「は、はいいっ!!」
エイジは兵士を見下ろしながら、質問をする。
「お前らの目的はなんだ?」
「我々は帝国の志願兵徴収部隊の者だ…」
「志願兵? どう見てもただの誘拐だろう、あれは」
怒りを通り越し、呆れた表情を浮かべるエイジ。
「リリムの精神診断によれば、この連中は虚言を吐いている可能性は0.7%です。恐らく都心部の人間を減らしたくはない判断だと思います」
「だから地方の子供を誘拐か。呆れた連中だな」
「エイジ。どうしますか?」
リリムの問いに、エイジは
「ほっとく訳にもいかないしな。とりあえず……お前ら帝国の隊とか言っていたな?」
「ひいっ!?」
怯える兵士を見下ろしながら、エイジは更に問いかける。
「だったら国のエライ奴に言っておけ。こんな真似するなら今後は容赦しない、とな」
すると───兵士が突然笑い出した。
「……何がおかしい?」
「ハハハハ! そうか、貴様はこの世界の人間ではないのか!」
「なるほど! 貴様も女神によって異世界に召喚された勇者とやらか!」
兵士は笑いながら、エイジを嘲る。
「だったらなんだ?」
───!?
「この男が発している言葉は日本語とは全く違います。しかし原因は分かりませんが、自動翻訳され私達に伝わっているようですね」
リリムの言う通りだった。彼らの言葉がスムーズに翻訳され、会話が出来る能力が身についてるらしい。
しかしアイランドで32ヶ国語を話せるように教育された俺でも、説明がつかない事もある。
それは目の前の騎馬兵達が、全員中世ヨーロッパのような同じ甲冑を着ている事である。
「リリム。もう一回あいつらをぶん殴って戦闘不能にする。その間その子たちを守ってくれ」
「はい。了解しました」
「んじゃいくぜ!」
剣を振るわせるまでもなく、素手や蹴りで兵士たちを次々に“制圧”していくエイジ。
「な、なんだコイツは!?」
「俺達の剣術が……まるで通用しない!?」
兵士たちの慌てた声には一切耳を貸さず、エイジは手刀で、または回し蹴りを繰り出して一人ずつ気絶させていく。そして最後の兵士もその場に崩れ落ちた。
(点穴術が効くのか…?)
少林寺拳法でいう急所経穴を突いた“点穴術”が効くことに、エイジは内心驚いた。
「エイジ」
リリムに呼ばれ、エイジはそちらを振り向くと怯えた子達がいた。
「恐れる事はない。俺と彼女はキミ達の敵じゃない」
「あ、ありがとうございます!!」
弟を連れているっぽい、一番年長に見える少女が改めて頭を下げた。
「キミ達は公国隊とやらに、ここに連れてこられたのか?」
「はい」
「エイジ」
リリムは子供達に心配をかけないよう、極力小声で話す。
「先ほどの連中は子供を連れてこれなかったと分かったら、すぐに体制を整え直し、また子供達を誘拐に来ると判断します」
「ようはさっさと立ち去った方がいい、って事か?」
「はい。さらに大規模の徴収隊が来る確率は高いですが、少なくともここに留まっているよりは効率的かとリリムは考えます」
確かに、と俺は考えた。
「それと……この子供達の人数ですが、10人です。これほどならばかなりの確率で、近くの村や集落から連れ去られた可能性が高いです」
「とりあえずこの子達は村に戻してやろう。気の毒すぎる」
「エイジ、このまま彼等に付いて行きますか?」
「ああ。礼という訳ではないが、水の一杯ももらいたい。それとこの世界に関する情報も」