「はあ、はあ…」
疲れ切ったエイジはようやく、監視カメラなどのない田舎町に逃げ込む事に成功した。
「はあ…。ここまで来れば……」
だが安心したのもつかの間だった。
「そこまでだよ、エイジ」
「……缶コーヒーを飲む時間すら与えてくれないのか」
「アラートレベル5。
神秘的な雰囲気を醸し出している美少女『
「ふーん、キミがエイジか。私がここに来た理由はもう分かっているよね?」
刹那、黒いスーツに身を包んでいた、一見ビジネスマン風の男の姿がかき消えた。
「遅い!」
次の瞬間には男は、エイジの目の前に立っていた。
「!」
「やれやれ。もう少し私を楽しませて……」
リリムが危険を知らせた通り、男の戦闘能力は第一級ソルジャーのそれにふさわしいものだった。
だが───エイジは男の攻撃に反応して防御する。
「何っ!?」
男は驚いた表情でエイジを見るが、次の瞬間には胸部がへこみ、口から血を流していた。
「『アイランド』も地に堕ちたもんだな。今はこの程度の男でも第一級ソルジャーになれるのか」
エイジは吐き捨てるように呟くと、念の為死体を確認する。
武器や現金など、役に立つ物を持っているかも知れないからだが。
「………お。結構武器を持ってんな」
男のアタッシュケースの中には銃や爆弾など色々なものが入っていた。エイジはアタッシュケースごと戴くことにした。
リリムも男の死体をスキャンニングした結果、驚愕の事実を知る事となる。
「………エイジッ!!」
「なんだ?」
リリムが一度言葉を切ると、エイジに衝撃の事実を伝えるべく、その音声を最大音量で流す。
「この男の腹部に、機械反応があります!」
「……なに!?」
「しかもこの反応は……まさか!?」
リリムが言葉を詰まらせたその時。男の死体が突如爆散した。
「くっ!?」
エイジは咄嗟に防御態勢をとるが、爆風と破片は防ぎきれずに後方へと吹き飛ばされる。
(俺とした事が、こんな古典的な罠にっ!?)
エイジはそのまま気を失った。
◇◇◇◇◇
「ん…ここは?」
目を覚ましたエイジは驚いた。何故自分が森の中に倒れているのか?
「リリム…ここがどこか分かるか?」
「解りません。私のデータに無い森です。さらにここはネットワークから全て遮断された、不可解な場所です」
オートマチック腕時計のように、振動がある限り半永久的な動力を得られるリリムは、常にネットワーク接続されているため、エイジが知りたい情報が瞬時に手に入る。
しかし今いる場所は、リリムですら知らない場所らしい。
「エイジ……それにアナタの外見ですが」
「うん? 俺の外見がどうか……ん?」
リリムの問いかけを遮るように、何かに気づいたのか、エイジは前方を見つめる。
「あれは……何かいる」
“アイランド”にいた時から、特殊訓練と特殊ドーピングで常人を遥かに凌ぐ身体能力を持つエイジ。
その聴覚は、人の悲鳴と怒鳴り声がハッキリと聞こえた。
「今の聞こえたか、リリム」
「はい。しかし……」
「なんだ?」
リリムは言いにくそうにしながら、エイジに伝える。
「ここはネットワークから遮断された世界です」
「それはさっき聞いたよ。何か問題あるのか?」
「つまり……今の怒鳴り声は、ホモ・サピエンスのものではないと確率が大きいです。リスク的にも…」
リリムの言うことも一理ある。そうでなくとも痕跡を残さぬよう、行く土地行く土地で偽造の身分証明を作っていたエイジだ。
余計な事に首を突っ込まないように、トラブルには敢えて関わらないようにしていた。
「けど……聞こえるんだよ、悲鳴と。脅しているような怒鳴り声が」
「エイジ……」
リリムはそれ以上何も言わなかった。
“アイランド”にいた時からのエイジを知っているリリムには、分かっていたのだ。危機に瀕している人を、見過ごす事の出来ない性格だという事を。
「分かりました。データにない土地で地元の人間を助けるのは、あとで利益になる可能性もあります」
「ありがとう、相棒」
「いえ」
そしてエイジとリリムは声の方向へと走り出した。
◇◆◇◆◇◆◇
(な、なんだ!?)
「貴様ら! 動くな!!」
エイジ達が到着すると、そこには馬に乗った50人ほどの騎馬兵達、そして数人の幼い少年・少女を囲んでいる甲冑姿の兵士達がいた。
だが少年や少女は手足を縛られているどころか、両足首には鉄球が付けられており逃げられないようにされていた。どうひいき目に見ても誘拐、もしくは拉致である。
「何をやってるんだ?」
「誰だ貴様は!? よそ者が口を出すな!」
「どうやら言語や会話によるコミュニケーションは可能のようですね」
しかしリリムのアドバイスを他所に、エイジの中で“スイッチ”が入る。自分もこうしてアイランドに連れてこられたからだ。
「10秒だけ待ってやる。その子らを置いてさっさと失せろ」
指をバキバキと鳴らしながら、エイジは騎馬兵たちを威嚇する。
「貴様ぁ! 我々に歯向かう気か!?」
騎馬兵の一人が剣を抜こうとするが、その肘から先が逆方向に曲がっている。
「ぐあぁあ!」
エイジは文字通りの目にも留まらぬ速さで男の腕を掴み、肘打ちで逆方向にへし折ったのだ。
そしてそのまま続けて次の男に狙いを定める。だが───
「くたばれぇえ!!」
一人がやられても他の兵士がいると言わんばかりに、馬上から槍を持ってエイジに向けて突撃する。
「挟み撃ちにして死角からの攻撃か。少しは頭を使うじゃないか」
しかしエイジは騎馬兵の槍を難なくかわし、片手で掴んだ。
「な!?」
「ふんっ!」
驚く騎馬兵に構わず、エイジはそのまま馬から引きずり下ろす。
そしてそのまま兵士の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「ぐああ! は、離せ!!」
「離してあげましょう、エイジ。あなたならそのまま頭部を握りつぶしかねません。それにこの連中から情報を聞き出すのも、悪い選択ではないでしょう」
リリムの助言と共に、エイジは掴んでいた兵士の頭を離した。
「けほっ! げほっ!」
その場に崩れ落ちる兵士。
「お前に幾つか質問がある。正直に答えろ」