそうだけど! ――おうぇえ」


「うげぇえ」


 急激に乱れた魔力のせいで、魔力酔いの症状に陥る二人。きっとこの街――いいや、この国のそこら中で似たような症状が続出しているだろう。あるいは海外にまでも波及しているかもしれない。


 優菜がレヴァンティンを使うと、これだ。


 歴代勇者にとっては固く、よく斬れるだけの剣。しかし優菜は相性が良すぎて・・・・・・・歴代勇者が誰一人起動できなかった神話の力を再現できるのだ。


 つまりは、炎の巨神スルトによって振るわれ世界を焼き尽くした炎。この世界においては単なる神話であるが、あちらの世界では神代に起こった事実なのだ。


「何でよぉ……なんで学校のダンジョン程度で聖剣を使っているのよぉ……」


「ゆ、優菜さんは遊び半分で抜くような人じゃありませんし……きっと何か理由が……」


 魔力酔いによって地面に両手を突きながら、そんなやり取りをする二人。


「――ったく、情けねぇ」


 そんな二人の周辺が光に包まれ、魔力酔いが急激に改善されていく。どういう理屈かは知らないが、おそらく『賢者の知恵』にはそのような術もあるのだろう。


 心底呆れ果てた目でアルーとミワを見下しているのは……ファル。かつての勇者パーティの『賢者』であり、今は優菜の通う学校で図書館司書をやっているはずだ。


「なんで、ファルがこんなところにいるのよ?」


「そうですよ。学校の先生なら学校にいたのでしょう? どうして止めてくださらなかったのです?」


「ばーか。今は休校中だ。休みなんだから図書館に行っていたに決まっているだろうが」


 やれやれと肩をすくめるファル。存分に鼻を鳴らしてから視線を学校の方向へと向けた。


 先ほどまで立ち上がっていた炎の柱は、すでに消えていた。


「本気でやればまだ火柱は残っているはずだからな。優菜なりに手加減したんだろ」


「「あれで……?」」


 異口同音なアルーとミワだった。やはりこの二人は何だかんだで仲がいい。


 そんな二人に対してファルが鼻を鳴らす。


「さて、お二人さん。楽しい楽しい後処理のお時間だ。優菜のアホが平穏な学生生活を送れるよう、完璧な工作をしてやろうじゃないか」


「「うへぇ」」


「……不満そうだがな? 『監視のため』と嘘をついて同じアパートに住んでいるのに、こんな状況になっちまった責任追及をしてもいいんだぞ?」


「さぁ! 頑張って後処理しましょうか!」


「とりあえず! 悪いドラゴンが出たという方向で話を進めましょう!」


 すくっと立ち上がり、学校に向かうアルーとミワ。


 そんな二人のすぐ後ろに続きながら、ファルは面倒くさそうにため息をつくのだった。



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