「それじゃ、後は任せたわよ!」
短くそれだけ言って、穂花ちゃんは振り返ることもなくモンスターの群れの中へと突っ込んでいった。
メイスでモンスターを殴り飛ばしながら道を作りながら突き進んでいく彼女の背中を見つめ、私は小さく息を吐きながら口を開く。
「よし、やるぞ……! 私だって、強くなるんだ!」
パチンっと両手で頬を叩いて気合いを入れ直した私は、その視線をロックリザードの群れへと向ける。
さっきの魔法で多少は数が減ったとはいえ、そこにはまだかなりの数のロックリザードが残っている。
ジュエルリザードよりは小さいけど、それでもその体長は1メートル以上はある。
しかもさっきまでと違い明確な敵意を持って私を睨みつけていて、その無数の視線は気を抜けば膝が震えてしまいそうなほどの威圧感があった。
「だけど、負けない! このくらいの恐怖に耐えられなかったら、一番になんて慣れないんだからっ」
全身から魔力を迸らせながら、私は次の魔法を準備する。
「冷えた身体を温めてあげる。フレイムバレット!」
発動と同時に無数の炎の球が、ロックリザードへ向かって飛んでいく。
冷気によって動きが鈍くなっているロックリザードたちはそれを避けることもできず、直撃を受けたロックリザードの数匹が霧になって消える。
それでも多くのロックリザードは、さっきと同じように身体を覆う岩で炎を防ぐ。
防御姿勢を取った彼らに向かって炎の球は絶え間なく襲い掛かり、ロックリザードはその全てを岩で受け止める。
全てを打ち終わった頃には、ロックリザードたちの岩は熱によって真っ赤になっていた。
「グルルァッ!」
それでもそんな熱をものともせず、リザードたちは私へ向かって一斉に飛び掛かってくる。
視界を埋めつくすほどのリザードたちに少し怯みながら、それでも私は再び魔法を発動させた。
「スプラッシュッ!!」
発動とともに指を鳴らせば、現れた大きな水の塊はリザードたちの頭上で弾けて降り注ぐ。
ジュウッと水の蒸発する音が響き渡ると同時に、急速に冷やされたロックリザードの岩はひび割れ砕ける。
「グルゥッ!?」
突然の事態に理解できないと目を丸くするリザードたちに対して、私は勝利を確信する。
「岩の守りがなくなれば、ただのデカいトカゲね。これで終わりよ、ウィンドサークルッ!!」
渦を巻く風の刃がロックリザードたちを巻き込み、守りのなくなった彼らの身体を何度も切り刻む。
そしてその渦が消えた時には、巻き込まれた無数のロックリザードたちも全て霧となって消えていた。
「ふぅ……、勝ったぁ!」
緊張から解放された私は、大きく息を吐きながら声を上げる。
いくら相性がいいとは言っても、相手は中層ではトップクラスに危険な相手。
それも複数を同時に相手するなんて、初めての体験だ。
まさに大金星と言っていいだろう。
だからだろうか、私はすっかり油断してしまっていた。
安全を確認する前に警戒を解くなんて、初心者のようなミス。
それを犯してしまった私に向かって襲い掛かったのは、風景に溶け込むように隠れていた1匹のロックリザード。
「ヤバッ!?」
気づいた時には、もう手遅れだった。
目の前に迫る牙に、死を覚悟した私はギュッと目を瞑る。
だけど、予想していた痛みはいつまで経っても訪れなかった。
「大丈夫? ケガはしてない?」
代わりに訪れたのは、心配するような柔らかな声。
目を開けるとそこには、左手をリザードに飲み込まれながら私をかばう穂花ちゃんの姿があった。