ジュエルリザードを倒して一息ついた私が視線を巡らせると、凛子はちょうど最後の大技を放つところだった。
巨大な風の渦に飲み込まれたロックリザードたちが消えていくのをぼんやりと眺めていると、ふと視界の端に動くモノを見つけた。
「あら、討ち漏らしかしら? ちょっと詰めが甘いわね」
さてどうしようかと考えている間にも、敵を全滅させたと思い込んでいる凛子は完全に油断してしまっている。
そのうちに風景に溶け込んだまま背後まで回ったロックリザードは、一気に距離を詰めると彼女に向けてその牙を剥く。
「ヤバッ!?」
その状況にまで至ってやっとロックリザードの存在に気付いた凛子は、ギュッと目を閉じて身を固まらせてしまった。
「ったく、しょうがないわね……」
できる限り彼女に任せるつもりだったけど、どうやらここまでらしい。
全速で駆け出して彼女とリザードの間に入った私は、左腕を突き出してリザードの牙を受け止める。
結果として肘くらいまで飲み込まれ肌には牙が食い込んだけど、なんとかその巨体を受け止めることができた。
「大丈夫? ケガしてない?」
様子をうかがうように声を掛けながら振り返ると、目を見開いた凛子はすぐに泣きそうな表情を浮かべる。
「こーら、そんな顔しないの。まだ配信してるんでしょ?」
「だ、だって……。穂花ちゃんの腕が……」
「ああ、これね。大丈夫よ、これくらい」
今も私の左腕を食い千切ろうとしているロックリザードの首にメイスを叩き込むと、飲み込まれた腕とともにリザードの首が折れる感触が伝わってくる。
そのままリザードの身体が霧になって消えると、そこには折れてズタズタになった私の左腕だけが残った。
「そん、な……。私のせいで、私が油断なんてしたから……」
口元を抑えて、今にも泣き出してしまいそうな震えた声を上げる凛子。
それと同時に、ざわついたコメントたちも視界の端に映った。
”グロ……”
”リンリン助けてくれたのは良かったけど、かわりに貴重なSランク探索者の左腕が……”
”命には代えられないとはいえ、代償が大きすぎる”
”これじゃ治ってもリハビリが必要だろうし、そもそも治るのか?”
”すぐにエクストラポーションを使えばワンチャン? 持ってなかったら詰みだわ”
どうやら彼らも、私のことを心配してくれているらしい。
そんな風に心配されるのは久しぶりで、私は思わず口元を緩めて笑みを浮かべてしまう。
「心配してくれてありがとう。だけど大丈夫よ。これくらいのケガ、
言いながら痛みを堪えて変な方向に曲がった左腕をまっすぐに戻すと、次の瞬間には左腕は何事もなかったあのように綺麗な状態へと戻っていた。
「ふぇっ……!?」
ついでにボロボロになっていた制服や焦げた肌と髪なんかも直していると、そんな私の姿を見て凛子はポカンとした表情のまま抜けた声を上げるのだった。