力の限り振り上げたメイスは、油断しきっていたジュエルリザードの顎に直撃する。
もともと宝石の守りの少ないそこを叩いたメイスはすんなりと肉に食い込み、そのままその顎を粉砕した。
「グラアァァアァッ!?」
なにが起きたのか理解できていない間に追撃のメイスをお見舞いすれば、その一撃を受けたリザードの首は深く抉れるように消し飛んだ。
そうして支えを失った頭が地面に向かって下がり、瞳から光が失われるのとほぼ同時にその巨体は無数の宝石を残しながら霧となって消える。
「よし、これでまずは1匹。……っと!?」
小さく呟きながら息を吐いた私は、迫りくる嫌な予感にはじかれるようにその場から離れる。
その次の瞬間、もう1匹のジュエルリザードの吐いたブレスがさっきまで私の立っていた地面を中心に爆発を起こした。
「ふぅ、危ない危ない……。さすがに、何度もブレスに当たるのは面倒だからね」
1対1になった余裕から軽口を叩く私とは反対に、仲間を殺されたジュエルリザードは怒りのこもった瞳で私を睨みつけてくる。
その身体からは魔力が噴出し、それに合わせて身体中の宝石がキラキラと点滅を繰り返す。
「へえ……。ジュエルリザードって意外と仲間意識が強いのね。それにその宝石、魔力を溜め込んで光ってるのかしら?」
遭遇率が低いせいで、ジュエルリザードの生態については分かっていないことの方が多い。
どうせだったら色々と試してみたいところだけど、残念ながら今日はそんな余裕がない。
イレギュラーを解決しないといつまで経っても他の探索者がダンジョンに入ってこれないし、近くではまだ凛子がロックリザードたちと戦っている。
さっき見せてもらった通りの実力があれば大丈夫だとは思うけど、万が一に備えて助けに入れるようにしておきたい。
なにより、時間を掛ければ掛けるほど
「というわけで、サクッと倒させてもらうわ。悪く思わないで、ねっ!」
言葉と同時に駆け出した私に、ジュエルリザードのブレスが連続で襲い掛かる。
さっきまでとは比べ物にならない威力だけど、当たらなければどうということはない。
迫りくるブレスの弾幕を縫うように避けながら、私はジュエルリザードへ向かって全速力で駆け寄っていく。
ブレスの横を通り抜けるたびにその余波で服が焦げ肌が焼けるけど、そんなことで私は止まらない。
やがてリザードの目の前までたどり着いた私は、力を込めてメイスを振り上げる。
「さっきは無理だったけど、今度こそっ!」
全力を込めてメイスを振り下ろせば、額の宝石とぶつかったそれはさっきと同じように鈍い音を立てて弾かれる。
だけど今回は、それだけでは止まらない。
「まだまだぁっ!!」
弾かれた勢いを利用するようにしながら、額の宝石へ向けて何度もメイスを振り下ろす。
もはやメイスと宝石のどちらが先に潰れるかの根競べのような状況に、無意識のうちに私の口元は笑みに歪む。
そしてその瞬間は、唐突に訪れた。
何度目かの激突によって額の宝石には深いヒビが入り、同時にメイスはどうしようもないくらいに曲がってしまう。
「グルァアァァ!?」
宝石の割れた痛みに悶えるリザードに対して、私は浮かんだ笑みをさらに深くする。
「これで、終わりっ!!」
興奮を抑えきれずに叫びながら、私は
ズンッ!と音を立てて飲み込まれたメイスはリザードの頭を割り、そしてその身体は霧となって消えていった。