ラプンツェルとの戦いから数日が経過していた。あれから赤ずきんは戻ってきていない。
あれほど騒がしかった九朗の部屋は、今ではすっかり静まり返り、まるで時間が止まったかのようだ。静寂というものは、心を締め付ける毒だ。思い出したくもない記憶を、いやでも手繰り寄せる。それは、世界中に人間が自分ひとりしかいないような、深い孤独感を思い起こさせるのだ。
九朗にとって、孤独は逃れられぬ地獄の監獄。鍵は失われ、出口もないその牢獄で、彼はただ耐えることしかできない。どこへも行けず、何をすることも許されない。孤独という存在は、まるで心を蝕んでいく病のようだ。現実が溶け、頭の中に不気味な囁きが響くたび、九朗は狂気の淵に追いやられていく。
あれから赤ずきんの姿を探して歩き回った。しかし、思い当たる場所をすべて訪ねても、彼女の影すら見つからなかった。まさか、死んでしまったのか。そう思う一方で、目を閉じ、意識を研ぎ澄ませば、微かに感じるものがある。赤ずきんとの契約が繋がっているような、細くも切れぬ糸の感覚。それが示しているのは、彼女がまだ生きている、という事実。
では、彼女はどこにいるのか。なぜ自分の元へ帰ってこれないのだろうか。愛想を尽かされたのだろうか。しかし、あの激しい性格と、こちらを狂おしいほどに求める狂気じみた愛情……そんなものが、そう簡単に揺らぐとは思えない。だからこそ、答えはひとつしかない。彼女は意図的に戻らないのだ。それがどんな理由によるのかは分からないが、何か強い意思がそこに介在しているはずだ。
ラプンツェルとの戦いの記憶が頭をよぎる。狼化した後の出来事は朧げで、はっきりと思い出すことはできない。それでも、その前に彼女がラプンツェルと激しい口論をしていた場面が、断片的に脳裏に浮かんだ。
呪い……。ラプンツェルの
ラプンツェルが『裏切らせないための人質だ』と言っていたその言葉。その人質は、一体誰に向けたものなのか。
そう考えれば腑に落ちる。ラプンツェルや
と、いうことは赤ずきんは呪いを解こうとして自分の元を離れたのではないか。もしそうだとするならば、行き先は
だが、問題はそこだ。彼女は
やみくもに探すわけにはいかない。時間を浪費するばかりだ。それに、もし彼女がすでに何らかの手掛かりを得ているのならば、自分が追い付くまでに状況が大きく動いてしまう可能性もある。何か確かな手掛かりが欲しい。だが、その手掛かりをどこで探せばよいのかも、今の自分には分からない。
九朗は自室の少し広くなったベッドに体を投げ出した。その柔らかな感触は変わらないが、隣にあったはずの温もりがないことが、心に小さな痛みをもたらす。いつもの温もり。それが恋しい。どれほどの時間が経っても、この孤独感だけは消えない。
ふと、目に入ったのは棚に仕舞い込まれていた一冊の本だった。
がばっと体を起こし、ベッドから飛び出す。
そうだ。
九朗は起き上がると、棚から例の
一瞬、九朗の手が止まる。開けば
意を決した九朗は、ゆっくりとページを開いた。
次の瞬間、眩い光が部屋中を満たした。それはまるで、空間そのものを押し広げるような強烈な閃光。目を開けていられるわけがない。九朗は思わず目を細め、瞼が自然と狭まる中で視界のわずかな隙間から覗く世界は、光の海に完全に覆われていた。その光の向こうに、何かが見えたような気がする。人影だ。いや、確かに人影だった。それはまるで少年と少女の姿をしていたように見えた。